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83 少し青いくらいで丁度いい

 朝は、悲しいほどに必ず来る。これと言って答えの出ないままピアウトスを出国する日を迎えてしまった。

 ふわっとした気持ちで荷物をまとめ、気が付けば別れを惜しむ時間となってしまった。


 目の前ではメレフ王とレグルス王子が別れの挨拶をしている。少し前まで二人で小難しいお国の話をしていたからか、ピアウトスにいる間メレフ王にべったりだったせいらちゃんも今は私の隣で暇を持て余しているようだ。

 私の手を掴んで揺らしたり体を摺り寄せたりそれなりに退屈しているらしい。そういえば、数日ちゃんと表情を見ていなかった気がする。

 いや、話はしていた。昨日も、一昨日だって寝る前はたくさんお話をしてくれたし。でも私が、自分のことで一杯一杯になって周りを見れていなかった。


 傍に控えてくれている騎士さんたちに手を振ったり、荷物を馬車まで運んでくれたルクバト君にお礼を言ったりして過ごす。

 なんというか。本当にかっこ悪いわね、私。いつもならもう少し周りを気にかける余裕もあったでしょうに。ここしばらく、気付けないところで色々してくれていただろう皆にお礼言えていないなぁ。

 私の意志とは関係なくお礼を言われる機会はあったけど。


 ふっと息を吐いて顔を上げればアルヘナ君と目が合った。

 わかっていたことだけど、すぐに眉間にしわを刻んだまま視線を反らされる。仕方ないとは言え少し気まずい。


「ナナちゃん?」

「ん? なんでもないよ。……でも、その内でいいから、ちゃんと話したいな」

「……ふーん」


 不思議そうな顔をして私とアルヘナ君を見比べるせいらちゃんに返して背筋を伸ばす。

 思い出すのは昨夜のこと。まぁ、うん。思いっ切り怒らせちゃったんだよね。おまけに見ないふりしているのも、言い訳ばかりしているのも全部ばれていた。その上で逃げるなとまで言わせてしまった。

 本当になんで、力が欲しかった人ではなく私だったのか。あの妖精の言う通り充分ワタワタしたんだしもういいだろうと言いたいけれど、そうもいかないんだろうな。逃げるなと言われてしまった手前、じゃあこの銀の針をアルヘナ君に、なんて出来るわけがなく。

 ただただ悔しそうに吐き捨てたアルヘナ君の姿が頭から離れずに、やっぱり意味もなくふっと息を吐き出す。


 このぐだぐだ考える癖も、何とかしないとだなぁ。

 そんなことを考えていたらレグルス王子との話が終わったメレフ王がこちらに向きなおる。


「まだ悩むか?」

「はい。もう少し悩んでみます」


 穏やかな表情のメレフ王につられて弾んだ声になってしまった。

 何とも不思議な心持ちだ。自分で悩むと言っておきながら、ずっと心が軽いことに驚いている。何なら最近無理に口角を上げる方が多かったのに、自然に笑顔を作れてしまっている。

 どうやら私は、思っていたよりもずっとレグルス王子の言葉に救われていたらしい。


 事実私が殆ど意識せずにとっていた行動をレグルス王子は見ていてくれた。その時の私としては、きっと大人として子供を守るのは当たり前だ、なんて建前を並べただけなのかもしれないけれど。

 それでも。銀の針を渡される前からずっと、私はせいらちゃんを守ろうとしていたと。だから大丈夫だと。私にも、針の力じゃなく、誰かを守ったり出来るのだと教えて貰った。

 まだ、突然押し付けられた針の力は怖い。いくら強力な力でも、使う私がどうしようもない人間なので、絶対いつか失敗する。と、思う。もしそれが誰かの命に関わるなら、目も当てられない事態になる未来しか見えない。

 そんな私にレグルス王子は自分たちが支える。その代わりに、自分たちを支えてくれと言ってくれた。大丈夫だと言ってもらったから、少しだけ自分の気持ちと与えられた力について向き合いたいと思えた。


「答えが出るのなら、いくらでも悩むといい。お前は既に結果を残している」

「はい。ありがとうございます」


 きっともっと答えを出すためのプロセスとか、行動を具体的に提示した方がいいんだろうけど。穏やかに告げたメレフ王の笑顔は柔らかくて、それだけでいいと言われている様で、それが何だか嬉しかった。

 結局この人は数をこなして自分に出来ることを自覚しろと、指導してくれたんだろうなぁ。かなり強引にだったけど、それがあったおかげで私が今までぐだぐだと悩み続けていたことと、実際に出来てしまったことは別にして考えていいんだって思えた。

 ふと、和やかな雰囲気の中メレフ王がせいらちゃんに視線を合わせる。


「どうした?」

「めれふくん、またあえる?」

「お前が望むならいつでも」


 名残惜しい気もするがそろそろ出発の時間だ。わざわざ見送りにきてくれたメレフ王にお礼を言って、頭を下げる。

 馬車に乗り込む前に、メレフ王が一つ言葉をくれた。


「細やかながら祈りを贈ろう。旅の行く末が明るいものであるように」


 穏やかで優しい声だった。

 風が吹いて、どこからか飛んで来た木の葉が上空へと舞いあがる。

 来た時は霧に包まれて重苦しかった空も。今は、澄み渡る青。




解決はしていない。それでも、前を向いていられるなら問題はない、はず。

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