81 いつでも自分が最大の敵
森の中を進みつつ、神殿にたどり着く。森の中にある神殿は、管理はされているようだが特別豪奢でもなくシンプルなものだ。
いつもの様にせいらちゃんが触れて、光が溢れて。ミラムやノーモンの遺跡の時の様に魔法石から何かしらが出て来ることも無く、それで終わり。魔法石によって出て来たり何もなかったりする違いって何なんだろう。
とにかく、これで六つ目の魔法石を活性化させた。やっと折り返しになるのか。魔法石の傍から戻って来たせいらちゃんを迎え入れてメレフ王が一同を見回した。
「此度の尽力、感謝する」
静かな声でメレフ王が言った。疫病問題の解決がこの森に入るための交換条件だった。本当に解決できたのかはわからないけれど、原因である土壌の浄化? は出来たみたいだし、苦しんでいる人たちも、少しずつではあるが回復に向かっている。
正直私は針で刺しただけなのでそんな風に言われてもちょっと困る。それでもメレフ王は、今度は真っ直ぐに私を見て口を開くのだ。
「貴様が銀の針を使わなければ、今も我が臣民は病に苦しんだままだっただろう。貴様が何を思うかは自由だ。だが、悩みの答えは出なくとも今は我が臣民を救ったという事実だけを抱えていくといい」
そうメレフ王に言われて、私は一瞬息をするのを忘れた。また、これだ。私はなんでこんなふうに思うんだろう。
いや、原因なんて今はどうだっていい。私はただ、部外者でいたかった。元の世界よりもずっと人の生死が近いだろうこの世界で、何かを背負う立場になりたくなかったのだ。実際、途中までは部外者のような立場で、殆ど蚊帳の外でいられた。
なのに、メレフ王の言う銀の針、妖精に押し付けられた針を持った途端なんだかわからないうちに引き立てられて、こんなことになってしまった。
「例と言っては何だが、一つ忠告をくれてやる。セイラにもかかっているが、貴様にかけられている加護はことが済んだら解いておけよ」
「加護を、ですか?」
「ああ、それは恐らく“怪我を無効化する”加護だ。だが些か強力すぎて、下手に加護を受けたままにすると死ねなくなるぞ」
えぇ? なにそれこわ。いや、私とせいらちゃんにかけられた加護って多分エルナトにかけられたでしょ?
思考がぐるぐるしそうだと思ったのになんかよくわからないことになって来たな。
「気になるのなら加護を解くが?」
「……いえ、そこまでお手を煩わせるわけには。後ほど術者に解かせます」
「悪い奴ではねぇんだけどアイツ、壊滅的に適当なんだよ……」
レグルス王子とアルヘナ君が頭を抱えていらっしゃる。いやまぁアルヘナ君の言う通りの人ではあると思う。せいらちゃんも可愛がってくれているしメレフ王の言う加護だって多分善意だ。
だが適当でもある。実際星の神子の召喚を取り仕切っていたのはエルナトで、その召喚の儀に手違いがあったので、私もこの世界に呼ばれたわけだし。前に前世の縁がどうのと言われたけど、手違いがなければ呼ばれなかったかもだし?
「加護自体は純粋なものだ。故、道中貴様が傷を負っても死ぬことはなかろうよ。それに……これは亡国の、古き血の加護だな」
「亡国、というと千年王国ですか?」
「ああ、恐らくは」
知らない国出て来たな。亡国ってくらいだからもう無いのよね?
私とせいらちゃんにかけられた加護がその国の方法って、エルナトはその国の人の子孫、或いはそれに近しい人なの?
あと古き血ってどこかで聞いたような気がするけど、なんだっけな。
「かつて星の神子を呼んだのはかの国の古き血だった」
「そう、だったんですね。」
「ああ、途絶えたと思っていたが継承している者がいたようだな」
星の神子を召喚した国……。つまり昔も、世界から魔力が枯渇する騒ぎがあった? その時もせいらちゃんの様に誰かしらこの世界に来て、元の世界に帰ることなく過ごした人がいたんだろうか。
こちらの世界にきた星の神子が元の世界に帰ったという話はないと言っていた。ならその人はどうしたのか。世界を救った後、この世界で。
「かの国が何を成し、何故失われたのか知る物はもはやいない。ならば何を信じ、天命を成すのか。その答えくらいは、自分の言葉で持っておけ」
メレフ王の静かな声が森の中に響く。思いの外優しい声で、それが余計に苦しくて。
すぐ傍ではレグルス王子が明るい声で返事をしている。彼は国を、人を、愛する者を守りたいのだろう。それは、きっといいことだ。何よりと尊い思いだ。
何を信じて、何を成すか。私は未だに私自身を信じられない。
詰りそうな息を、慎重に吐き出す。信念、なんてもの私にはない。異世界に放り出された異物で良かった。日和見主義で、いい人に見られたくて、何もかも取り繕って。その癖、いざ舞台に上げられるとこうして出来ない理由を並べ立てている。
メレフ王の言葉は、きっと私にも向けられていた。でもその言葉に返せるものなんて私は持っていなくて、まっすぐに応じるレグルス王子の背を、私は黙って見つめていた。
何もかも投げ捨てたい。




