80 望んでない
昨日は散々広場を連れ回され力を使わされた。一晩、質のいいベッドで休ませてもらったが、遅くまでメレフ王との仲をせいらちゃんに語られたため、あまり疲れは取れていない。
せいらちゃん曰く、メレフ王は「夢の中のお友達」らしい。夢の中でいつも会っていた友達に現実で再会できたから昨日はテンションが上がりっぱなしだったのか。……、さすが主人公ちゃん。フィクションでよくあるイベントをしっかり熟していくなぁ。
「どうやらその銀の針は、かなり判定が緩いらしい」
「と、言いますと?」
「いくら破邪の力を持つとは言え、病魔にまで打ち勝つ力もそうない」
「えぇ? じゃあ確証無く、刺せって言っていたんですか?」
「結果として解決したではないか。恐らくその針は「魔」と定義されるものに対してなら絶大な力を放つだろう」
この人もしかしてライブ感で行動してらっしゃる?
相変わらずせいらちゃんを抱きかかえたメレフ王を見上げてなんとも言えない気分になる。
森に立ち入る交換条件として出されていた疫病問題の解決だが、詳しい条件は明示されていなかったがどうやら満足していただけたらしく現在、魔法石のある神殿まで森を分け入っている。
「どうした?」
「……はっぱ、うごかない?」
「ああ、魔物のことか。安心しろ、魔物など僕の敵ではない」
何故メレフ王が同行しているのかはちょっと理解できていない。
いや、本当になんでいるの? せいらちゃんは喜んでいるがなんというか、森に入って以降ずっとアルヘナ君の空気がピリピリしている。
「メレフ殿、今後の疫病への対抗策は考えていらっしゃるのですか」
「土壌の問題が解決したからな、時間をかけて人々を治療していく他あるまい」
まぁ、土地が何とかなれば食糧問題も明るくなる、のか? 昨日よりも王都の雰囲気は柔らかくなったとは思うけど、農耕関係は知識が無いのでどれくらいで食糧問題が再生するのかはわからない。
さわやかとは言い難いが、陰鬱でもない森を行く。
「アンタは……なんで疫病が蔓延するまで手を打たなかったんだ」
「アルヘナ」
「いや、いい」
わずかな沈黙の後に口を開いたのはアルヘナ君だった。
レグルス王子が止めるのを遮りメレフ王がアルヘナ君を見据える。睨むでもなく、あざ笑うでもなく、受け止める様に。足を止め、メレフ王がゆるりと笑う。
あ、知ってる。柔らかくて、優しそうな顔をしているけれど、わかる。よく知っている。だって私がそうだから。この人も、諦めていたんだ。
「本来、一人の人間が土地に干渉するような広範囲の魔法は扱えぬものだ」
「アンタほどの魔法使いでもか?」
アルヘナ君は以前、疫病が蔓延するまで手を打たなかったことへの疑問を口にしていた。メレフ王だって何かしら手を打っていたのかもしれない。実際一日に数人ではあるものの治療していたのだし。けれど、それでは追い付かない。だから、諦めた。
魔法って、言っても今は世界の魔力が減っていて、大掛かりな魔法出来なかったのかもしれないし、そもそも一人ではどうにもならなかったのかもしれない。
そこに間に合ったんだ。
「治せないなら、せめて苦しませないで終わらせる。それが私にできる最大限だと思っていた。が、友に会えるのかと思ったらついはしゃいでしまってな」
せいらちゃんに会うために頑張ったって……、友達が遊びに来るから部屋を片付けるみたいな感じに言っちゃって。
結果的に針を持った私が、せいらちゃんと一緒にピアウトスに来て何とかなったが、彼としてはほとんど手詰まりだったのかもしれない。
メレフ王は諦めていたとは思えないほど穏やかに笑う。
「それは……仕方ないですね、うん。私も、大切な人に会えるのならそれくらい頑張ってしまうかもしれません」
「そうだろう?」
「はい、ありがとうございます。私も、それくらい胸を張って言える様にならないとですね」
なんだか通じ合ってる二人を眺めてなんとも言えない気分になる。
メレフ王は自分のために行動した結果が、誰かのためになったってことでいいの? 後、レグルス王子は、そういうものになりたいって話? 随分と穏やかで優しい決意だな。
私はそういうものには成れないや。
そもそも、この針の力を私が使うべきではないと思っている。
だってそうでしょ? つい最近まで完全に蚊帳の外だったのに、いつの間にか私を中心に動いていて。まるで、私がこの針の力を使って当然かのように。今の今までほぼ蚊帳の外だったのに突然、舞台に上げられた。あの妖精の言葉通りになっている。
確かに多くの人の命を救うことの出来る力なら正しく使うべきだ。でも部外者だった私が誰かに大きく影響を与える力を使いたくはない。そうするべきではない。にもかかわらずとうとう私は、この物語に完全に組み込まれてしまった。
メレフ王はこの力は使用者によって如何様にもなると言った。上手く使えとも言われた。上手く使うって、どうやって?
やりたいこともやりたくないことも何もかも中途半端な私に、どうやってそれを判断しろと言うんだ。
何もかもが自分次第。




