77 徳なんて積んでこなかったんだがな
「方法ならあるぞ? そこに」
ピアウトスを救う方法って何? なんで私を見てるの?
今までレグルス王子と話していたのになぜかメレフ王は私を見たまま緩やかに笑っている。え、えぇ? もしかして私に何かしろとおっしゃっている?
多分、この場で事態を理解している人はメレフ王だけだろう。何ならメレフ王のお膝の上でにこにこと嬉しそうにしているせいらちゃんが余計に状況をカオスにしている。
「ななちゃんすごいんだよ。いつもせいらをまもってくれるの」
「そうか、なら期待出来るな。森に立ち入りたければ疫病問題を解決してみせよ」
「待って下さい、メレフ殿。彼女は」
「自分で選べよ、貴様は既に力を手にしている」
そうは言われましても。力って、もしかしなくてもあの針よね? それ以外に思い当たる物はない。いや、確かにあの針は破邪の力があるらしいけど、それで疫病の原因の方を何とかしろってこと?
魔法石は森にある。ピアウトスの王様はメレフ様で、森への立ち入りの許可も彼の気分次第だ。それを引き合いに出されたらレグルス王子たちは頷くしかないだろう。
……どうしてこんな国同士の大事な話に私が引き合いに出されているんだ。
「銀の針が破邪の力を持つことくらいは既に気付いているだろう。その力ならば汚染された土壌も浄化出来よう」
「そうは言われても……私はこの力を上手く使えないです」
「針なのだから刺せばいいだろう?」
そんな不思議そうに言わないで貰って。確かに針だしそうなんだけども。実際魔物に刺したけれども!
あの時は魔物だったらしい木の根に針を刺したら風船の空気が抜けるみたいにしぼんで小さくなってしまった。魔物って故障するくらいなんだからよくない力をため込んでいたんだろうと無理矢理納得した。
でも、じゃあ疫病に汚染された土壌の浄化なんて、あの針で出来るの? という話である。だって針ですよ?
まぁ、多分だけど。私みたいに刺繍針として使うのではなく、メレフ王の言う使い方がきっと本来の使い方なんだろう。なんか、思っていたよりも忌避感は無いな。
悪いものを払うための力。ポケットの中にケースごと無造作に入れられた、妖精に渡された針は、渡してきた相手の感性とは反比例して真っ当なものらしい。
ならばこそ、改めて私がこの針を持っていていいのかとも考える。何なら誰か他の人が持つべきではないのか、とも。
「ああ、なるほど。貴様に必要なのは力の使い方ではなく心根の方か」
「ななちゃんだいじょうぶになる?」
「安心するといい。私が何とかすると言っただろう?」
二人で通じ合っているなぁ。いつの間も仲良くなったのやら。正直いつも以上ににっこにこのせいらちゃんにちょっと驚いている。
どうするべきかと視線を彷徨わせているとアルヘナと目が合った。一度口を開いて、何も言わずに閉じる。いや、ごめん。今のは私が悪かった。この状況で君に何か発言しろという方が酷だ。何なら本来私だって発言権はないはずなのに、なんでこうなった。
つい癖で色々と言い訳を考える。しかしそう簡単にその言い訳を口にさせてくれないのがレグルス王子なんだよなぁ。
「ナナさん。申し訳ありませんが、協力してもらえませんか? あなたがあの針の力を不用意に他人に向けたくないのはわかっているつもりなのですが……」
真剣な顔で、彼は改めて私に注げる。
いや、わかるんだよ。レグルス王子は人々を救いたい。アヴィオールの人も、多分ピアウトスの人も両方を。以前自分の立場を守るために、なんて言ってはいたけど、理由はどうあれやっていることはだれかを助けるための行動ばかりだ。
お兄さんの愛した国を守るため、この国の魔法石の活性化を行うためにも、この針の力が必要。
「……わかりました」
不承不承と言う感じになってしまったけれど、一先ず頷く。私の返答に、レグルス王子が一瞬ほっとしたように顔を緩めた。
私だって誰かに傷付いてほしいわけじゃない。だからといって、私自身がこの世界で何かを成すと言う状況が嫌だ。そうもいっていられない状況だとはわかっている。でも。ここは、「星の箱舟-スター・レガシー-」だから。
「人知を超えた力が宿るとは言え、銀の針は所詮物だ。所有者により如何様にでもなる」
「……」
「力の責任については理解しているようだな」
この針を使うことは誰かに、何かに影響を及ぼすということだ。影響を及ぼすとは責任がのしかかるということ。何にも持たずにこの世界に放り込まれた私にそんなもの取れるわけもない。
責任を取りたくないのなら、もっと上手くかわすべきだった。最初から関わらない選択を取るべきだった。中途半端なことをしたからこうなった。
「ならば。折角得た力だ、有効に使え」
簡単に言ってくれる。どうして国をまとめる側の人が自分のために力を使えなどと簡単に言えるのか。選択を間違った時の影響を考えていないわけでもないだろうに。
言葉は出なかった。ポケットに押し込んだままの針が、酷く重く感じた。
大いなる力には──、と気軽に唱えられる立場ではなかったらしい。




