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76 幼女の強さを再確認した


 ようやく辿り着いた王都は霧が濃く陰鬱な雰囲気の街だった。

 霧は、気候的な問題もあるのだろうけど、やっぱり全体的に人の表情が暗い。すれ違う人もどこか疲れた様子で、お城で取り次いでくれた兵士さんも随分とピリピリしていた。


 雰囲気に圧倒されてか縮こまっているせいらちゃんの手を取って案内されるままにお城の中に入る。

 門の内側には多くの人が休んでいた。多分、疫病の感染者だ。城を開いて広間に感染者を招き、救護活動をしている。

 ピアウトスの王様は魔法で患者を治していると言っていた。でもそもそもの原因を何とかしなければ感染者も増えるばかりなんじゃなかろうか。


 案内された先に、人の集まっているところがあった。身なりの良さそうな人たちが数人、その中に一際目を引く男の人がいた。その人が、力なく倒れている患者に手をかざす。この国で今疫病を治せるのはただ一人。あれが、この国の王様。メレフ王。

 丁度患者の一人を治療しているところなのか、彼の手元に光が集まりだす。あれが、病気を治す魔法。あれを一日に何度も行っているのか。

 広間には多くの人がいて、蹲っている者もいれば完全に伏してしまっている者もいる。街で見た人たちだって顔色の悪い人が大勢いた。口に出すべきではないのはわかっているが、さすがに無理だろう。


 光が溢れ横たえていた患者の意識が戻る。静かながらに喜びを現し人々がメレフ王に感謝する。付き人らしい、身なりのいい人と何かしらを話して王様がこちらを向いた。

 レグルス王子が前に出た。しばらくはまたお国同士の難しい話が始まるのだろう。そう思っていたのに、レグルス王子が話しかけるよりも先に私の隣で幼女が声を上げた。


「めれふくん!」


 え、ちょ、何してるの? 繋いでいた手を離してせいらちゃんが駆けていく。離れた腕を取ろうと伸ばした手のひらは空を掻き、掴み損ねる。小さな体で器用に人を避けて走り出したせいらちゃんがピアウトスの王、メレフ王の足元までたどり着いた。

 それを見たメレフ王は慣れた手つきでせいらちゃんを抱き上げる。え、どういうこと? 子供好きって解釈でいいの? というかせいらちゃん普通に王様の名前呼んでいたよね?

 以前からレグルス王子のことも君付けで呼んでいたし、せいらちゃんからすれば普通の呼び方なのかもしれないけれど、初対面の人にその呼び方は。


「こうして会うのは初めてだな」

「うん。はじめましてで、またあったね、だよ」

「ああ、そうだな」


 完全な初対面では、ない? 随分と親し気な様子に困惑する。話したことがある? いつ、どうやって? この世界に来てからは殆ど一緒にいたから二人が出会うタイミングがあったとは思えないんだか。

 もうすっかり忘れてたけど、もしかしてゲームにおける主人公補正? よくあるキーキャラに事前に出会っていたとかそういう展開?


「おい、どういうことだよ」

「私にも、さっぱり」


 いや、うん。本当にわかんない。一先ず隣に来たアルヘナ君に答えてみるけれど、多分状況を正しく理解してるのはあの二人しかいないと思うよ。

 それにしても随分仲良しさんらしい。メレフ王のお付きの人にしても、幼女の気安い態度に咎めるか迷っているようだし、それはそれとしてメレフ王が許している様子でもあるし。幼女本当にすごいな。

 どうするべきかと、動いていいのかと悩む私たちを他所に、レグルス王子が止まっていた足を進めた。


「遠路遥々ようこそ。このような事態ではあるが、歓迎する」

「お気遣い感謝します」


 恭しく礼を述べるレグルス王子に王様が笑みを浮かべる。レグルス王子は立場上何度か書簡でやり取りを交わしていたらしく、簡単な挨拶を経て応接間に通される。

 玉座とか謁見の間とかでない辺りかなりフランクに対応されているようなんだけど、移動の間ですらせいらちゃんを抱えてたままなのには一言伝えてもいいのだろうか。何なら応接間に辿り着いてからも、せいらちゃんを膝の上に乗せている。


「この国が今患っている疫病を治す手助けにもなるから魔法石への接触を許容せよ、というのが貴殿の望みだったな」

「はい、魔力が再び世界に溢れれば事態の収束の手がかりになる。我が国の民を守るためにも、貴国の民を救うためにも。魔法石の安置される森へ立ち入る許可をいただきたい」


 両国の立場の話とか魔法石の話とか真面目に話しているのに、メレフ王のお膝の上でにこにこなせいらちゃんのおかげで、全く話が頭の中に入って来ない。

 皆すごいな、なんでこの状況で真面目にお話しできるの?


「世界の魔力が元に戻ったところで事態を収束させる足掛かりにもならん」

「それは、何故?」

「すでに土地が汚染されておる。さりとて患った者を残してこの地を去るわけにもいかん」

「そんな……。何か他に方法は」


 レグルス王子が信じられないような、傷ついたような顔で言葉を震わせる。えっと、もしかしてすでに詰んでいた話してる? ずっと一人で国民を治して来た人が言うにはかなり重い言葉だと思うんだけど。

 まぁレグルス王子としては何とかしておきたいよね。両国の関係を改善させるためでもあるけど、何もしなければいずれアヴィオールもこうなってしまうかもしれない。

 なら、今の内に何かしらの改善手段を見付けておきたい。ピアウトスの人たちのためにも、アヴィオールの人たちが苦しまないためにも。


「方法ならあるぞ? そこに」


 他人事のようにぼんやりと話を聞いていたら、不意にメレフ王と目が合った。ん? ピアウトスを救う方法があるの? 

 え? 何でこっち見てる? 私?


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