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74/127

74 停滞

Side 従者


 馬車での移動中は特に問題もなかった。途中外ではラットだのバグだの魔物が出た様だが、その辺りはブラキウムが上手くやってくれたらしい。

 前回魔物にビビっていたちびちゃんもあの女が上手く気を逸らしたおかげか外に意識を向けるでも無くガキらしく笑っている。先日立ち寄ったフェリスの町で固まっていたのがウソのようだ。

 まぁちびちゃんが固まっちまうのもうなずけるような酷い有様ではあったが。


 野宿続きの固まった体で伸びをする。宿泊予定の街に着き一度は馬車を降りたものの、またすぐ馬車の中に戻ることになりそうだ。

 ウクダは大きい街なので公共機関が頑強なのかフェリスよりはマシという程度。マシと言っても路地裏にはフェリス同様麻布を被った何かがあり酷い匂いを発しているし、十分すぎるほど環境は良くない。まともなベッドで寝れるのもまだ先か。


 少し視線をさ迷わせるだけで、視界の端に移る路地裏に追いやられた物が何だったのか気付いてしまった。

 あの女がフェリスであれを見て青い顔をしていて、なんだと思っていたのもある。いつだったかあの女が言っていた気が付いたら罰ゲーム、という言葉を思い出す。あの女本当に碌でもないものにばかり気が付くな。

 匂いと集っている虫で冷静になったらわかるものだが、騎士たちは何も言わない。あの女同様、気を使っているのだろうがレグルスもそろそろ察する頃だろう。


 路地を背に、あの女とルクバトがちびちゃんに話しかけている。意識を路地の方へ向けさせないためだろうがご苦労なことだ。

 フェリスの時よりはましだが、白い顔をした女に文句の一つでもつけてやるべきか。それとも。


「随分ご執心なこった」

「はぁ?」

「気になるんだろ? 顔に出てるぞ」


 つい先ほどまでレグルスと今後の経路について話していたであろうブラキウムがいつの間にか隣に来ていた。

  別にそんなつもりも無いし勘違いも甚だしい。ただ不快なだけだ。


「発破やることは悪いわけではない、むしろああいうタイプは無理に引っ張らねぇとテコでも動かねぇタイプだ」

「だから俺は──」

「だがあの嬢ちゃんは変に頭が回る。お前自身が何故そうまでするのかを明確にしておかないと、意固地になられるだけだぞ」


 あの野郎言いたいこと言って帰りやがった。

 何が発破だよ。そんなことしたってアイツは動かねぇだろ。今んとこ、あの女が自分で何かするのはちびちゃんのため以外にはない。どれもこれも咄嗟に体が動いたようだが。


 視線を上げた先にはいつの間にかちびちゃんの周りにはレグルスまで増えていて。

 相変わらずあの女は何でもないような顔をしている。何かを考えている。また何か先に気が付いたのか、気が付いていてまた言わないつもりなのか。何か理由はあるのか。正直あの女の事情なんてどうでもいい。信用なんてものを求めたつもりもない。だが、アイツの態度が気に入らない。

 そう、気に入らないのだ。あの女はトゥレイスの遺跡で殆ど諦めていた。そんな目だった。木の根の内側に取り残されたのが一人だったら、きっとあの女は何もしなかっただろう。そちら側にちびちゃんがいたから、そうしなかっただけだ。

 あの時既に針を手にしていた。結果的にあの女は諦めなかったが、力があるのにアイツは何もしようとしなかった。そのまま、終わろうとした。それが気に入らない。


 状況を大きく変える力があるにもかかわらず、それを求める奴のために振るわないのは無責任だろう。実際あの女はちびちゃんのためにあの針を使ったんだ。ならこれからだってそうするべきだ。そうでないのならアイツもあの人と、皇后と同じになる。

 皇后は、王がお隠れになった後、たった一年で城を出た。義理で喪に伏した後、時期王についても取り決めず、行方不明の実の息子についても気にかけず早々に生家に帰って行ったわけだ。

 あの人に比べれば、セイラを置いていなくならないだけナナはマシか。


 あの針は誰だって扱える物だ。確かにあの女が刺繍に使ったから、破邪の効果以外にも加護をかけられるとわかったわけだが。きっと使用者は誰でもいい。ちびちゃんでも、レグルスでも、使おうと思えば扱える物。

 回収しないのはあの女が妖精に渡されたものだからに過ぎない。アイツが加護のついた刺繍を作り続けると言うのなら、それなりに保護もされただろうが、あれきり刺繍糸をすっかりしまい込んだままにしていて。他に何かやりたいことがあるのかと思えば、誤魔化すように首を振る。

 いったい何が気に入らないんだ。あの加護があれば多くの騎士が救われた未来があったかもしれないのに。それを出来ない理由って何なんだよ。


 意味がわからない。あの女の考えも、自分自身が何故こんなにもあの女のことで頭を悩ましているのかも。わからないからこそ余計に腹が立つ。

 しばらく考えて、ため息を吐く。視線の先ではまだ何やら話し込んでいるレグルスたちがいて。どうせこの街もまともに休めないだろうと、早々に馬車に引っ込んだ。



もやもやといらいら。

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