70 後悔は得意だよ? いつもしてるし
私にどうしろと言うんだ。
最近ちょっと怒涛の展開で目が回っている。何ならこの世界に来た時よりも混乱しているかもしれない。
いや、ほら。今はほぼ引退していたとはいえ、私ってオタクをやってたのよ。だからある日突然不思議な世界に飛ばされて、的な展開には慣れているし、多少の俺強い展開にも耐性はあるのよ。
でも根が小市民なもんで、突然よくわからない力を押し付けられても、それを上手に使えるわけじゃなく、簡単に順応出来るわけでもない。正直勘弁してほしい。
あの後つい、いい人ぶってレグルス王子に巻き込まれたことや承認欲求的な? ものについては気にしていないと返してしまった。いや、別に後悔しているとかは無いが。
かといって自分が関わったものが後々誰かを傷付ける物……、戦争登用なんかされた日には目も当てられないし?
そんなに頑強な精神もしていないので、今後あの針を使っての刺繍はしない。プラスせいらちゃんにせがまれた時用に、普通の刺繍針を用意してもらうという話で終了した。
温かい日差しの中でため息を吐く。
今日も今日とていつもの中庭だ。少し先ではせいらとイクリール君、それからたまたまあったルクバト君が戯れている。時々振り返って手を振るせいらちゃんに返しつつ噴水の縁に腰かけて、遊んでいる様子を眺めるのが、いつの間にか日課になってしまった。
まぁ、せいらちゃんについては笑顔が戻ってよかったとは思うよ。口にこそ出さなかった結構魔物に怯えてて可哀そうだったし。が、それはそれとして。ポケットの中にしまい込んでいるあの針であの子を守れるのかと言われれば私にはノーとしか。
「毎日同じ場所歩いて何が楽しいだか」
不意に影が落ちて来て何事かと見上げれば、つまらなそうな顔でせいらちゃんたちを眺めるアルヘナ君がいて。
君は変わらないねぇ。なんかこう、一貫してツンとした態度をとってくれるので、一周回って安心してきた。私が魔物に襲われた時ですら語彙は下がってたけど、ちゃんと怒られたし。口は悪いが優しい子ではあるんだよね。
「せいらちゃんはまだ、自分の足で歩くって言うのが楽しい年頃なので」
「ふーん」
何とも興味のなさそうな返事。君本当にレグルス王子以外に興味ないねぇ。
レグルス王子は幼い自分に世界を話して聞かせたのは自分の兄だったと言っていた。……多分、この人だってずっと傍にいたんだろうなぁ。従者と言う立場上当たり前なのかもしれないけど、アルヘナ君の世界の中心はレグルス王子で。
レグルス王子にも聞いていないし、アルヘナ君にも聞くつもりもない。ただ、過去に色々あったんだろうな、なんて夢想するくらい。彼らに対する感想はそれだけだった。
「アンタさ、これからどうすんだよ」
「どう、とは?」
「レグルスと話したんだろ」
はずなんだけどなぁ? まぁ二人の仲が良いのは重々承知していましたし? 片方と話した内容が伝わっているくらいなら察しは付く。でもなんで君から私を気にする話が出て来た?
いや、まぁあの針で作った刺繍はそこそこ強力な加護があるらしいし、量産したら国力にも影響しそうだし、レグルス王子周りの話になるから気になる。のか?
だとしたら量産はお断りしたし、話はついているんだが、追加で気になることでも?
「アンタのことも、ちびちゃんのことも。あいつは面倒みるつもりでいる」
「え。あ、はい」
「やりてぇことあるなら今の内に言っておけよ。あいつがどうにかすんだろ」
それはそれでどうなんだ。確かにレグルス王子は高貴な身分だが、一応、私の方が年上なんだけどな。……色々加味した上で、人間性は私の方が下かもしれないが。
ああ、嫌だな。またなんかもやもやしてきた。若い子の成長や、支え合っている姿は微笑ましい。ただ、そういうものを経験してこなかった、何も出来ない自分を突きつけられているみたいで苦しくなる。
「諦めなくていいんじゃねぇの?」
かけられた言葉に驚いてそちらを見ればアルヘナ君と視線が合った。え、何。どういうこと? 真剣な表情で私を見下ろしている。いやいやいや。違うでしょう、君は。そういうことしないし、言わない。
いつもの様に不機嫌そうな調子で不満があります、と。お前はそうかもしれないが俺はこうなんだけど? という態度を示してくれた方が、大人ぶって聞き分けのいいフリが出来るのに。なのに今更なんで。
居心地の悪い視線から逃げる様にせいらちゃんたちの方へ顔を向け、引き攣りそうな喉に無理矢理空気を押し込めて声を乗せる。
「ヤダなぁ。別に、諦めてなんてないよ」
「嘘だろ」
「嘘じゃないよ」
何なの、君。どうしたのよ。君は、私に対してそんなこと言うような人間じゃないだろうに。背中に嫌な汗が流れていて気持ち悪い。私の中の一番嫌なところを見透かされているみたいで、少し怖い。
大丈夫。表情は取り繕えている、はず。少し持ち上げて固めた口角が、引き攣りそうで苦しい。
じっと、このまま耐えれば、何とかなる。と、思う。そうして耐えたら、耐えて、……ダメだったら? 一瞬なのか、永遠なのかわからない時間を過ごした後、アルヘナ君が吐き捨てる様に息を吐いた。
「……勝手にしろ」
砂の混じった地面を踵返す音がする。一歩一歩、確実に遠くなっていく足音が完全に聞こえなくなって、ようやく肩の力が抜けた。
やってしまった。やってしまったけど、もうどうにも出来ない。
どうしようもない女の話




