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68 危険物取り扱いの資格は持ってないんですが


 すっかり居付いているお城の一室で、今日も今日とて、せいらちゃんと過ごしている。

 お城にいる間の日課であるお散歩をこなし、途中で合流したイクリール君と一緒にせいらちゃんは私の手元を集中して見ている。

 砂漠から帰って以来体調を崩すことも無く、心配していたものの魔物との遭遇がトラウマになっている様子もない。安心、していいのかな? まぁその辺りは時間をかけて様子見になるか。


 ぷつりと音を立てて布の裏から針を通す。引き抜いた糸がしゅるしゅると形になっていくのを眺めてせいらちゃんが声を上げた。自分でもどうかしていると思うのだけど、やることがなさ過ぎて例の針で刺繍始めた。だって見れば見るほど刺繍針だったし。

 普段は用意してもらった入れ物の中に入れて持ち運ぶ様にしているけれど、ずっとポケットの中に入れっぱなしにするのもどうかと思って暴挙に出た次第である。


「はい出来た」

「チューリップ!」

「あげるね」

「やった! ななちゃんありがとう!」


 最後の針を通し糸始末をして、簡単な刺繍を施したハンカチをせいらちゃんに渡せば思っていた以上の反応で。柄はせいらちゃんのリクエストでピンクと黄色のチューリップと、ワンポイントの簡単なものでしかないのに。

 メイドさんにお願いしていくつか糸を貰ったし、またやってもいいかな。まぁ、身を乗り出して覗き込むのは危ないので過ぎにやる時はもう少し離れて見て貰おう。今だってあんまり身を乗り出すため、後ろからイクリール君にホールドされていた。

 そんなことを考えながら銀の針をケースにしまい込んでいると、イクリール君が困った顔でハンカチを見ているのに気が付いた。


「どうしたの?」

「いえ……。ナナは、魔法を使えないんですよね?」

「うん。使えないね」


 若い頃はそんな妄想もしていたけれど、こちらに来るまでそういうものに縁の無い人生を送っていたので。

 言ってしまえばこの針が、私にとっての不思議アイテム第一号みたいなものだ。正直扱いに困っているけどね。


「結局この針って何なんですか?」

「それは私が応えよう」


 困り顔のイクリール君になんと答えようかと考える暇もなくひょこりとエルナトが顔を出した。

 いつの間に部屋に入って来てたんだろう。集中していたつもりもなかったのに。


「針を見せてくれるかい?」

「どうぞ」

「ふむふむ、なるほど?」


 促されるままにケースごと渡せばエルナトは針を取り出して持ち上げたり光に翳したり。なんだか鑑定しているみたいだ。

 私とせいらちゃんの帰還方法を調べてくれたのもエルナトだったし、こういう物にも詳しいんだろうか。


「言ってしまえば破邪のアイテムだね」

「魔を払う的な解釈でオーケー?」

「オーケーオーケー」


 一応私の解釈であっていたらしい。


「魔を払い、呪いを解くお守りだよ」

「エルナト、これを見てください」


 そう言ったイクリール君が指さしたのはせいらちゃんの手のひらにあるハンカチで。

 今しがた刺繍を入れたばかりのそれをせいらちゃんの許可を得て受け取り、エルナトは頷いた。


「ああ、変な加護ついてるね」

「やっぱり」

「結構すごいよ、その辺の魔物なら嫌がりそう」


 え、えぇ? 普通に刺繍を入れただけなんだけど。

 けたけたと笑うエルナトはお守りアイテムで勝手に加護を生み出すとは思わなかったなどと言っている。


「えっと、つまり?」

「ナナは今、高価値で取引されるような加護付きのアイテムをローコストで生産出来るんです」

「ななちゃんすごいの?」

「とっても」


 隣に居たイクリール君に視線を向ければ割と真剣な口調で返された。

 視線をハンカチに落とす。ワンポイントの簡単な刺繍だ。

 これにそんな価値が? 久しぶりだから少し手間取ったが、三十分くらいで作ったやつよ? もしかしてこの針って結構ヤバめな性能してる?


「やったね、これで何があっても一先ず食べるには困らないよ!」

「それは助かるけども」


 ただの素人の刺繍にファンタジーな付加価値を付けないでほしい。

 安直に針だからと触るんじゃなかったかも。使わないと錆びるかと思って触っていただけなんだが。


「君は本当に面白いね、あの子が気に入るはずだよ」


 打って変わって、何やらのんびりとした口調でつぶやくエルナトは随分と優しい目をしている。悪い人ではないんだよなぁ。自由人でレグルス王子は割と振り回されているみたいだけど。

 面白い人は嫌いじゃないはずだったんだが、自分が面白い奴扱いされるのはなんとも複雑な気分だ。


「どうかこれからも、あの子を笑顔にしてあげておくれ」


 見上げた先の彼は優しい声に反して、少し切なそうな顔でせいらちゃんを眺めている。

 せいらちゃんは所謂ゲームの主人公だ。皆大なり小なりせいらちゃんに好意を持っている。流石に五歳児を恋愛的な意味で見ている人はいないだろうけど、妹のような、娘のような気持で見ている人は多い。

 せいらちゃん自身も愛想がいいし、きっとエルナトも保護者側の立場として、せいらちゃんを見ているんだろう。

 その時は、そう、思っていた。



急募。碌でもない相手からもらった真っ当なアイテムの処遇

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