66 逃げ道を探して
自分一人なら、まぁいいかと。
これで面倒や煩わしいことから解放されるって、自分を納得させられたかもしれない。
あまりよろしくない地響きを響かせながら動き出した木の根が成長している。せいらちゃんを抱えて退避しようにも木の根が私たちごと魔法石を抱え込む様に伸びており、レグルス王子たちのところへは合流できそうもない。
おろおろしながら抱き着いて来るせいらちゃんの肩を抱く。想像していた展開とは違うけど、このままだと杞憂していた通りに天井が崩落して生き埋めになりそうだ。
圧死はさすがにしんどいだろうなぁ。
思えば、諦めの多い人生だった。
好奇心旺盛で要領のいい姉とはよく比較された。姉は友達も多く明るいのにどうしてお前は、なんて私の方が聞きたい。
比べられるのが嫌で地元を出て、あの会社に拾ってもらったが何らかの成果を上げるでも無く。なんなら会社自体も何やら雲行きが怪しい。特別目標もないし贅沢が出来るわけでもないけど、ただ煩わしくなければそれでいいと。
いい会社に入るとか、結婚して子供を産むとか。そういうのだけじゃないって言い聞かせて。出来ないながらに穏やかに暮らせればいいって願ってた。
それがなんだ。前世の縁だかなんだか知らないけど、いきなりもうほとんど覚えてもいないゲームの世界に連れ込まれて、何にもわかっていないまま連れ周されて。
結局……。
「手を伸ばせ!」
木の根の向こうでブラキウムさんが叫んだ。
皆、各々で暴れている木の根を対処しようとしている。人が通る隙間もないほど成長した木の隙間から私をここまで連れて来た人たちを見る。
これ以上、私に何をさせたいんだ。私は、何をすればいいんだ。
「魔物だったのか!」
「出口を確保しろ!」
騎士さんたちが叫んでいる。この木は魔物だったらしい。魔法石の魔力を養分として地底で育っていたんだろう。それが活性化させた結果、栄養過多で暴れ出したというところか。
どんどん木の根が広間に伸びていく。視界が、乾いた木で覆われていく。ため息を吐いた。これで、終わりか。そんなことを考えていたら自分を呼ぶ微かな声が聞こえた。
「ななちゃん」
悲鳴のような声だった。怯えたように私に掴まり、目を閉じて必死に耐えている。ああ、ヤダなぁ。私一人なら、このままくだらない人生を思い返しながら眠りにつけたのに。
何もかも任せておけと言い切れるほど大人にもなれないくせに、不安そうな顔で震える子供を見捨てられるほど子供にもなれない。
息を吸う。わずかとなった木の根の隙間からアルヘナ君と目が合った気がした。
私に、出来ること。この取りに足らない存在に、何ができるのか。傍観者でいたかった。観客でいる方が、気が楽だった。舞台になんか上がりたくない。責任なんて負いたくない。でも、だけど。
子供を見捨てるほど卑怯にもなりたくない。
私の手には針が握られている。あの妖精がこれを何のために渡したのかとか、もう深く考えなくていい。どうせ言葉通りの意味だ。悪辣で悪趣味な嫌がらせ。会社のお局ぐらいに考えておけばいい。
今大事なのはこの針で何ができるのか。見たところただの刺繍針に過ぎない。でも妖精に渡されたと言う付加価値があるなら?
ファンタジーに置いて、銀の針の扱いは単純だ。所謂アンデット系への特攻アイテム。この木が死霊ではないことはわかっているけれど、「魔」物であることには違いない。
あぁ、やだやだ。やりたくない。これをすればあの妖精の言う通り私は舞台に上げられる。なんで嫌な予感って当たるんだろう。なんでこんなに碌でもないことに巻き込まれてるんだろう。なんだか一周回って、腹が立ってきた。
息を吸って、手にした針を目の前の木の根に刺す。
途端、叫び声が広間、いや、多分この遺跡中に響いた。耳が痛くなるような叫びと共に木の根が大きく脈打ったかと思うと、今度は風船みたいにしぼんで小さくなっていく。なんかもうマンドラゴラみたい。
急速に小さくなった木は結局三十センチくらいにまでしぼみ、なんというか、時々SNSで面白い形の野菜として流れてくる二股に分かれた大根みたいになってしまった。
これがあんなに大きくなってたの?
「今のは……、二人とも! お怪我はありませんか?」
「私は、大丈夫。せいらちゃんは?」
「うん! ななちゃんが助けてくれたから大丈夫!」
「よかった。本当に、よかった……。ありがとうございます、ナナさん」
お礼を言うレグルス王子を宥めつつ安堵のため息を吐く。あの針を刺すだけで何とかなるとは思っていなかったけど、皆大きな怪我もなく無事でよかった。
ははは、正直意味わかんない。なんなんだこの針。なんだって私が。
相変わらずぐるぐるしてる頭でせいらちゃんを抱えて皆のところへ合流すればアルヘナ君に無言で肩を叩かれた。相変わらずちょっと不機嫌そうだなぁ。
「全員無事だな、なら急いで出るぞ」
そう言ったブラキウムさんがどういうわけか、せいらちゃんを抱き上げた私ごと抱え広間の出口へ向かう。
微かに地響きが聞こえている。ちらりと見た魔法石は絡みついていた木の根もなくなり随分とすっきりしている。ああ、そうか。今まで木の根で支えられていた部分が撓んでいるのかもしれない。このままだと確実にこの遺跡は崩れるし、それこそ生き埋めになりそうだ。
目を白黒とさせるせいらちゃんをしっかりと抱え込み、可能な限り大人しくしておく。
悲しいかな。私はあの妖精の言う舞台に、とうとう上げられてしまった。可能ならどこかのタイミングでフェードアウトしたかったのに。
全く、嫌になる。
思考がぐるぐる。




