64 だってほら、物語は光の中で完結するらしいし
目の前に現れたのはもうずっと人の手の入っていない崩れかけた遺跡だった。
かつてここで何があったのかはわからないが、随分と長い間放置されていたのだろう。いくら中に魔法石があると言っても傾いている築何千年かもわからない上に一部、瓦礫と化しているの物もある。いくつかの石の柱の中心にある建物は砂の中に呑まれているが、一応中へは入れそうだ。
本当にこの中に入っていくのかぁ。なんで皆崩れる心配してないんだろ。もしかして私が知らないだけでこの世界の建物もファンタジーな技術で出来ているとか?
「本当にこんなところに魔法石があるのか」
「ラスペルバ殿はそう言っていたが……」
アルヘナ君とレグルス王子の話を聞きながら荷物の中にいれていた水筒の水をせいらちゃんに飲ませる。どうせあの中に入らなきゃいけないのなら手早く行ってぱっと帰って来よう。
ブラキウムさんが指示を出して騎士さんたちをいくつかに分けている。遺跡の中に入るのは可能な限り少人数で。残りは何かあった時の救助隊と本国への連絡部隊になるらしい。何もないのが一番なんだけどね。
準備が終わった騎士さんたちと一緒に遺跡の中へと足を踏み入れる。元は地表が低かったのか、数千年の間に砂の量が増えたのか崩れかけの建物は下へ下へと続いていた。
「意外と肌寒いですね」
「殆ど地下みたいなものだしね」
せいらちゃんと手を繋いだイクリール君に返しつつ砂に覆われた遺跡を進む。
所々に入り込んだ砂や亀裂があって、本当によくこんなところに入ろうと思ったな。建物の中は風化が激しく当時を思わせるものは殆どない。この壁も昔はもっと煌びやかだったのだろうか。
今は装飾の代わりに所々にコウモリが巣を作り、物珍しそうにこちらを見ている。アレも魔物なんだろうか。こっちに飛んでこないのなら何でもいいかな。
「本当にこんなところに人が住んでたんすかね?」
「意外と人が住んでいたのはオアシスの方だったのかもしれないよ」
隣を歩いていたルクバト君に答えて、何故か地中深くに伸びている木の根を跨ぐ。砂の下で日も差さないのにどうやって育ってるんだろう。
オアシスからこの遺跡まで四時間ほどの時間で辿り着いた。近くの水場はあそこしかないのなら、かつて人が住んでいたのはオアシスの周辺で、たまたま何の影響かここの遺跡だけが残ったんじゃないだろうか。
「なるほど、ではここは一体?」
「うーん。魔法石があるし祭事用の建物、とかですかね?」
「ありえねぇ話じゃねぇもな」
木の根に苦労するせいらちゃんの体を持ち上げて通してやる。
先を行くレグルス王子とブラキウムさんの返事を聞きながら、どれほど遺跡を歩いただろうか。
崩れていない通路を選んで来たものの、本当にこの道順で魔法石がある場所にたどり着くのかもわからない。何ならすでに砂の中に魔法石が埋まってしまっている可能性もあるよなぁ。
「この遺跡はオアシスから丁度、真東にある」
「真東。ああ、もしかして太陽信仰ですかね」
「かもな」
「おひさま?」
「そう、いつもいいお天気でありがとうって言う考え方のこと」
厳密には違うんだろうけど、まぁいいか。
不思議そうな顔をしたせいらちゃんに答えれば、納得したのかたせいらちゃんはまた足元に気を付けつつも足を進める。時折砂に足を取られかけているが、久しぶりに自分の足で歩けるのが嬉しいのか、少しだけ表情が柔らかい。本当に歩くの好きなんだなぁ。
「ナナは神話にも詳しいんですか?」
「昔ちょっとね」
砂漠イコール太陽信仰は安直かもしれないけど、幼い頃に某カードゲームアニメを見ていた私にはそれ以外考えられない。
奇抜な髪形の主人公とコートをはためかせる社長は幼少期の私には中々に劇薬だった。
相変わらず埃っぽい通路を進むと遺跡の奥へと進む。
崩れかけた通路を慎重に抜ければようやく開けた場所にたどり着く。木の根が広場に張り巡らされたその奥にすっかり見慣れた魔法石が安置されている。
木の根は魔法石にも絡みついている。もしかしてあれが養分になってる?
「セイラ、お願いできますか?」
「うん」
「せいらちゃん足元気を付けてね」
一瞬悩む素振りを見せた後、せいらちゃんが私の手を引いて歩き出す。ああ、私も行く流れなのね。
幼女ちゃんと手を繋ぎ直し不思議な感じのする場所の中心へと進む。よくよく見れば、今まで通って来た通路よりも壁面に多くの模様が刻まれている。
あながち祭事用の建物というのは間違いじゃないのかもしれないな。実際に魔法石をご神体の様にして祀っていたのかも。
一際太い根をせいらちゃんを抱えて乗り越える。とりあえずこの魔法石にせいらちゃんが触れれば、後は遺跡から出るだけ。魔法石の活性化っていつも一瞬光が出るけど、砂の中でやっても大丈夫なんだろうか。本当に崩れたりしない?
せいらちゃんが手を伸ばして魔法石に触れる。いつのも様に魔法石から光が溢れ出し砂の底にある一室を埋め尽くす。
その中に、いつかと同じ影を見た。




