62 皆どうやって方向感覚養ってるの?
砂漠にある神殿までは片道でも二日掛かるらしい。
正直促されるままラクダに乗っているけど、皆よく何にもない砂漠で方向がわかるなぁ。
一応逐一方位を確認しつつ進んでいるのだが、見渡す限り砂すなスナで。私には太陽の位置でギリギリ東と西がわかるくらいだ。今どの辺り?
時折寄ってくるサソリっぽい魔物を騎士さんたちが追いやるのをせいらちゃんの視界をふさぎつつやり過ごす。
せいらちゃんは魔法石の活性化は出来るけど身を守る術はない。仕方がないとは言え、魔物が出た後はいつも以上にべったりだ。とはいえこの砂漠で魔物を避けながら進むなんてことも出来ないし、可能な限り早く砂漠を抜けられればいいな。
「せいらちゃん大丈夫? 疲れてない?」
しがみついてくるせいらちゃんを労わるように頭を撫でるとこくこくと頷く。この子が肩の力を抜けるのはまだまだ遠いかな。
まぁ、魔物に襲われておきながらいまだに実感のわかない私の方が可笑しいのかもしれない。
実感、実感かぁ。あんまり無いんだよなぁ。ファンタジーな世界だしそんなこともあるだろうって感覚がそうなってるのかもしれない。人に対してだけならいざ知らず、魔物に対してもかぁ。
「もう少し行った先にオアシスがある」
「そこで今日は休むんでしたよね」
「ああ、あの辺りにいるのは比較的温厚な魔物ばかりだから神子殿も平気だとは思うんだが……」
「すっかり怖がりさんですね」
ラクダを引いてくれているブラキウムさんの言葉を引き継いで、隣に並びに来たイクリール君がせいらちゃんを覗き込む。当の幼女は私の胸に顔を埋めながらイクリール君に小さく手を振っている。
器用に横向きに座ってるなぁ。私としては跨ぐ形で座ってくれた方がずり落ちなくて安心なんだが。
「魔物にも気性の荒いタイプや温厚なタイプがいるんですねぇ」
「まぁな。あそこに突っ立ってるティロは日光浴を邪魔しない限り動かねぇし、さっきから飛んでるガルーダは死肉しか食わねぇ。無害っちゃぁ無害だな」
「僕あなたのことは尊敬してますけど、女性にそういうことぼかさないで話すのはどうかと思います」
呆れたような視線をブラキウムさんに向けるイクリール君に苦笑する。猛禽が肉食なのは知ってるし、死肉を主食とする動物がいるのも知ってるからそんなに気にしなくてもいいよ。
どういうか砂漠に入ってから時々見かけたあの盾に長いサボテン、ティロって名前なんだ。というか魔物だったんだ。後ピョロピョロ鳴いてるあのトンビみたいなやつも。
砂漠を渡っている間結構魔物を見た。これ全部戦争で肥えた奴らかと思うとなんとも言えない気持ちになるな。
「そういえば、神殿のある遺跡って砂に埋もれてるんでしたよね」
「もう何千前年と前に滅んだ年だからな。かなり風化はもちろん、地形だって変わっているだろ」
「中に入っている間に崩れたりしません?」
「一応分隊はして行くが、不安なら残るか?」
「そういうわけにもいかないでしょう」
相変わらずせいらちゃんは小さな手で私の砂除けのローブを握りしめている。卑怯でどうしようもない自覚はある。が、さすがに引っ付き虫になっている幼女を突き放すほどにはなりたくはない。
肩を落としつつ返せばブラキウムさんは全部お見通しだと言うように笑った。ずるい人だなぁ。これでも一応真剣に悩んではいるのよ?
「ナナは、不安ですか?」
「まぁね。砂って結構重いし、中でトラブルがないとも限らないし」
「そう、ですね。さすがに僕も大量の砂を持ち上げるなんて出来ないですし、気を付けていきましょう!」
イクリール君と話しつつもラクダはゆったりとした足取りで進む。これから向かうのはほとんど文献にも載っていないトゥレイスという古い文明の跡地。
砂の中に消えた都市。そこに住んでいた人の残りがノーモンに移り住んだんだろう。しかし何故、故郷を離れなければいけなかったのは謎のまま。
ものすごくファンタジーな状況だし、場合によってはものすごくわくわくしそうなんだけど、幼女を預かっている身としてはちょっと気を引き締めないといけない。
度々起こる魔物との邂逅もそうだし、砂漠特有の暑さと環境に因る消耗も心配だ。せいらちゃん我慢強いタイプだしなぁ。こうしてすり寄る程度には甘えられているみたいだが、それでも気は滅入っているんだろう。
時折もぞもぞと動く幼女を支え息を吐く。時折吹く風に乗って細かな砂が舞い上がっている。向こうの世界だと砂漠の砂は風で運ばれて他の土地の栄養になると聞いたことがあるけど、こっちもそうなんだろうか。
「オアシスだ」
誰かが声を上げた。それにつられて視線を正面へ向ける。遠くの方にきらきらと太陽の光を反射する何かと青々と輝く緑が見えた。
今日はあそこで野営だ。水があるだけでもきっと体感気温が下がるだろう。そうしたらきっと、せいらちゃんも元気が出るかもしれない。オアシスに付いたら、ルクバト君にも声をかけて少しせいらちゃんと散策してみようか。
そんなことを考えながら、遠くで光る水の光に目を細めた。




