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60 王の鼓動


「待たせて悪かったな」


 そう言って現れたのは褐色の肌の快活そうな成人男性で。自信に満ちた笑みを浮かべていた。

 ノーモンの国主、ラスペルバさんは随分と親し気にレグルス王子に話しかけている。ノーモンはアヴィオールとも交流があるらしいし、何度か会ったことがあるのかも。

 とはいえまぁ、私には何にもわからないのでルクバト君たちと並んで後ろの方で大人しくしておく。


 挨拶から始まって、ノーモンまでの旅路はどうだったかとか、最近の国の情勢話だったりと和やかな話をしつつ、時々難しい話が挟まる。

 すごく自信家というか、力強い話し方をする人だなぁ。国の規模としてはアヴィオールの方が断然大きいのに、国のトップとしてはラスペルバさんの方が数段上なのかもしれない。それでも物怖じせずに話すレグルス王子はやっぱり王族というか、さすがだなぁ。


 ノーモンとアヴィオールには交易関係にある。この国の民芸である織物や、砂漠の果物を輸出し、アヴィオールからは魔法石の原石や加工品などを買っている。

 ……結局魔法石ってなんなんだ。アヴィオールで採れる魔法石は数はそれなりだけど大きさはそんなに大きくない様だ。とはいえ小さくても魔力を保有しているので電池のような役割をして家電を動かしてくれる。

 家電って言っていいのかは知らないし、耐久年数とかエネルギー残量とどうやって量るんだろう。


「さて、そろそろ本題に入ろうか」


 緩慢な動作で足を組み直しラスペルバさんが言った。

 交渉をするには随分な態度だが、今回はこちらからお願いする立場だしなぁ。


「神殿の場所だったな」

「ええ。詳しい場所と、立ち入りの許可をいただきたく」

「なるほどなぁ。それは構わねぇんだが」


 後ろに付いていた従者らしき人に何かを伝え、再びラスペルバさんがレグルス王子に向きなおる。

 ようやく大事な話に入るみたい。せいらちゃんは飽きていないだろうか。今のところ大人しくイクリール君の隣に座っている。大人しい子だし急に騒ぎ出したりはしないはずなんだけど、そろそろ手遊びを始めていないかが心配だ。

 真面目な話をする時はいつも隣で様子を見ていたし、飽き始めたらフォローしてたんだけどさすがに今日は離れているので様子を確認出来ない。ソファーの背もたれにすっかり隠れてしまったせいらちゃんは今どうしているのやら。


「お前はなんのために神殿を周っている?」

「世界を、人々を救うためです」

「そうじゃないだろう?」


 なんだか不穏な空気になって来たな。

 レグルス王子たちの背中側に立っているので彼らがどんな表情をしているのかはわからないが、ラスペルバさんが笑っている。そうじゃない、とは。あの人は何をもってそう言っているんだろう。もし根拠があるのなら公言してほしい。

 レグルス王子の一番の理解者であり、従者のアルヘナ君のイライラがピークに達する前に。可及的速やかに対処をお願いします。でないとこの人「お前にレグルスの何がわかる」とか言い出しそうなんで。


「お前は己を誇示したんだ。他の誰でもなく、お前自身のために」


 あの、本当に煽らないで。別のところに刺さってる。

 私が一人焦っている一方で、今まで静かに行く末を眺めていたイクリール君が声を上げた。


「お言葉ですが、ラスペルバ殿。自分のためで何が悪いんですか?」

「ほぉ?」

「僕らは国を預かる身分だ。国を守るのは自分を守ることでもある」


 ラスペルバさんが面白そうにイクリール君に視線を移す。


「国を治める者が自分のために行動してはいけないのですか? 自分自身を守ることで国の未来に繋がるのでは?」


 イクリール君はグラフィアスという国の第三王子だ。自国では内戦が起こっており、今はアヴィオールに身を寄せている。

 だからこその言葉なのかもしれない。

 今は自国に足を踏み入れることも出来ず、それでもいつかすべての諍いが沈静化した先で、自分の身を守るしか出来ない今に意味を見出したいのかもしれない。


 またラスペルバさんが面白そうに笑った。あの方楽しんでいらっしゃるなぁ。

 自分と同じ様な立場の、まだ自分よりも場数を踏んでいない若人たちの苦悩が余程楽しいらしい。


「神殿の場所は教えてやる、男を見せろよ」


 一通り若人の悩みを堪能して満足したのか、先ほど何かを伝えた従者から丸められた紙をレグルス王子に渡し立ち上がる。

 今日明日はお城のお部屋を貸していただけるみたい。また砂漠を横断することになりそうだし、せいらちゃんにはしっかり休んでもらわないとな。後、隣で未だにガルガルしているアルヘナ君にも落ち着いてもらって。

 ああ、それと。と、思い出したようにラスペルバさんが視線を落とす。その顔は今までで一番愉快そうであり、どこか悪戯めいた笑みでもあった。


「食っていいぞ、嬢ちゃん」

「いいの!」

「おう、とびきりうめぇから頬を落とさねぇように気を付けろよ」


 ああ、やっぱりマスカットを見てたんだ。相変わらず果物がお好きな幼女だ。砂漠の果実は甘いらしいのできっとせいらちゃんも気に入るだろう。

 部屋を出ていくラスペルバさんに大きく手を振りながらお礼を言うせいらちゃんをソファー越しに見つめて一息。

 なんか、何にもしていないはずなのに疲れたなぁ。



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