59 砂漠の果実は甘いらしい
砂漠の国、ノーモンはなんというかこう、にぎやかな国だった。
大きな中東風のお城へ向かう大通りには多くの露店が並び、鮮やかな色の織物や果物を売っている。ラクダに乗ったまま通り過ぎただけだが、随分活気のある街だなぁ。
国土のほとんどが砂漠で国民のほぼすべてが一か所に集まっている国だから、賑やかでもおかしくはないのか。
遠目に見えた大河は太陽の光を浴びてキラキラと輝いていて、少し眩しい。
川沿いの街なのもあってか、砂漠を横断している時よりも街の中は少し涼しい気がした。と言っても感覚的な話であって、日差しは強いし乾燥していることには変わりない。
日よけ兼砂除けのローブを払いながらブラキウムさんの手を借りてラクダを降りれば、先に降りていたせいらちゃんが目を丸くしてお城を見上げていた。
「心配ねぇとは思うが、お行儀よく、な?」
「わかった」
ブラキウムさんに言われて、せいらちゃんが緊張した顔で頷いた。まぁ、アヴィオールのお城とも雰囲気違うもんね。それこそアラビアンナイトみたいな世界は馴染みがないのかもしれない。
事前に話を通していたのか、今日はお城に泊まらせてもらえるらしい。まぁ、それもそうか。一応ノーモンからすれば他国の王子とそのお付きになるわけだし、無下には出来ない。
一部の騎士さんたちと別れ、使用人らしき人に案内されて玉ねぎ型の屋根のお城の中に入る。白い石造りの壁の内側は華やかな装飾に彩られており、床は細やかなモザイクタイルが敷き詰められていた。お城での暮らしで華美な装飾には慣れたつもりだったんだけど、それでもやっぱり圧倒される。
いくつかの扉を抜けて通された応接室は赤いビロードのカーテンに金の飾りがあしらわれていて、大きな窓が印象的だった。
部屋の中央にはお高そうなテーブルが鎮座しており、その上には果物が並べられている。
「マスカットあるね」
「本当だね」
さすがに、食べていいよとは言えないよなぁ。一応客だけど、ノーモンにある神殿に入らせてほしいってお願いする立場だしなぁ。
ソファーにレグルス王子とイクリール君が座るのを見届けてせいらちゃんを促す。ブラキウムさんはソファーのすぐ後ろにつくだろうから私は……ルクバト君たちと一緒にさらに奥でいいか。
「ノーモンのフルーツはとっても美味しいんですよ。時間があれば城下も見て回りましょう」
「みんなでおさんぽ? いきたい!」
何かとせいらちゃんを気にかけてくれるイクリール君に任せて後ろに下がる。
砂漠の果物は甘いんだっけ。昔なんかで聞いた気がする。昼と夜の寒暖差の影響で糖度が上がるんだったかな。確かに野宿中、いくらテントを張ってもらったとはいえ夜は結構寒かったわ。
砂漠の移動中もせいらちゃんを元気づけるためか、何度も傍で話しかけてくれた。結構落ち込んでたもんなぁ。
「お疲れ様っす」
「ありがとね」
隣に並んだルクバト君と短く言葉を交わして大人しくする。
時折振り返るせいらちゃんに手を振れば、笑顔が返って来た。うん。一時よりは元気になって来たな。
今のところ体調を崩してはいない。魔物に対して怖がってはいるし、いつも以上にべったりなところはあるが、これが今後せいらちゃん自身にどんな影響を与えるのか。まぁ五歳児だし、見たことない生き物が聞いたこともない叫び声を上げてたら怖いよなぁ。
一応ブラキウムさんの指示通り、移動中に魔物が出た際は視界をふさいだりはしていたけど、あの植物の魔物の件があったからね。目の前で襲われたのはまずかったかもしれない。
私自身は特に怪我もなかったし驚きはしたが、後ろからだったし魔物の姿も見ていなくて、本当にただただ驚いただけだった。
でもあのせいらちゃんの怖がりっぷりを思うと、そう何度もああいう状況を作るべきではないよなぁ。魔物に遭遇しない、というのは無理だろうが、近付かないよう徹底した方がいいのか。……それもそれで難しいよな。
半分冗談で鍛えるとか言っていたけど、もしかして本当に筋トレが必要になってくる? 筋肉はすべてを制する?
そういえば星の神子の力って魔法石の活性化以外に何が出来るかな。多分せいらちゃん自身もわかっていなさそうだし、エルナトも何も言っていなかった。
他にも力があるなら、せいらちゃん自身も自分で身を守れていいかと思ったんだが。
でもまぁ世界の魔力が枯渇しているのと、魔物が増えてるのは別問題だし。こっちは地道に間引いて行かないといけない。
そんなことを考えていたら一人の男が部屋に入って来た。
「待たせて悪かったな」
ずんずんと扉を開け放ちテーブルまで足を進めた褐色の肌の成人男性は快活そうで自信に満ちた笑みを浮かべている。
この人がノーモンの国主、ラスペルバさん。……この世界の国の代表って皆若いな。まぁ元々はゲームの世界だし、こんなものか。
なんて、自分は直接話をしないのをいいことに、思考を明後日の方向へ放り投げて目の前で行われる難しい話を聞き流すことにした。




