↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
58/127

58 乾いた空気を吸って

Side第二王子


 ノーモンへ向けてラクダを進める。

 目の前には騎士たちが重そうな鎧を物ともせずに砂の大地を歩いている。彼らは時折、砂の中からこちらに向かって来たリザードやボアを退けつつ行軍しているのだから、日頃の鍛錬の違いを自覚させられざるを得ない。

 私ももう少し、鍛錬をする時間を増やした方がいいのだろうか。


「結構揺れますね」

「ああ、ようやくラクダでの移動にも慣れてきたところだよ」


 トットッと、砂を踏み締める音と共にイクリールがラクダを隣に付ける。砂漠の長旅については、セイラはもちろんイクリールの体調も心配していたのだが、彼自身は問題なさそうだ。

 遠くをガルーダが飛んでいく。戦争の影響で魔物が増えているとは聞いていたがこれほど頻繁に遭遇するとは思っていなかった。


「顔色が悪いですね」

「そうかな。自分では特に不調は感じていないんだけど」

「表情が暗いと言った方がいいかもしれません」


 表情が暗い、か。まぁ、自覚はある。昨日あんなことがあったんだ。気に病むなという方が難しい。

 昨日、ナナさんがエアプラントに襲われた。植物系の魔物は擬態が上手く見分けが付きにくいとはいえ、完全にこちらの失態だ。実際にセイラを怖がらせてしまったし、変わらず笑顔を見せてくれているが、ナナさんもそうに違いない。

 怖がらせると思い伝えていないが、砂漠に生息する植物系の魔物は生き物に寄生して養分を得るために、砂の中に引きずり込む習性がある。本当に、すぐにアルヘナやルクバトが対応してくれてよかった。


「そんなに気になるなら二人に声をかけてあげればいいのに」

「……そう、だね」


 イクリールはそう簡単に言ってくれるが、あの時私は動けなかったんだよ。

 ナナさんが咄嗟にセイラを私の方に押した。それを受け止めるだけ精一杯だった。腰に剣を下げていたし、魔法だって……。にもかかわらず、何も出来なかった。

 自分にはなんの力もないと笑いながら言った女性が、身を挺してセイラを庇うのを呆然と見るしか出来なかった。


 そうだ。ナナさんはそういう人だ。彼女は、自分は何も出来ないからと。セイラの生活のフォローがメインだと言っておきながら、本当に何かある時は自分の身を挺してセイラを守ろうとする人だ。

 知っていたはずだった。ミラムで龍神が現れた時、ナナさんはセイラを抱え込むように守っていたじゃないか。

 そんな人の前に、どんな顔をして会えばいいんだ。


「レグルスが行かないなら僕が行きますよ?」

「ああ、二人を頼む」


 セイラはあれからナナさんにべったりだ。

 ナナさんは気にした様子もないが、砂漠の旅はセイラにとって苦い思い出になってしまったかもしれない。


「どうすればいい? どうすれば、何もかも守れる?」

「目的を見誤るなよ、俺たちが守るべきは国だ。アヴィオールを守るついでに世界を守るんだ」


 後ろに控えていたアルヘナが静かな声で言い放つ。

 そうだ、わかってる。そのためにセイラとナナさんの未来を犠牲にしたんだ。国を守るために、唯一世界を救うことが可能な星の神子を召喚した。セイラを守るのは世界を、アヴィオールを守ることに直結する。ではナナさんは?

 あの人は本当に巻き込まれただけだ。エルナトは前世の縁と言っていたが、今の彼女には何の関係もない。


「動けなかったんだ、あの時」

「それでいい、最優先にすべきは星の神子だ。神子さえいれば、魔法石の活性化は出来る」


 本当にいいのか? セイラはまだ幼い。自分が懐いているナナさんが傍にいるから我々に協力してくれているだけなんじゃないのか。なら、ナナさんがいなくなれば……。

 ダメだ。絶対にダメだ。そもそもこちらは巻き込んだ側なんだ。私には彼女たちの安全を守る義務がある。アルヘナだって、本当はナナさんを憎からず思っているくせに。


「私には平穏に暮らしていた彼女たちを巻き込んだ責任がある」

「それを全うするためにも、俺らは先に魔法石をどうにかしねぇといけないだろ。あの女もその辺りは理解してるはずだ」


 確かにあの人は割と呑み込みの早い人ではあるが、それに甘えすぎるのも良くないだろう。あの人がどこまで私たちの事情を察しているかはわからないが、これ以上甘えるわけにはいかない。

 第一、私は彼女たちに自分の置かれている立場を話せていない。だと言うのに、アルヘナは。


「随分と、ナナさんを理解してるんだね」

「はぁ?」


 何で嫌そうな顔するかな。


「どうして君ナナさんのことになると雑になるんだ? てっきり仲がいいんだとばかり思っていたんだが」

「ンなわけあるか、あんなわけわかんねぇ女」


 またそんなことを言って。昨日だって、一番に動いて助け出したと言うのに何が気に入らないのか。

 アルヘナの方から何かと話しかけに行っているし、年齢は離れているがいい友人関係を築いていると思っていたんだがな。


 何やら不満そうな顔でぶつぶつと呟いているアルヘナにため息を一つ。

 問題は、世界に広がっているものだけじゃない。私自身の中にも、数えきれないほど転がっている。それをすべて解決出来る日はいつになるのか。ナナさんの様に、事情を知った上で飲み込めるようになるには、どれくらいかかるんだろうか。

 乾いた空気を吸って顔を上げる。砂漠に浮かぶ国が見えてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。