48 正しい余暇の過ごし方
この先は何が起こるのかわからない、という不安が殆どないのはこの世界の人々がかなり気を使って守ってくれているからか、それとも単に私が鈍いのか。
お城に戻ってきて数日、こまめに時間を作ってはイクリール君が会いに来てせいらちゃんと遊んでくれている。約束通りせいらちゃんは一生懸命イクリール君にディアデムであったことを話しているし、イクリール君も楽しそう話を聞いてくれていて。
今もお城の中庭で二人座り込んで笑い合っている。
今回の旅には用事があるとかで一緒に行けなかったが、本当はシュルマさんが何かしてたんじゃないかと思っている。
イクリール君は十一歳だ。あの炭坑の奥にいる子と同じ年。連れて行きたくなかった、というか行けなかった。シュルマさんが最初からあの炭坑の話をするつもりでいたのなら、イクリール君が傍にいると余計に身近に感じてしまう。
きっともっと、レグルス王子やアルヘナ君が思い詰めていただろう。なんて、全部想像でしかないけど。
せいらちゃんとイクリール君が四葉のクローバーを探しながら話しているのを少し離れて眺める。平和だなぁ。
なんとなくこの前ルクバト君が言っていたことがわかる気がする。騎士の人たちはこんな光景を守るために頑張っているのか。
「随分とまぁ、平和なこった」
中庭の噴水に腰かけていると背後から声をかけられた。
「ブラキウムさん」
「元気だったか?」
昼間会うのは本当に久しぶりな気がする。
もしかしてお昼に会ったのってルクバト君を紹介してもらった時くらい? 後は夜に部屋まで会いに来てくれてたし。……字面を見るとアレだが別にそういうのは全くない。瓶ビールを恵んで貰ってちょっと話すだけの間柄だ。
子供たちの様子を眺めながら世間話をする。せいらちゃんについてや、神殿を周ったレグルス王子の話。しばらく聞いた後少しだけ笑ってブラキウムさんが言った。
「あんたはどうだった?」
どうだったって聞かれましても。
「今まで私は随分と平和に生きてきたんだなぁと」
「そうかい」
多分、ブラキウムさんや他の人から見ても平和ボケして見えていただろう。それが悪いわけじゃないと思うけれど、その自覚もなかった。
実際に生死感が近い場所に赴いてもまだ実感がない。知識としては炭坑のカナリアの話は知っていた。坑道の話だって、そういう事故があるのも。でも結局は知識として知っていただけで、ちゃんとわかってはいなかった。
そういうのも全部呑み込んで守りたいものが見えているルクバト君の方が私よりずっと大人だと思う。
「私自身何がしたいのか、何が出来るのかわかってないんですよね」
「それで?」
「でも自分に懐いてくれる子ぐらいは守ってあげたいと思うんですよ」
ブラキウムさんが笑った。
最初は子供は守るものだと言う理由だけだった。いくらゲームの主人公だとしても、五歳児になった女の子を一人にするのは忍びなかった。でも今は、あの子の存在に。あの子に求められていることに安心している。
目が合えば、途端に笑顔になって自分の名前を呼び駆け寄ってくる。何の警戒心も抱かずに抱き着いて来るか弱い存在に私の方が助けられている。
「私、鍛えた方がいいですかね」
「なんでそうなった」
「いや、やっぱり幼女を守るのには筋肉が必要かなって」
ブラキウムさんが残念なものを見る目で見てくる。いやだって、元の世界には力こそパワーって格言もあるくらいだし。出来ること増やしたいなぁ、なんて。
とにかく、何かしら出来ることがあればこのなんとも言えないもやもやも消えて無くなるんじゃないかと思って。
うん、そうだ。私、暇なんだ。基本的にせいらちゃんはいい子で愚図ったりもしないし、いつも誰かしらがせいらちゃんを構ってくれて手持無沙汰な時間のせいで余計なあれそれを考えるんだわ。趣味を持てって話かもしれない。
筋トレ、趣味に出来るかな。運動不足の自覚はある。ただ、あんまり根性無いので続かないかもしれない……。
「ルクバト君に誘われたんですけど、今度せいらちゃんと一緒に訓練場に見学に行ってもいいですか?」
「構わねぇが、訓練はさせねぇからな?」
「さすがに騎士さんたちの訓練には付いて行けないですよ」
大人しく、趣味は読書にしておこう。この前話も出たし、シュルマさんに文字を教えて貰うか。元オタクだし文字が読めて本を貸し与えてもらえたら後は勝手に物語を咀嚼出来る。
なんとなくの目標を見つけて、一安心する。特別優秀でもないのに考えすぎるのってやっぱり良くないんだね。出来ることをやろう。
まずは文字の勉強だな。せいらちゃんも文字の勉強には意欲的だったし二人であいうえお表から始めるか。やっぱり単語帳とかも作るべき?
「ななちゃん!」
不意にせいらちゃんの嬉しそうな声が聞こえてそちらを向く。
「ななちゃんにあげるね!」
「あら嬉しい。ありがとう、せいらちゃん」
「うん! みんなのぶんもさがす!」
「いってらっしゃい」
「こけるなよー」
「はーい」
慌ただしくイクリール君の元に帰って行くせいらちゃんを見送って渡された草に視線を落とす。
一つの茎から葉が四つ。何とも可愛らしい贈り物である。
「十分あの嬢ちゃんの笑顔を守れてるじゃねぇか」
「逆ですよ。私がせいらちゃんに救われてるんです」
茶化すように笑ったブラキウムさんに答えて貰ったばかりの四葉のクローバーを日に翳す。
こんな日が続けばいいなあ。
求めれば筋肉は応えてくれる。ただサボれば筋肉はすぐに見捨てもする。
次話ラスト!




