47 モチベ保つのは本当に大事
街の滞在日数よりも移動日の方が長い旅がようやく終わる。
カタカタと揺れる馬車の窓に王都が見えてきた。木々の合間に城や背の高い建物が見え隠れしている。この林の並ぶ坂道を越えた先に、王都の入り口がある。
私の膝の上に頭を乗せて眠るせいらちゃんが椅子から落ちない様に軽く支える。
「ぐっすりっすね」
「うん。帰ったらルクバト君はどうするの?」
「しばらくは休暇っす」
前の席に座ったルクバト君がひそめた声で笑った。休暇が終わり次第また鍛錬を積んで任務に励むと言い切る辺り、どれほど明るい子でもちゃんと騎士勤めしているんだなぁと実感する。
住む世界の違いか、環境の違いなのか。とにかく平和な世界で私は育って、且つこちらに来て以降も実はすごく守られていたんじゃないかと思わされる。
「ナナさんは引き続きセイラちゃんと一緒に神殿を巡るんすよね?」
「うん。国内の神殿は全部回ったから、入国の許可が出た順に回っていくことになると思う」
この辺りはレグルス王子やシュルマさんに聞かないとわからないが、多分色々と話し合って危険度の低いルートを選ぶんだと思う。
他国はアヴィオールに比べて魔力が枯渇している影響を色濃く受けていると聞いたが、護衛の騎士さんたちが増えるのかな。
「とはいえ、他国に行くとなるとまた色々準備する時間があるし、当分先になるんじゃないかな」
この先の展開は何も知らない。ふわっと新キャラが出たとか、あのキャラが活躍したとかいうのが話題に上がったような気がしないでもないが、プレイしていないのだから何も印象にも残っていない。
あの頃は何枚もエントリーシートを書いて、夜な夜な半泣きになりながら面接の練習をしていた記憶しかない。……これがあるから転職しようって気力がわかなかったんだろうなぁ。もうあんなのやりたくない。
一か月以上出社してないけどどうなってるんだろうか。帰れないのはわかっているが、家の方も気になる。いや、やめにしよう。冷蔵庫に卵と野菜が残ってたのを思い出した。あれを片付けなきゃいけないのを考えたくない。
「なら、その時も俺を呼んでくださいね」
「それは助かるけど、いいの?」
「もちろんっすよ! 俺なら体力もあるし、力仕事やせいらちゃんとの遊び相手にもなるんで!」
にかっと笑うルクバト君は、なんていい子なんだろ。
ルクバト君がいてくれると本当にありがたい。主に幼女の体力面で。一緒に走り回ってくれるし、私の手が開いてない時もルクバト君と手を繋いでくれるし。そういう意味ではイクリール君もありがたい。小さいから目は離せないのは変わりないが、傍にいてくれるとものすごく助かる。
「まぁその、本音を言いますと、今回出る前にかなり羨ましがられたんすよね」
「羨ましがられた?」
「騎士団ってどうしても男所帯になるんで。ちっちゃい子が元気に走り回ってるのとか皆めちゃくちゃ見たがるんすよ!」
武骨なお兄さんたちも幼女に弱いのか。なんかかわいいな。
まぁ前回も今回も一緒に来てくれた騎士さんたち皆いい人だったもんな。ぜひ幼女に癒されてくれ。
「あ! ナナさんさえよければ、暇なときにせいらちゃんと一緒に訓練所にも顔出してくれません? 皆絶対喜ぶんで!」
「構わないけど……邪魔にならない?」
「大丈夫っす! 団長が何か言いかけても皆で説得するんで!」
そこまでして幼女見たいんだ。
「俺ら基本、仕事仕事でちっちゃい子と関わる機会はないんすけど、自分たちの剣で子供を守れるんだって思うと訓練の力の入り方も違うっつーか」
剣を撫でて優し気に笑うルクバト君に自分にはないものを見る。ちゃんとしてるんだよなぁ。
仕事に対してやりがいとか、その先に繋がっている目標がちゃんと見えていて、そのために頑張るんだっていう意志が見て取れる。目標のためにやるべきことがちゃんと見えている。
私なんてとりあえず食べて、ちゃんとしている大人、という風に見せるために働いていたにすぎないのに。
「すごいなぁ君は」
「そうっすか? もっと褒めてくれてもいいんっすよ?」
「偉いぞ! さすがは未来の騎士団長!」
「でしょ!?」
にこにこと嬉しそうに笑っているルクバト君の人懐っこさが羨ましい。これくらい愛嬌があったら、かなり人付き合いも楽しかっただろう。
愛嬌もあって、目指すものもあって、守るべきものも見えている。私の方が三つも年上のはずなのになぁなんて。情けなさ、とは違うけど、ほんの少しの虚しさがある。仕方ないとは言えなんの積み重ねもしてこなかったんだよなぁ。
ならせめて、この膝の上で眠る小さな子供の笑顔くらいは。
馬車が揺れる。響いていた蹄鉄の音が変わった。舗装された道に入ったんだろう。揺れ方も先ほどと違う。
窓の外を見れば門を潜り抜けたところだった。どうやら城下町に帰って来たらしい。
王都には訪れたことがないから見慣れない風景が流れていく。それでも、なんとなくほっとしている辺り、私もこの世界に馴染んだということだろう。




