41 祈りの形
最近幼女基準で寝起きしているから朝も夜も異常に速い。
夜は定時になると幼女に手を引かれベッドインし、子供特有の高い体温を感じながら眠りに落ち。朝は小さなおててで頬を叩かれながら目が覚める。この生活を知ったら、何をするでもなく日付が変わってもだらだらと起きて上手く寝付けず朝を迎えていた頃には戻れない気がする。
要約。今日も幼女は元気です。
さて。そんなディアデムでの朝を迎え、朝食後は昨日言っていた通り、皆でシュルマさんのご両親に会いに行くことになった。生憎アークさんはお仕事で不在ではあるが、護衛の騎士さんたちも含めたらかなりの大人数だ。押しかけても大丈夫かな。
シュルマさんに案内されながらぞろぞろと階段を上ったり坂を降りたりする。スピカさんの手前一応背筋を伸ばしているが、少し前でアルヘナ君は興味が無さそうだ。いかにもレグルス王子が来るので来たって感じ。難儀な人だなぁ。
「あかちゃん」
「ああ、ハリスって言うの。仲良くしてあげてくれる?」
「うん! ちっちゃいね、かわいいね」
ルクバト君と手を繋いでいるせいらちゃんが、不意にスピカさんの腕の中の赤ちゃんを見上げた。何ともまぁ微笑ましい光景だ。これが坂道と階段以外の場所であったならいくらでも見ていられたんだがな。
だんだん景色が居住区とも倉庫区画とも違う一画になって来た。いくつ目かの階段を上り切った時、前方で息をのむ声が聞こえた。あれは、レグルス王子の物だったのか、アルヘナ君の物だったのか。とにかく、階段を登りきった先で、前を歩いていた二人の態度が変わった。
何かあったのかと二人の間から覗き込めばそこに広がっていたのは、切りそろえられた石の群れ。
共同墓地だ。ありえない話ではない。シュルマさんの年齢を考えたら少し早いような気もするが、普通に、あることだ。
いや、単に元の世界の医療が発達していたし、平均寿命も延びていたから早いと思うだけかもしれないが。
「一番奥でしたね」
「ええ、すぐにわかるわ」
姉弟がどんどん進んでいく。
対して私の前を歩いていた青年二人はちょっと気まずくなっている。
「おはか?」
「うん。ご挨拶してね」
「わかった」
それに加え、幼女の落ち着きっぷりよ。
あんまりこういうのに慣れていてほしくはないなぁ。いずれ必要になったとしても。この年ならまだ、墓地の雰囲気に圧倒されて怖がっている方が健全かもしれない。……この子は、何度お母さんに会いに行ったんだろうな。
案内された先には墓石のサイドに薔薇の木が植えられている。樹木葬の亜種だろうか。茨が墓石を傷付けないかという邪推は置いておいて、愛されていたのだろうと言うのはわかる。
「随分とまぁ」
「いいでしょ。見つけやすいし、華やかだし」
「あなた、母さんが花粉症だったこと忘れてるでしょう?」
「そうだったっけ」
緩いなぁ。大らかな家族だったのかもしれない。
花粉症のお母さんは心配だが、弔う人がいいなら、それでいいのか?
「せんせーのおとうさんとおかあさん、ここ?」
「ええ、そうですよ」
「はなぶさせいらです」
確認を取ってすぐ、幼女が手を合わせる。手慣れてるんだよなぁ。
せいらちゃんのお母さんの話はまだだれにも言ってない。正直誰に話したものかと思っている。レグルス王子に話すのは今以上に気を使わせそうだし、シュルマさんに話すならもっと早く話しておくべきだったとも思う。
言い触らすことでもないからと様子見していたら完全に機を逃した気がする。
「手を、合わせるのはセイラのいた国の作法なのですか?」
「さほー?」
「ええと、お行儀やマナーですね」
「神仏にお祈りをする時は大体手を合わせますね」
「そうなのですね。では、私もそれに倣って」
首をかしげる幼女に代わって説明を入れればレグルス王子もせいらちゃんの隣にしゃがみ込み手を合わせた。
幼女と西洋風イケメンが並んで手を合わせる様は随分と異文化味がある。こっちでは死者に手を合わせる文化はないんだろうか。祈りを捧げる機会はこっちの方が多いんだろうけど、細かいところで作法が違うんだろうな。
手を合わせている背中を見つめていると、アルヘナ君が隣にたった。
「なぁ、ちびちゃんなんか慣れてね?」
声を潜めてはいたけど、レグルス王子には聞こえていたと思う。
言わせちゃったなぁ。と、思わなくもないが仕方がないだろう。作法も習慣も違うとは言え、まだ五歳の子が死者に祈る習慣が身に付いているのは彼にも思うところがあったんだろう。
「うん、すごく身近な人が亡くなっていたみたい」
「それって」
「一親等の片方って言えば、伝わる?」
せいらちゃんに聞こえてもわからない様に、伝わり辛い言い方をする。
少しだけレグルス王子の背中が揺れた気がした。
「そういうこと」
横目で見た彼は眉間にシワを刻んでいて。擦れてはいるけど、いい子なんだよなぁ。突然現れた私たちを今一信用出来ていないくせに、それでも小さな子に起こった不幸を許せないでいる。
静かに祈るせいらちゃんの背中を眺めて心底嫌そうに、アルヘナ君がため息を吐いた。
穏やかな日常の中に潜む、ちょっと嫌な感情。




