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40 姉なるものは


「私はスピカ。その人の妻で、そっちのしかめっ面した男の姉よ」


 からりと赤ちゃんを抱いた女主人が笑った。

 何ともまぁはつらつとした女性だ。鉱夫の妻はこれくらい力強くないといけないのかもしれない。いや、アークさんは領主なので実際に山に入ることはないのかもしれないけど。


「夫人という言葉が似つかわしくない人ではありますが、その辺りは鉱夫の娘と、ご容赦ください」

「畏まってまぁ。それはあんたもでしょ」


 姉という生き物はどこの世界でも変わらないんだなぁ。絶対的な力関係。下剋上を許さない物言い。人当たりはいいんだけど、気が強くて身内にいられると場合によってはちょっと面倒臭い。

 そんな姉が兄弟同然に育った相手と結婚しているのは確かに微妙な気持ちになるかもね。

 嫌ではないし、気心知れた相手なら安心も出来るが、変に色々考えてしまうだろう。シュルマさんも身内のそういうの気まずいタイプか。


 とは言え、仲が悪いわけではないみたいなんだよね。多分故郷に帰り辛かったのはこの件があるからだけで、屋敷に来るまでの間散々声をかけられていたしシュルマさん自身は街の皆に愛されて育ったんだろうと想像に容易い。

 きっとお城に勤めるとなった時も、多くの人に見送られたのだろう。むしろ、そういう街ぐるみでの誉めそやしがくすぐったかった可能性もあるのか。シュルマさん大人だし。


「あんたも押されるんだな」

「お望みならば、あなたのことも可愛がって差し上げますよ」

「いらねぇよ」

「まぁそう言わずに」


 へらりと笑ったアルヘナ君を捕まえて、ぐりぐりと頭を撫でるシュルマさんを眺めて苦笑いする。あーあ、揶揄おうとするから。

 シュルマさんもそういうことするんだな。私やせいらちゃんに対しては徹底して大人な態度をとってくれているのでちょっと意外。もしかして久しぶりの帰郷でちょっと浮かれていらっしゃる?


「成長しねぇなぁ」


 カラカラ笑うとアークさんにつられて、せいらちゃんも笑う。

 この子本当に怖いもの知らずだよね。幼女の間のみ許される所業か。


「アイツ昔はかなりの悪ガキだったんだよ」


 アークさんが悪戯っぽく笑う。それは本人の許可なく聞いていいものなのか。今は澄ましたお顔でよく雨やチョコをくれるお兄さんなのに。

 不思議そうな顔でせいらちゃんがアークさんを見上げる。幼女にはシュルマさんの子供時代を想像するのはちょっと難しかったかな。


「せんせーわるいこだったの?」

「おう。悪戯してはスピカにゲンコツ食らってたんだよ」

「元ガキ大将が何言ってるんだ。お前もだっただろ」


 心底嫌そうな表情をするシュルマさんが余程面白かったのか、せいらちゃんがくふくふ笑っている。

 この様子から見ても本当だったんだろうなぁ。二人で遊び回って、危ない遊びをしては怒られたのかもしれない。さてはシュルマさん都会デビュー頑張ったクチか。


「ああそうだ。折角来たのだから、お父さんたちにも挨拶していきなさいね」

「ええ、後で行ってきます」


 姉弟の会話にそれもそうかと納得する。

 しばらく帰っていなかったのなら、会いに行った方がいい。私は、まぁうん。もうちょっと帰っておけばよかったかとも思わなくもないが、帰ったら帰ったでもやもやすることもあったので、やっぱり電話での繋がりだけで良かったかもしれない。

 もう会えないのを加味すると、少し申し訳なくもなるけどね。


「それなら私も。シュルマにはいつも世話になっているので」

「じゃあ明日皆で行きましょう! その方がきっと二人も喜ぶわ」


 レグルス王子の申し出にスピカさんがぱっと明るい表情になる。

 一応、今日はこのまま一休みして明日は一日せいらちゃんの様子見、移動での体調の変化を観察する予定だった。

 鉱山の中にある神殿へと向かうのは明後日だし、せいらちゃんの体調次第では問題もない。


「せんせーのおとうさん……、せいらもいく!」

「ええ、もちろん! 一緒に行きましょうね」


 スピカさんとにこにこするせいらちゃんの向こうでマジか、という顔をしたアルヘナ君と目が合った。面倒臭そうに肩を落としていて思わず苦笑する。

 まぁ彼はこういう繋がりを面倒臭がりそうではあるね。なんと言うかこう、アルヘナ君の中心はレグルス王子だし。そこから反れたものは全部煩わしいと思っているのかもしれない。


「ななちゃん、たのしみだね」

「会ったら一緒にご挨拶しようね」

「うん!」


 早くも明日が楽しみの幼女に頷きつつ、これから数日お世話になる部屋に案内してもらう。

 例に漏れずせいらちゃんと二人部屋だ。


 因みに、お城の別途が最高級なだけで、お借りしたベッドもとてもよかった。そろそろ寝具ソムリエになれるかもしれない。

 こっちに来てから馬車内と、いいベッドを交互に使っているので睡眠の質が反復横跳びしている気がする。一時期サウナなんかでよく言われていたが、これが整うってやつなんだろうか。サウナは負荷の蓄積の方が多そうだけど寝具の方は果たして。

 ……、私はどこに行きたいんだろうな。


姉と弟。

あと十話で一部完結!

近いうちに毎日投稿もやります。

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