39 気まずい理由
馬車で数日揺られて辿り着いた街は、何とも不思議なところだった。
鉱山の街、ディアデム。山を切り開いて成り立った街は、坂道と階段が多く幼女の足元に注意しながら小高い丘の上にあるこの街の領主のお屋敷を目指す。
それにしても、そこかしこによくわからない機械があって異界味があるなぁ。いや、異世界なんだけど。鉱山、というか機械の街みたいな感じだ。
ずっと街中にある機械が動いているため、馬が休まらないだろうと、街の入り口にある役場に馬車を置かせてもらうことになったが、結構坂道と階段がキツイ。
ここで生まれ育ったはずのシュルマさんもどこかうんざりした表情をしている。いや、レグルス王子たちがけろっとしている辺り、ただの年齢と体力なだけかもしれないけれど。
「あれすいしゃ?」
「ちょっと違うね、おっきい歯車が回ってるね」
「はぐるま?」
「うん。危ないから触っちゃだめだよ」
「はーい」
街のあちらこちらで回る歯車を指さしてせいらちゃんが不思議そうな顔をしている。
大きくて回ってるものからな、この前水車見たし間違えても仕方ないよ。いっぱいなぜなにして大きくなれ。
「ハコにいしがのってる」
「あれはトロッコ。下に線路があるでしょ? あの上を走るんだよ」
「でんしゃのなかま?」
「そうそう。そんな感じ」
若干息を切らして街を歩きながら先行するシュルマさんに付いて行く。時折すれ違う人たちに挨拶される程度には、シュルマさんは街の人に好かれていて、改めて本人が故郷に帰りたくなかった理由に疑問を持つ。
一先ずはあの屋敷に住むシュルマさんの知り合いに会いに行くらしい。その人がこの街の神殿を管理していて、私たちが泊まる宿の手配もしてくれるんだとか。有難いね。
しばらく野宿、まぁ私とせいらちゃんは馬車の中でなんだけど、ちゃんとしたところで休んでないから体がバキバキなのよ。
「あれは山から下ろして来た鉄鉱石ですね」
「てっこー?」
「剣や、さっき見た歯車を作るための材料です」
「あんなにおっきいのになるの?」
シュルマさんの説明を聞いて目を輝かせるせいらちゃんはまだまだ体力があるらしい。さすがは五歳児。元気があって羨ましい。
何気なく見た若人たちもシュルマさんの話を聞きながら興味深そうにしている。レグルス王子に関しては自分の国の産業を直接見る機会というのは楽しいものなんだろうと納得出来るのだが、アルヘナ君とルクバト君も楽しそうに聞いているのは意外だった。
やっぱりあれか。男の子は皆機械とかドリルとかロボットとか大好きなのか。
それはそうと、シュルマさんは大丈夫だろうか。故郷が居心地が悪いと言っていたけど。
草臥れている様子はあるが、顔色が悪いとかそういうのはない。何なら幼女に合わせて歩幅を調整する余裕もある。
そんなことを考えながらいくつ目かの階段を上り切った先で背の高い男の人が声をかけて来た。
「おう、久しぶりだな」
「ええ。久しぶりですねアーク」
背も高く、がっしりとした男の人だ。この人が言ってた知り合い?
領主と言うから物凄いカチッと格好か、お高そうな立ち姿かと思いきや、オフィスカジュアルみたいな硬すぎず緩すぎずないでたちの人が来たな。
「彼はアーク、この街の領主です」
「お初にお目にかかります。アークと申します」
「聞いていると思うが、レグルス・ヴィルヘルム・テンペルだ」
挨拶をするレグルス王子に倣って軽く頭を下げておく。
簡単な挨拶と共に話をすれば、何でもシュルマさんとは幼馴染なんだとか。地元が気まずいって言ってたけど気安い友人はいるみたいだ。しばらく話していたかと思うと、不意にアークさんが私とせいらちゃんを見降ろす。
「それにしても、お前いつの間に妻子持ちになったんだ?」
「違いますよ。手紙にも書いたでしょう」
まぁ、ある程度年を重ねるとそういう話題を振られるよね。
久しぶりに帰る地元とか特に。うちの親にも散々言われたわ。
「勘違いして悪いな、姉ちゃん」
「いえいえ、お気になさらずに」
「因みにどうよ、シュルマの奴は。ウチの街きっての出世株なんだが」
「馬鹿なことを言ってないで行きますよ」
こういう親戚いたなぁなんて思いながら苦笑いする。確かにこういう話ばかり振られる様になると地元に帰りにくくなるよね。
誰々ちゃんは結婚して孫も二人いるとか、何々君は地元の大きな会社に入ってるとか。そういうのは自分のタイミングというものがあるんですよ。
「ンなこと言ってもよ。あれでスピカも心配してんだぞ」
「適当に誤魔化しておけ」
「へいへい」
不意に現れた雑な扱いに二人の仲の良さを確認する。いつも割と丁寧な話し方をしてくれているけれど案外素は粗雑な物言いをする方なのかもしれない。
この街についてとか、シュルマさんの子供の頃の話だとかを交えながら今度はアークさんがお屋敷までの道のりを案内してくれる。途中せいらちゃんにも気を配ってくれる辺りよく見えている人だと思う。
「歩き疲れてないかー?」
「だいじょうぶ!」
「お、偉いな」
シュルマさん同様、子供の扱いが上手いな思えば、アークさんのところにも子供が生まれたばかりらしい。
そうして辿り着いた屋敷では、赤子を抱えた女性が出迎えてくれて。
「あら、結婚したなら言いなさいよ。シュルマ」
「二人そろって同じこと言わないでください、姉さん」
ああ、うん、はい。なるほど。
幼馴染と姉が結婚してる地元とか、確かに帰るの気まずいわ。
思ってたのとは違う気まずさが来たな。




