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37 やる気元気


 二度目ということで特に問題もなくスムーズに四つ目の神殿への旅は始まった。

 前回と同じように二つの馬車に別れつつ、通常よりも休憩と宿泊日数に余裕を持たせた行程で進行する旅は馬車の緩やかな揺れと共に進んでいく。


 一つ前の馬車にはレグルス王子とアルヘナ君の二人が乗っている。

 イクリール君は何か用事があるとかで今回は一緒には来れないらしい。とても残念がっていたし、何なら帰って来たら話を聞かせてくれとせいらに約束を取り付けていた。

 詳しくは聞いていないが、なんとなくシュルマさんが言い辛そうにしていたので大人しくしておいた。


 そしてこの馬車には私とせいらちゃんの他にはシュルマさんとルクバト君がいる。

 最初はシュルマさんはレグルス王子たちと同じ馬車に乗る予定だったが、幼女の「せんせーこっち」の一言で事情が一変した。

 最近何かとせいらちゃんと仲良くなりたがっているレグルス王子が何か言いかけたものの、幼女がにっこにこでシュルマさんと私の手を引いて馬車に乗り込んでしまった。休憩の時、それとなく話を振るか。


 と、まぁそんな感じで、せいらちゃんはシュルマさんの隣でにこにことお話を聞いている。窓の外で流れる景色だったりこれから行く街についてだったり、シュルマさんは可能な限り噛み砕いて話してくれるので幼女ちゃんも目を輝かせながらあれこれと気になることを聞いている。

 そんな様子をルクバト君と並んでぼんやりと眺めた。


「ご機嫌っすね」

「途中でばてないかだけが心配」

「子供って突然体力切れ起こしますもんね」


 いっそ寝てくれたら楽なんだろうが、隣ではしゃがれているシュルマさんには申し訳ない。

 それにしてもせいらちゃんはシュルマさん大好きだよね。聞いたら聞いただけ答えてくれるから? 私も可能な限り答える様にはしてるけど、わからないことは「後で誰かに聞いてみようか」でごまかしたりするし。


 やっぱりなんでも答えられる様に、私ももう少し勉強した方がいい?

 そのためには早めにこっちの文字も覚えないとなぁ。正直、こっちの文字ってアラビア文字っぽくて解読できる自信ない。せめてアルファベットであって欲しかった。

 これならまだモールス信号の方がまだ覚えやすそうだ。


「どうしました?」

「いや、色々覚えないとなと思って」


 不思議そうなルクバト君に肩を落としながら答える。

 この年から始める第二言語かぁ。苦労する未来しか見えないな。


「せいらちゃんのなぜなにに答えられる程度の知識を持ってないとなぁと思って。後わからなくても後で調べられるようにいい加減こっちの文字も覚えないと」

「真面目っすねぇ。俺座学は全然なんで」


 机に向かうと眠くなると言うルクバト君に苦笑する。いつも書類仕事はひぃひぃ言いながらやっているんだとか。

 まぁ、私だってあんまり勉強は得意じゃないけどね。この前ちゃんと勉強したのっていつだろ。一昨年資格取った時?

 資格取ったら手当てが付くって聞いて勉強したのに、手当五千円だけだったんだよね。いいんだけど。その後すぐに、色んな波に煽られて会社の経営も怪しくなっていったんだっけ。……なんか嫌なこと思い出したな。


「なら、教えましょうか? 文字」


 思わず遠い目になった私にシュルマさんが言った。

 以前もちょっと文字の話は出たけど、その時は先に生活に必要な知識を詰め込むのを優先したしな。あれから約一か月ほど経って、この世界での生活にも慣れて余裕も出てきたしその申し出は有り難い。


「いいんですか?」

「ええ、あなたはそろそろ覚えないと不便だろうと思っていましたし」


 後は、とばかりにシュルマさんがせいらちゃんの方を見る。

 まぁそうよね。私がやるなら、一度にまとめてしまった方が手間もない。


「セイラ。ナナがこの国の文字を勉強すると言っていますが、あなたはどうします?」


 日本語とごっちゃになりそうなので様子見をしていたが、これはシュルマさん的には大丈夫だと判断したんだろうか。

 まぁ、早ければ早い方がいい。我々帰れないらしいし、こっちで生きていくのなら文字は必要だ。

 そう思ってせいらちゃんを見ていると、きょとんとしていた顔がきらきらと輝いていく。


「やる! せいらもななちゃんと、おべんきょうする!」

「はい、元気があってよろしい」


 何ともいい笑顔でシュルマさんと私を見比べている幼女はとても知的好奇心旺盛だ。さすがはなぜなに期。目に映るすべてが気になるお年頃。

 なんならルクバト君に「偉いっすねぇ」なんて褒められてさらにご満悦な様子。可愛いお顔ね。


「こういうのはやる気のある時に詰め込むのが一番ですからね」


 そう言いながらシュルマさんが一つ飴玉を取り出してせいらちゃんの手のひらに落とす。正直せいらちゃんにとっては理想の先生役よね。気になることは全部教えてくれて、ご褒美とばかりに甘いものも貰えるし。

 え? これでなんでこの人教師じゃないの? もうこれ私塾の先生では? もしかして一国の文官は教員免許も必要だったりする?


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