34 食欲が復活したならもう大丈夫
幼女復活しました。
一日ベッドの上でゴロゴロ遊んだ結果、すっかり熱も引き、目が覚めて一番に発した言葉は「お腹空いた」だったほどには食欲もある。いい兆候だな。
念のため大事を取って今日も一日お部屋の住人ではあるものの、今朝はちゃんと可愛いの強奪があったので精神的にも元気になったものだと判断する。
さて。この世界に来て一か月近く経ったわけだが、すっかりせいらちゃんとは仲良くなった、のかな? 少なくとも懐かれているとは思う。なんで懐かれているのかは今一わかってないけど。
とにかくすっかり元気になったせいらちゃんはお見舞いに来てくれたイクリール君に笑顔を振りまいている。因みに隣にいるはずのアルヘナ君にはちょっと距離があるのがまた絶妙な感じである。
「熱は下がりましたか?」
「うん! 元気だよ!」
やっぱり幼女は何かと構ってくれる人に懐くのかな。私の場合単純に接触時間が長いからというのもあるだろうか。
イクリール君に構われてにこにこしながら幼女自ら部屋に供えられているお高めのソファーに案内している。あそこでピザとビールをキめたのも一か月前かぁ。
「お見舞いに行ってないと言うので一応連れてきました。せいらが嫌なら追い出しますからね」
「おい」
イクリール君とアルヘナ君は仲がいい。お互いに遠慮がない感じが、兄弟のやり取りみたいで見ていて面白い。私は姉妹だったしそこまで仲がいいわけじゃなかったしなぁ。
年少二人が並んでソファーに座ったので、なんとなく私とアルヘナ君が隣になる。
アルヘナ君が持ってきてくれた果物を嬉しそうに食べるせいらちゃんと、自分より年下の少女を甲斐甲斐しく世話する少年を眺めて微笑ましい気持ちになった。
私の横で頬杖を付きながら二人を見ている青年は違う感想を持っていそうだが。
それでも、アルヘナ君自身はなんだかんだで面倒見がいいんだよな。
せいらちゃんに対してもそこまで関心があるわけではないようだし、私に対してはまた方向性の違った警戒をしているにも関わらず、イクリール君に誘われたからとお見舞い品を持って会いに来てくれる辺り人の好さが伺える。
「なぁ、昨日のあれだけど」
ちらりとアルヘナ君が横目で私を見ながら口を開いた。
昨日、何言ったけな。仲良しさんだなぁと言ったくらいしか覚えがない。
「後で考えたらなんか気色悪かったから訂正しろ」
そうか、年頃の子だと男同士に対して「仲がいいね」は気色悪いになるのか。
いや別に含みはないのでそのままの意味で受け取っておいて欲しいのだが。
でもまぁ、確かに? 世の中には、セット売りが好きな人たちがいるね。
私は別にそうではなかったが、こう、矢印の強い二人組が好きな人たちがいて、そういう人たちにアルヘナ君とレグルス王子の組み合わせは好かれていたなぁと、思い出すような出来事が先日あった。
ゲームをプレイしていた時だったら意見も変わっただろうけど、今は画面越しに見ていた時の熱量はないし、実際目の前にいる一人の人物としての感情を大事にしてほしいし。
私としては当人たちが望んだ結果ならそれでいいと思う。そうでないのならそういう目で見られてどんまいとはなる。
オタク用語でいうところの、壁になりたいではないけれど、通行人Cくらいの立ち位置で二人にとっていい結果になるように応援している。
いや、必ずしもセット売りが好きな人たちの思い描く関係になってほしいわけではないんだけど。
「なんの話です?」
「素直じゃないなって話」
「はぁ!?」
不思議そうな顔をしたイクリール君に返事をすれば隣から不満そうな声が上がった。
だってしょうがないじゃない。私は仲がいいねとしか言っていないし、それを訂正すると逆に変な受け取り方されそうだし。だったら煙に巻いておこう。
「ちょっと大きな声やめてください」
大きな声にびっくりして固まるせいらちゃんを宥めつつイクリール君が、諫めるような目を向ける。
「レグルス王子とアルヘナ君は仲良しだねって」
「ぜってーなんか含んでんだろ」
アルヘナ君がじろりと睨んでくるが、私としては本当にそれ以上の意図はない。
イクリール君は何が不満なのかと首を傾げながらアルヘナ君を見ているし、せいらちゃんに至っては話についていけていないのか、もしくは興味がないのか、不思議そうな顔しながらマスカットをひたすら口に運んでいる。
ああ、果汁でべとべとにして。後で手と口周り洗わせなきゃなぁ。
それにしてもそんなにあのマスカットは美味しいのかと、バスケットに手を伸ばせば隣で大きなため息漏れた。
ちらりと見た隣ではそっぽを向いたアルヘナ君がつまらなそうに眉間にしわを刻んでいて。そして、低くぼそりと呟く。
「……めんどくせぇ」
アルヘナ君が明らかにムスッとした顔をしている。ごめんね、はっきり自分に向けて言われた言葉以外はスルーすることにしてるんだ。
口では不満を漏らすものの、決して席を立つことのない青年が可笑しくて、心の中で少し笑った。
食欲旺盛な幼女とずるい大人と青年のお話。




