33 ため息が出た
Side 従者
「あらこんにちは」
バスケットを抱えたメイドでもない女と廊下で会った。
何気なく、女とセットになっているちびちゃんの姿を探すも傍にはなく。珍しいこともあるものだと女に視線を戻す。
いつもかっちりとした着こなしをしているのに、どういう吹き回しか首元のボタンが一つ、二つと外れていて細い首があらわになっていた。まぁ。何考えてるかわからねぇ奴だし地味な見た目の女ではあるが、有りか無しなら、有りなんだよなぁ。
「それ何」
「せいらちゃんのご飯だよ。寝てて食べ損ねたの」
ああ、そういえばメイドが星の神子が熱を出したと言ってた気がする。もうとっくに医者にも見せているだろうし俺が気にする必要もないか。
水やら軽食やらの入ったバスケットをこちらに見せる女は、今日もせっせとこの女は星の神子の世話をしているらしい。ご苦労なこった。
まぁ、あのちびちゃんもこの女を気に入ってるみたいだし、俺が面倒みるわけじゃねぇからなんでもいいや。
「ふーん、ほっといて良いの?」
言っておいてなんだが、正直興味はない。
ただの世間話だ。レグルスに興味がないと言っていた女の生態調査ともいうかもしれない。
「今は寝てるし、レグルス王子が見てくれているから」
「ああ、だから部屋にいなかったのか」
さっき覗いた執務室にいなかったのはそういう理由か。すっかり絆されているというか、ご執心のレグルスはちびちゃんと話をするべくせっせと執務を熟しては時間の確保にいそしんでいる。
何を考えているのやら。どうせ神子とこの女の生活の保障やら、説明もなく召喚したことだろうがな。ンなもん悩んだって、こっちも世界の危機なんだし仕方ねぇだろ。
それにちびちゃんは説明しても理解出来ねぇし、この女だって表立って文句も言わねぇんなら納得してんじゃねぇの?
俺らが思ってるよりもずっと早く、城の人間と悪くない関係を築いている。周りを懐柔するタイプかと思ったが本人曰く、レグルスには興味がないらしい。……普通女って顔だとか地位に寄ってくるもんじゃねぇの?
興味がないと言った上で、俺にも、レグルスにもフランクに接してくるこの女からは打算も、同情も感じない。
「本当に何にも知らないんだな」
当たり前と言えば当たり前か。約一か月前に突然この世界に呼び出されただけの女が、この国の、それもレグルスのことを知る由もない。
アイツを置いて行った人についても。何もかも押し付けられて一人でこの国を背負っていることも。
相変わらず目の前の女は全部わかったような顔でこちらを見ている。ムカつくなぁ。
「知ろうとは思わねぇの? レグルスのこと」
気にはならないのか。それともそこまで気にする余裕もないのか。
この国王族はもうレグルスしかいないのに、この女は気が付いているのか。
「本人が話すなら聞くけど、他の人に聞いて邪推するのは違うでしょ」
こういうところだよ。やりずれぇ。もっと、嫌な奴なら楽だったのに。そうしたら国のためだと言い訳をして、罪悪感に蓋を出来た。
というかこの女はもっとアイツに興味持てよ。今までレグルスに群がって来た女はもっとガツガツ来たぞ。いや、今までの奴らと同じように来られてもムカつくけど、全く意に介されないのも腹が立つ。
そもそも俺は星の神子を召喚するのも反対だったんだ。
神子を呼べば、世界は救われる。だがそいつの後始末もレグルスにのしかかる。世界が救われても、神子は元の世界に帰れない。この女は何も言わないが、あのちびちゃんがもう少し周りを見れるようになった時、何を言い出すのやら。
古い歴史書にも何度か星の神子を召喚した記述はあるが一様に「神子はこの世界で幸せに暮らしました」としか書かれていない。そんなに簡単な話なわけがない。用が済んだ後の後ろ盾のない神子がどう利用されるかなんて考えるのも虫唾が走る。
そんな結果にならないように、レグルスは奔走するんだろう。何もしないくせに口ばかり出す貴族共を執り成し、言葉通り召喚された二人を守るために。
自分はやらないくせに口ばかり出す連中が嫌いで、アイツに全部押し付けて逃げたあの人が憎くて。神子もそうなのでは、ついでに来た女もそうなのではと。もしそうなら早々に排除せねばと思っていた。
アイツは別に強いわけじゃない。これ以上の余計な物をアイツに背負わせたくない。国や世界だけじゃなく、よくわからない女どものことなんて。
「アルヘナ君はレグルス王子と仲良しなんだね」
「はぁ? そりゃ幼馴染だし嫌いじゃねぇけど」
「照れてる?」
「黙れ」
実際に話してみれば、わけのわかんねぇ女でしかなくて。いくら年上だって言ってもガキ扱いしすぎじゃね? 俺はもう成人してんだし、年上ぶってんじゃねぇよ。
だんだん面倒になって来てもう行けとばかりに手を払えば苦笑しながら女が去っていく。ちびちゃんの見舞い……、は別にいいだろ。
それにしても、そんなにあのちびちゃんがいいもんかね。
ちらりと見た窓の外は腹が立つぐらいの快晴で。世界の危機だとか、魔力が枯渇しているとか、俺らが直面している問題が嘘みたいで。
何もかもが馬鹿らしくてため息が出た。
一応彼も青少年なので、視線は彷徨うものなのです。




