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28 幼い心を見守るのは楽しいですね


 少し出ている内に随分と仲良くなったものだ。

 表から部屋に来るまでの間も話が弾んだのか扉を開ける寸前まで話し声が聞こえていた。


 微笑ましい気持ち半分、いらぬ心配と言ったところだろうか。私は休みの日に上司と遭遇すると気まずいので、ついルクバト君は休めただろうかなどと考えてしまう。

 でもほら。彼は陽の人だし目上の人に好かれるタイプだし。案外休みの日に上司と遭遇しても苦にならないのかもしれない。それに反応が素直だから休日でも可愛がられてそう。

 ふらりと青い顔のまま恐らく不平を漏らしに行ったアルヘナ君と入れ替わりに、ルクバト君が定位置となってしまった私の傍に来る。


「レグルス王子って、いい人っすね」


 わぁ、眩しい。太陽かな?

 良い笑顔を向ける彼の顔には「ぜひ聞いてください」とでも書いているようである。何なら耳としっぽの幻覚まで見えそうだ。


「途中から合流したの?」

「はい。俺が尋ねた鍛冶師のところにレグルス王子が紹介されて来て、おかげで龍神様と鍛冶師の関係についても話を聞けたっす!」


 楽しそうに話すなぁ。うんうんと相槌を打ちながら聞く。

 ミラムに来る前にレグルス王子に龍神信仰に付いて聞いたけど、きっと製鉄神話の側面の話を聞いたんじゃないかな。


「正直今まで龍神様は凄いんだなーって漠然と思ってたんすけど、俺たちが普段使ってる剣にも関係あるなんて知らなかったっす」

「そっかそっか。神様って案外身近に関わっているものだったんだね」

「はい! 後レグルス王子が鍛冶師の人にもめっちゃいい人で! 俺はこの人の治める国の騎士団長になるんだって!」


 ものすごく興奮してらっしゃる。本当に尻尾があるならきっとはち切れんばかりに振っていることだろう。懐いたなぁ。

 まぁ、うん。リスペクトの仕方と対象が同じだったのだから、なるべくして仲良くなったともいえるが。

 騎士として、自分たちの武器や鎧を作ってくれる鍛冶職人には礼を尽くすべきと考えるルクバト君と、一国の王子として、国の主産業を担う鍛冶職人には敬意を持つべきと考えるレグルス王子が鍛冶師を前にして話せばそうなるか。


「るーくんたっちー」

「はーい。たっち」


 笑顔と愛嬌を振りまくルクバト君の元へ、せいらちゃんがハイタッチを求めにやってくる。幼女は笑顔につられてやってくるものだから。

 ルクバト君とのハイタッチを終えると、次は私だと言わんばかりに手を上げた。


「ななちゃんも」

「はい、たっち」


 ぺちりと手のひらを合わせれば花の様な笑顔を綻ばせる。子供らしいなぁ。

 それを見てレグルス王子がせいらちゃんと視線を合わせる様にしゃがみ込んだ。


「神子様、私ともしてくれませんか?」

「……しない」


 おっとぉ?

 いつもは忖度するか即答でオッケーが出るのに珍しい。むぎゅむぎゅと腰に抱き着いたまませいらちゃんはショック受けてるレグルス王子から顔を反らしている。


「どうしてかこっそり教えてくれる?」

「れぐるすくん、かっこいいから、たっちはずかしい」


 あらぁ。

 そういえば手を合わせるのイクリール君かルクバト君ばかりだった気がする。


「そっかぁそうなのかぁ。でもレグルス王子だけしないと、仲間外れみたいになっちゃうよ?」

「……する」


 言うほど嫌そうな顔はしていない。ただ、照れている顔だ。可愛いお顔を私の体にしばらく押し付けた後、意を決して飛び出していくもぺちりとレグルス王子の両手にタッチをして戻ってくる。

 これきっと昨日の晩、言われたことが響いて照れているんだろうか。小さくても女の子だし、改めて顔のいいお兄さんが、自分のために何かしてくれようとしているのを知って好きになっちゃったパターンかもしれない。


「ナナさんばかり」


 なんだか、この人もちゃんと拗ねたりするんだなぁ。ゲームで描かれていたのはいつも優しい完璧な王子様、みたいな面だったし私もその完璧な王子様に憧れていた。それが幼女にすげなくされて拗ねるなんて幼げなことを。

 少しの間私の陰に隠れてしまったせいらちゃんを見てつまらなそうに溢したかと思えば、すぐに表情を取り繕ってレグルス王子が顔を上げる。


「どうすれば、私も仲良くなれるんでしょうか」

「そこまで心配しなくても大丈夫ですよ。ゆっくり仲良くなっていけばいいんです」


 正直、せいらちゃんがどうして私に懐いてくれているのかすらわかっていない。

 ルクバト君は面倒見の良さで、イクリール君は少し年上のお兄ちゃんとして慕っているのはわかる。いつも飴やチョコをくれるシュルマさんもそうだ。

 反対に初対面の印象の悪さからアルヘナ君にはまだ遠慮気味だし、直接話す機会の少ない騎士さんたちとも若干距離がある。

 なら尚のこと、同じタイミングで知り合ったはずのレグルス王子と私に差があるのも不思議よね。


 戻って来て小さな手を回して抱き着いているせいらちゃんの頭を撫でる。くすぐったそうな笑いと共にぎゅうぎゅうと体を押し付ける力が少しだけ強くなった。

 うーん、幼女の考えることはわからん。


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