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27 友達との付き合い方


 穏やかな朝が来た。

 昨晩のにぎやかさは失われてはいるものの、外では時折、楽しげな話声が聞こえてくる。幼女も笑い声がする度に窓辺へ駆け寄って通り過ぎる人に手を振るくらいには元気だ。

 予定では二日ほど停泊してお城に帰るが、正直もう少し居たいくらいには好ましい町である。


 窓辺とイクリール君の傍を行ったり来たりしているせいらちゃんを眺めながら宿の部屋に備え付けられた椅子でのんびり過ごす。

 昨夜、見送った先でせいらちゃんはレグルス王子と話をしたらしい。ベッドの上で寝ぼけ半分に話したせいらちゃんは、眉を八の字にしたまま目を擦っていた。


 曰く。「痛いことや悲しいことは絶対させない。だから嫌だと思ったら言ってほしい」とレグルス王子にお願いされたそうだ。昨日の様子では私に聞かせにくい内容だったのかと思っていたけど、心配しているだけで特別込み入った内容でもない気がする。

 その上で改めて嫌なことはあるか聞いたところわからないと言われた。

 これは「今自分が置かれている状態が嫌なのかわからない」という意味なのか、それとも「嫌なことはあるけれど言語化するのは難しい」なのか。幼女が起きているには遅い時間だったので昨日は寝かしつけたが果たして。

 朝になったらすっかり笑顔の幼女だったのであえて突っ込んで聞かないが、どうしたものかな。積もり積もってせいらちゃんやレグルス王子が辛くならないといいが、二人の境遇に対して私が出来ることなんてそれとなく話を聞くくらいなものだし。


 朝食も済んでせいらちゃんがイクリール君に構って貰っているのを眺めていると部屋に青い顔をしたアルヘナ君が入って来た。

 部屋をぐるりと見渡してため息を吐く。目当ての人がいなかったんだろう。


「おはよう。二日酔いは大丈夫?」

「頭痛ぇ、あんたは?」

「そんなに飲んでないからね」


 あら険しい顔。

 眉間にシワを刻んだまま椅子に腰を下ろす。朝食時に現れなかったし、今まで酔い潰れていたんだろう。お酒は人類の友だけど付き合い方は見極めないといけないから。


「忘れろ」

「はい、忘れましょう」

「あーくそ。ちびちゃんといい、あんたといい、やりずれぇ」


 ガシガシと後頭部をかきながらため息を吐くアルヘナ君は二日酔いのせいか若干青い顔をしている。

 お酒の失敗くらい誰にでもあるし、お酒の勢いが無きゃ出来ない行動もあるさ。実際私もやらかしてるし、何ならこの世界に来る直前なんて自ら酔いつぶれようとしていたくらいだ。


 それはそれとして昨日話していたアルヘナ君の疑問もわかるのだ。

 私はせいらちゃんのような不思議な力はない。何故この世界に来たのかもわからない。何をするべきで、何がしたいのかも曖昧だ。

 せいらちゃんが悲しい思いをしなければいいなとは思うけど、そうさせないための力もなければ、方法を思いつくだけの知識もない。我が事ながら随分とぼんやり生きているなぁ。


 唯一アルヘナ君に約束出来るのが、彼が思うような感情をレグルス王子に向けないということくらいか。

 いやまぁ、一人で背負い込み過ぎないか心配になるタイプではあるけれどね。


「お水飲む?」

「いらねぇ。それよりレグルスは?」

「今日も町の人に龍神様について聞きに行くって」

「呼べよぉ」


 机に突っ伏して呻くアルヘナ君に小さな視線が二つ向けられる。

 どうどう。大きくなるとくだを巻きたくなる時が来るものなんだよ。


「あるへなくん、しんどい?」

「アレは自業自得なので放っておいていいですよ。せいら」


 なんとなく一室に集まっているもののレグルス王子もそうだがルクバト君もいない。

 ずっとせいらちゃんと私に付いてくれているし今日はお休みだ。丁寧に朝「今日はお休み貰ってるんで、代わりにこの人が付くっす」と挨拶に来てくれた。

 何ならウキウキで今日はこの町の職人のところを訪ねるのだとも言っていた。やっぱりそういうの好きなんだなぁ。


 皆可愛いなぁ。画面越しに見ていた時は格好良いと思っていたはずなのに、こうしていると子供らしいというかちゃんと年相応だ。

 そう思うのは私が年を取ったからなのか。……こうしてかつて好きだったキャラよりも年上になっていくのね。恐ろしい。


 そんなことを考えているとまた外で話声が聞こえてせいらちゃんが窓辺へかけていく。

 恐らく本人なりの理由はあるんだろうが、子供って謎な行動を永遠に繰り返すよね。それが楽しいんだろうけど。

 今のところ通行人に手を振って、三割程度の確率で手を振り返してもらっている様に見える。野球なら好打者だな。


「れぐるすくんとるーくんだ!」


 嬉しそうに声を上げたせいらちゃんの声に、隣でアルヘナ君がまた呻いた。子供の高い声は二日酔いの頭に響くらしい。

 それでも部屋を去らないのは彼なりにせいらちゃんのことを気にかけているからか。あるいはまた別の理由なのか。

 せいらちゃんの言葉につられてイクリール君も窓に寄る。身を乗り出して手を振る幼女を支えてくれる辺り出来た子だなぁ。


 二人は一緒にいたのか。聞こえて来た笑い声を聞く限り随分と仲良くなった様だ。

 二人が気が付いて手を振り返してくれたのか、せいらちゃんの振る手の勢いが増す。

 うん。ご機嫌なようで何より。


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