22 幼女はうさぎがお好き
交易の街を出て小さめの町に泊まった。
当初の予定ではアルシャウカトに滞在するつもりだったんだが、どうにもあのイベントを見た人たちに声をかけられることが多くなり。ついには宿の方にまで出待ちのような人が屯し始めたので早々に街を出た。
本当は大きくて病院設備のしっかりした街だし、せいらちゃんの体調に変化がないか様子を見て次の街に行きたかった。
今のところ、せいらちゃんは体調面、精神面共に安定している様に見える。
体調を崩すこともなければ母親を恋しがりもしないのが逆に心配であるけど、元気にはしている。こうなってくると逆にせいらちゃんの以前の暮らしが心配になってくるわけで。
まぁ、藪蛇したくないので変に突っ込んで聞かない。求めるなら何とかしてやりたいが、保護者役には慣れても母親には成り代われないしね。
ああ、それと街を出て以降。というかあの魔法石の活性化をしてからレグルス王子が何かとせいらちゃんに構いたがり、アルヘナ君に呆れたような視線を向けられている。
せいらちゃん自身も嫌がるどころかアレは何だこれは何だと聞き続けている辺りいい関係なんじゃないか。これが俗にいうなぜなに期かぁ。
今も三つ目の神殿がある場所の話を聞きながら所々で疑問を口にしている。
どこまで理解しているかはわからないが、多分次に向かうのは川沿いの町だと言うのは伝わったと思う。
郊外にある古い町、ミラムはアルシャウカトと同様に鍛冶師が多い町としても有名らしい。こうして聞くと、この国って鉄鋼業が盛んなんだなぁ
「魔法石だけじゃなく鉄もたくさん採れるんですね」
「ええ、我が国の主産業です」
なるほどなぁ。一応シュルマさんに最低限、この世界の常識は教えて貰ったけど、そういう国が何を売りにしてるかまでは教えて貰う時間がなかった。
正直まだこっちの世界の文字もわからないので皆と逸れたら大変な目になりそう。私自身にも数人騎士さんが付いてくれているしその心配は杞憂だろうけど。
「アヴィオールの神話については話していませんでしたね」
レグルス王子がそう言えばと続ける。神話かぁ。脱オタしてるとは言え一度はその道を通った身。神話や聖書を下敷きにした作品もあったので大筋は知っているつもりだ。
この世界の元になっているゲームも『星の箱舟-スター・レガシー-』なんて名前だし星に関係する神話があてがわれているのかもしれない。もっとちゃんとギリシャ神話読んでおけばよかったかな。
「その昔病に苦しみ荒れていた龍神様を一人の男が献身的に支え、そのお礼に龍神様は我々に恵みを与えて下さっているのです」
「その恵みが、魔法石と鉄」
全然違ったわ。知らない話だ。
いやもしかしたらそんなような話はあるのかもしれないけど、少なくとも私は覚えのない話。
「その話もかなり手が加えられたものだけどな」
「大元の話は違うんですね」
「ええ。本来は龍神様を倒し、その秘宝であった魔法石などを持ち帰ったという話なのですが、建国神話にするにはいささか外聞が悪かったので」
「はぁ、なるほど」
日本神話じゃないか。なんか、龍を倒して鉄を手に入れる話の方が馴染みが深いなぁ。オタクは皆ヤマタノオロチとか草薙の剣とか大好きよね。ゲームでもよく出てくるし。
よく考えずともアレも製鉄神話だ。水の化身である龍を制して鉄を手に入れる話。
ゲームのタイトルに星が入ってるし、メインキャラの名前も星に由来するのに、なんで日本神話の要素が入ってくるんだ。よくわからん。
「しんわってなに?」
「神様のお話。この国の神様は龍なんだって」
「つよい?」
「ええ、強くて優しいんですよ」
せいらちゃんに説明する傍ら、アルヘナ君が眉間にシワを寄せているところを見るに、興味がないのか。それとも別のところが気に入らないのか。
とにかく、アヴィオールにある神殿で祀られている龍神様が多いと言っていた。鉱山でとれる資源が多く、そういう神話になったんだろう。昔から資源が豊かな国だったんだね。だからこそ、今現在国民が危機感を持っていないともいうが。
「星の神子様は神話に興味がおありですか?」
「わかんない」
「せいらちゃんは何が好き?」
「うさぎさん!」
「あ、うさぎなら僕の故郷に可愛いのがいますよ」
そうだね、幼女は難しいことわかんないもんね。可愛いうさぎさんの方が好きか。りんごのうさぎも好きだって言ってたし、可愛いものが好きなんだろうな。
アヴィオールの神話に馴染みがないのか静かに聴いていたイクリール君も交えて、今度は仲良く動物談義をしている。幼女をちやほやする王子二人という図はなんとも微笑ましいのだが、アルヘナ君的には余り面白くなさそうだ。
まぁまぁ、そう顔に出さずに。相手はまだ五歳の幼女なんだから。
……せいらちゃんが五歳だからこそ、レグルス王子も思うところがあったのだろう。
アルシャウカトの神殿で世界の、ひいては国の危機を語ったレグルス王子の言葉はどこまで人々の心に届いただろうか。世界を救うために、親元から引き離された少女に、私たちは何が出来るだろうか。
せいらちゃんは、私たちのことをどう思っているんだろう。
幼女曰く龍は強い、そしてウサギは可愛い。




