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20 こちらイベントブース待機所


 のこのこと向かった神殿では思った通り、入場券を抽選販売していて変な笑いが出た。本日は抽選権をお持ちの方以外は入館できません、じゃないのよ。

 予定の時間よりも早めに来たにも拘わらず人で溢れていて、何なら出店のようなものも並んでいた。いや、本当に逞しいなぁ。


 やっぱり騎士に囲まれた一段は目立つのか、遠巻きにじろじろと見られている。

 さすがにがちがちに固められているところに突撃してくる猛者はいないが、見世物になった気分だ。いや、これからなるんだけど。


「目隠しあってよかったですね」

「見せもんじゃねぇっての」


 不機嫌にアルヘナ君に苦笑いする。数分ではあったものの、魔法石の横に急遽建てられたらしい目隠しのブースに案内されるまでずっと待機組に見られていて居心地が悪かった。

 ちらりと見た感じ、クソデカクリスタルもとい、魔法石から数メートル離れた先にロープパーテーションが並んでいて、その向こうにちらほらと人が集まりだしている。

 ……これあれだな。大型商業施設のイベントブース。ヒーローショーとかやるところだ。学生時代の友人が、商業施設向けのスーツアクターのバイトしてたけど元気にしてるかな。アイツもこんな小さめのプレハブみたいなところに詰め込まれてたんだろうか。


 いつの間にか会わなくなった友人を思い出していると不意にノックがされる。一応私たちの他にルクバト君と騎士さんが数人、入りきらなかった人たちはプレハブの外で警備してくれているし、抽選で来た観客が来たわけではないと思うんだが。

 扉が開いてスーツの男が入ってくる。


「どうもどうも。私、今回のイベンターのジョルジュと申します」


 イベンターって言っちゃったよ。

 本当にイベントにして稼ぐつもりだったんだなぁ。


「本日はよろしくお願いしますね、レグルス王子。星の神子様」


 にこにこと、それはもう古典的表現かと言いたくなるくらいお手揉みしながらなぜか彼は私を見た。

 あ、これ勘違いされてるな。


「失礼、ジョルジュ。彼女は星の神子ではないんだ」

「マネージャーです」

「おや、これは大変失礼いたしました。では神子様はどちらに」

「そちらに」


 スッと手のひらを向けたその先にはイクリール君の後ろに隠れてこちらを見上げる幼女がいて。


「え、あちらが、ですか?」

「何か問題が?」

「いえいえとんでもございません!」


 見るからに気落ちというか、勢いが止まったな。

 星の神子に何かさせたかったみたいだけど、そうなんでも上手く行くわけじゃないよ。


「魔法石の活性化後に神子様のお言葉をいただきたかったのですが……」

「私が話そう。それでいいだろう?」

「はい、ではそのように」


 でもまぁそうよな。

 世界を救ってくれる神子様が、まさか五歳児だとは思わないし仕方ない。


「イベント後にちょっとした食事会のご用意があるのですが」

「急ぐ旅だ、遠慮しておく」

「わかりました」


 しょんぼりして帰っていく背中を見送ってちょっとかわいそうなことをした気分になる。多分彼も上の人に言われてきただけだろう。大きな仕事任せて貰ってウキウキで来たはずだったのにな。

 扉が完全に閉まったのを確認して、せいらちゃんが近寄ってくる。


「まねーじゃーってなに?」

「一緒にいる人のことだよ」

「そっか! ななちゃんせいらといっしょにいるもんね!」


 可愛いかな?

 それから暫く休憩して、商会側が指定した時間がやって来た。

 イベント化された魔法石の活性化はなんというか、流れ自体はよくあるイベントの進行とほぼ同じだった。


 イベンターさんが始まりの挨拶と経緯を話して、呼ばれたのでプレハブの外に出て。イベンターさんと同じような勘違いをした人の視線を浴びながら、せいらちゃんが魔法石に近づいた時に起こったざわめきを聞いたり。

 本当によくある光景で、何とも言えない気分になる。

 レグルス王子やアルヘナ君としては信仰の場をこういった大衆娯楽にして消費してしまうのが気にいらない様だったけど、日本生まれ日本育ちからするとよくある光景にしか見えず、人間ってどこでも変わらないんだなと妙な安心感を抱いた。


 多くの人に見守られながら小さな手が、大きな魔法石に触れる。それと同時に虹色の光が溢れ出し、視界を光で埋め尽くした。眩しかったけど、目を逸らしてはいけない気がした。

 ああ、私は、このままあの小さな子に何もかも押し付けていくのかな。そんなこと考えたって大して何かを出来るわけでもないくせに。

 ならばせめて、連れ添って、その小さな姿を見失わないように。じっと、小さな背中を見つめた。


「ああしていると、神子様は本当に小さいですね」


 隣にいたレグルス王子が呟く。


「そうですね」

「あの小さな体で、世界を……」


 空気が詰まる様に言葉が止まって、それから深く息を吐き出す音がした。

 多分、彼は今私と同じようなことを考えている。自分よりもずっと幼いあの子に世界の命運を預けて、本来いるべき場所も奪って。

 世界の再生の対価に、あの子は帰るべき場所を奪われた。そこにあの子の意志はない。勝手に決められて、勝手奪われた。


「あの子を守るには、あの子が笑っていられる世界を作るには──」


 ただの一度も帰りたいと言わないあの幼子の目に、私たちはどう映っているのだろうか。


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