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19 この手に出来ることは

Side 隣国王子


 弱体化した魔法石を唯一復活させる力を持つ「星の神子」は、僕よりもずっと小さな女の子だった。

 肩書と力を与えられてしまったばっかりに、彼女もまた僕と同じように大人の思惑に振り回される立場になってしまった。自分の意志とは関係なく大切な人たちと離れ離れになって、自分よりもずっと大きいものを背負わされてしまった。

 唯一の救いはナナがセイラの傍にいてくれることかもしれない。ナナはセイラの味方であろうとしてくれている。僕にとって、レグルスとアルヘナがそうだったように。


 もちろん、セイラから家族を奪ったレグルスに思うところがないわけではない。

 でも、レグルスがそうした理由もわかる。王族として、国民を守るものとして。十と一。そのどちらを救うか選んだだけ。セイラの元の生活を犠牲にして、国民の、そして世界中の人の未来を救うと決めただけだ。

 救われた側の人間がこんなことを言うのは卑怯だが、こちらで生活してくれるのなら、僕だってあの子の生活の助けになれると思った。何もかも奪ってしまった償いとして、せめてこの世界で幸せに暮らしていける様に。


 きっとレグルスも同じことを考えているはずだ。だからセイラとナナが不自由なく暮らせているかを気にかけているんだし。

 まぁ、馬車でのレグルスの行動には驚きはしたけれど、二人の助けになりたいのも、仲良くなりたいのも本心だと思う。


 アルシャウカトに来て昨日一日手を引いてみて、改めてセイラは普通の女の子だと思った。公園を駆け回る時はちょっとお転婆だと思うけど、それでもどこにでもいる普通の女の子だ。

 セイラはナナが大好きなようで、いつもべったりとくっついているし、ナナもそんなセイラをとても可愛がっている。神殿を管理している商会の都合で一日休みとなった今日は、二人でのんびりするのだと朝食の際に言っていた。

 正直二人の間にレグルスが入り込むのはとても難しい気もするけれど、友人としてはセイラにレグルスとも仲良くなってほしいとは思う。


 まぁ、それはそれとして、レグルスだけ名前で呼ばれていてずるいとも思う。

 別に「いっくん」と愛称で呼ばれるのが嫌なわけじゃない。まぁ、五歳には呼びにくい名前だったのかもしれないし。小さい子はまだ正確な発音が出来るほど筋肉が発達していないのかもしれない。

 それに、ナナが寝る前にいつも名前をちゃんと呼べるように練習しているとこっそり教えてくれたし。嫌ではないが、早く名前で呼ばれたいとも思う。まぁ、練習してくれているなら待つけど。


 ため息を一つ吐いて部屋の扉を開ける。

 おかしい。一人部屋なんて慣れていたはずなのに、ちょっと周りが静かすぎてそわそわする。きっと馬車での移動中レグルスが騒いだりアルヘナが呆れたり。休憩中はセイラが楽しそうに笑っていた。

 ここ数日が騒がしかったから、いつもの様に一人で大人しく部屋にいるのですら変な感じがする。


 部屋の外に控えていた護衛にセイラとナナの部屋に行くと告げて歩き出す。

 多分、僕以外にも同じ考えをしている人がいるだろう。


 明日は神殿に向かう。

 セイラが星の神子としての役目を果たすわけだ。既に一つは魔法石を活性化させているらしいが、僕は見ていない。だから、知るべきだと思ってこの旅の同行を申し出た。

 自分よりも小さい子が、世界を救うために大きな力を振るうのだ。何をどのようにするのかはわからない。

 故郷、グラフィアスにいた頃、星の神子に付いて記された古い文献を読む機会があったけど、肝心なことは殆ど書かれていなかった。ただ、星の神子が魔法石に宿る魔力を生み出す力を強力にするとだけ。


 そんな曖昧な物に縋らないといけないほど、世界は救われない。アヴィオールは比較的平和ではあるが、僕の国は……。

 いつか、僕の国にもセイラは来てくれるだろうか。そうすれば、兄さんたちも……。やめておこう。魔法石が安置されている神殿を巡るのならいずれグラフィアスにも立ち寄るだろう。我先にと急かすのは、きっと僕らを振り回した大人たちと同じになってしまう。


 セイラは僕よりも小さな女の子だ。突然故郷を追われ、不安な気持ちを隠しているに違いない。ならセイラがもっと安心出来るように、せめてこの世界での暮らしも悪くないと思ってもらえる様に、僕に出来ることをしよう。

 セイラたちの部屋の前にいた護衛の騎士が僕を見て居住まいを正す。城に帰ったら、剣の練習をしてみるのもいいかもしれない。まだ僕には何の力もないけれど、いつかセイラを守る役に立つかもしれない。


 扉の向こうではセイラの楽しそうな声がする。

 ご機嫌な笑顔でナナに遊んでもらっているに違いない。その笑顔を守るには、悲しい思いをさせないためには。僕は、もっと強くならないといけない。

 大丈夫。僕なら出来るはずだ。


 息を整えて扉をノックする。ナナの返事が返って来た。笑顔を作って部屋に踏み込む。そこにはなんとも平和な空間があって。

 きっと、皆こういうものを守りたくて強くなるんだと思った。


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