18 やっぱ幼女はすげぇや
お使いイベントを終えて、本日の宿へ帰って来た。
もう少し見て回ってもよかったんだけどせいらちゃんの体力を考えた結果、お店には寄らず、公園を少しの間駆け回る程度にしておいた。結果、今は遊び疲れて私にもたれかかりながらぼんやりとしている。
しばらくして帰って来たレグルス王子とアルヘナ君も何やら思う通りにことが進まなかったのか随分とお疲れ気味の様だ。どうなったかの報告をしてくれるのは有り難いが、もう少し休憩してからでもよかったのよ?
「レグルスくん、しんどい?」
「お仕事大変だったみたいだね」
寝てもいいとばかりに軽く背中を叩いてやれば膝の上で小さな欠伸が漏れる。
今日もいっぱい走ったもんなぁ。一緒に遊んでくれていたルクバト君には先に休んで貰ってる。
ブラキウムさんの人選すごいな、ルクバト君のおかげでせいらちゃんはずっとにこにこだった。別れる時もまた遊ぼうねって約束して元気よく手を振って見送っていた。本当にありがとう。君がいなかったら私も今頃せいらちゃんと一緒に寝落ちてる。
「神殿への許可は下りたんですか?」
「条件付きでね」
交易の街の名の通り、このアルシャウカトには数多くのお店が立ち並び、それをまとめる商会がある。そしてその商会が、この街の神殿を管理しているのだとか。
まぁ商売をやる上で横の繋がりとかは大事だもんねと思ったのもつかの間、神殿はこの街の大事な観光資源にもなっているので、魔法石の活性化のためとはいえ貸し切りは無理と返答されたらしい。
「星の神子様による魔法石の活性化を一般公開していいのなら、ある程度の入場規制は出来るそうです」
「商魂逞しいなぁ」
「ったく、世界の危機を何だと思ってんだよ」
「仕方ないよ、我が国は幸いにして魔力減少の影響を受けにくい。正しく事態を理解できていないんだ」
呆れ顔のアルヘナ君にレグルス王子が困った様に応える。
平和ボケというか、自覚がないのはよくあることだよね。さっき街を歩いた感じでも特に鬼気迫った感じはなかったし、皆きっと自分は大丈夫と思っているのかもしれない。
まぁ、私自身、実際にこの世界の魔力が枯渇したらどうなるのかよく知らずに言ってるんだけど。
「世界から魔力が減ると、具体的に何が起こるんですか?」
「何ってそりゃあ、まともに暮らせなくなるんだよ」
まともに、とは。
「我々は日々の生活の殆どを、魔力を動力源とする魔導機器に頼っています」
「その動力源が無くなると、日常生活さえ立ち行かなくなる、と」
魔力って電気と同じ様な扱いなんだ。確かに現代日本で今更電気のない暮らしに戻れるかって言われると私は無理だ。物理的にスマホ奪われてこの世界に放り込まれたので何とかしているだけだし。
え、つまり魔法石の活性化って発電機の修理ってこと?
「じゃあアヴィオールが影響を受けにくいのはどうしてなんです?」
「それは魔法石の採掘が可能だからですね。神殿に安置されている物ほどではないですか生活用の魔導機器を賄う程度の魔力は保有しているんです」
「魔力って生活と密接してるんだ」
なんか、昔社会科の授業で見せられたエネルギー資源の教育ビデオを思い出した。
限りある資源、且つその資源を我々が安全に使える様にしてくれている人がいるのを忘れず感謝して大事に使おうね。みたいなやつ。
「だから今の内に魔力問題をなんとかしねぇと、いずれ自分たちの暮らしも危なくなるってのに。呑気なもんだ」
「仕方ないですよ、我が身に降りかからないと実感なんて出来ないものです」
「……わり」
「いえ、こちらこそすみません」
十を越えたばかりとは思えないイクリール君の発言になんとなく居住まいを正す。他人事みたいに認識していてすみません。
なんとなく気まずいアルヘナ君とイクリール君にいたたまれず手元にあったせいらちゃんの髪を撫でて気持ちを落ち着かせる。イクリール君の故郷は内戦が起こってるらしいけど、原因ってこれ関係なのかもな。
「とにかく、商会の代表と話をした結果魔法石の活性化は明後日になりました」
疲れの見える顔で話を変えたレグルス王子に視線を向ける。
明後日、か。多分明日は抽選会でもやるんじゃないかな。星の神子様による公開魔法石の活性化。倍率がどれ程になるかは知らないが、人がいっぱい来るのは困るなぁ。護衛の任務で来てくれている騎士さんたちの負担が増えるし。
「少し騒がしくなると思いますが、神子様とナナさんのことは私が絶対に守りますので」
「レグルスくん」
安心させる様にくり返し同じことを言うレグルス王子を遮って、せいらちゃんが膝の上から体を起こす。ぐしぐしと目を擦る辺り相当眠いんだろうな。
ふらふらとした足取りで近寄って行く幼女の体を支えるのと、せいらちゃんの小さな手がレグルス王子の頬にぺちりと触れるのはほぼ同時だった。
「はい。どうしましたか?」
「おしごとがんばってて、えらいね」
撫でる、というには遠慮なく。ぐにぐにと頬に手のひらを押し付けるような見ているだけでなんとなく口角が上がる。
幼女に心配されるのは染みるよな。大人とは違って混じりけの無い善意だって信じられる。純粋な心配を向けられていると感じられる。
せいらちゃんなりに何か感じる物があったんだろう。レグルス王子の腕の中にすっぽりと納まったまま、抱きかかえられている。
そうしてゆっくり、レグルス王子が頬に当てられた小さな手を包み込み目を閉じる。
それから、笑って。
「ありがとうございます」
やっぱ幼女セラピーはすげぇや。
疲れも一瞬で吹っ飛ばしちゃうんだから。




