17 いつの間にかお使いクエストやってた
今、私たちは膝を痛めたお爺さんを自宅まで送るという、ゲーム序盤によくあるお使いイベントのようなことをしている。
ルクバト君がお爺さんを支え、イクリール君がせいらちゃんの手を取り、私がお爺さんの荷物を持っているこの状況は正直ちょっと、警護してくれている騎士さんたちに申し訳ない。
余計なお仕事増やしてごめんね。少年少女の情操教育だと思って許してね。
「戻ったぞ」
案内されたお爺さんの家はお店ではあるものの、最初に私が思ったものとは違う物を取り扱っていて。
開け放った扉の先には創作物の中でしか見たことのない光景が広がっていた。
「お爺さん鍛冶師だったんすね」
「工房は孫に譲ったがの」
感心したように息を漏らすルクバト君の視線の先には様々な形をした剣や武器が並んでいて。
騎士さんだしこういうお店はよく来るのかもしれない。
「また勝手にどっか行って、ってうわ、すみません。うちの爺がご迷惑をかけたみたいで」
「迷惑ってなんだ」
「迷惑だろ」
孫らしき人が店の奥から出て来て、それと入れ替わる様にカウンターに置いてあったらしい椅子を引っ張り出してお爺さんが座る。言わなかったけど、膝が辛かったんだろう。
荷物ここに置きますねとカウンターに置いたところで、するりとせいらちゃんが寄って来た。この子目を離すとどっか行きそうだな。気を付けておこう。
「かじしってなに?」
「剣を作る人かな。ああいうの」
「ふーん。けん、ってなに?」
哲学かな?
「誰かを守るため物っす」
「これだから戦争を知らねぇ若いのはいけねぇ」
返事に詰まった私の横から答えてくれたルクバト君をお爺さんがすぐに否定する。ははーん。さてはお爺さん捻くれてるな。
投げかけられたお爺さんの言葉にイクリール君が少しむっとしたのがわかった。
「剣っつーのは人殺しの道具だよ」
「あぁもう、すいません偏屈爺で。気にしないでください」
お孫さんが止めるのも気にせずお爺さんはルクバト君と、その腰に下げた剣を見る。
普通の剣だと思うけど、やっぱり本職の人が見ると何かしらの違いがわかるのかな。それはそれとしてせいらちゃんがすでに話について行けず私の手で遊び始めたのですが。
「確かに剣は人を殺すことも出来ます。でもその力があるからこそ、無用な争いを避けることも出来る」
「お前さんの言葉か?」
「……尊敬する団長の言葉っす」
締まらないなぁ。
頭を掻きながら弁明の様に、本気でそうだって思っていると告げるルクバト君を見上げながら、飽き始めた幼女に、シュルマさんに預かったチョコを一粒差し出す。今いいところの様なのでもうちょっと我慢してあげてね。
「ちょっと待っとれ」
「本当にすいません」
「いやいや、やっぱ職人ってちゃんと自分の考えを持ってるんすねー」
店の奥、恐らく工房のあるだろうところへお爺さんが消える。
なんか一段落付きそうだな。途中から幼女の方に気を配ってて集中して話聞けなくてごめんね。とりあえずルクバト君が本当に陽の人なのはわかった。
社会人になると最低限のコミュニケーション能力を求められるものだけど、ここまでぐいぐいいけるのは才能だよなぁ。
「持ってけ。でかいこと言うならそれなりのもん携えてねぇといけねぇ」
「良いんすか?」
「貰ってやってください。素直じゃないだけなんで」
「ありがとうございます」
戻って来たお爺さんが一本の剣をルクバト君に渡す。本当にお使いイベントだった。
剣の良し悪しはわからないが、こういうのってベテラン鍛冶師の逸品なのがお決まりだよなぁ。まさか目の前で創作物のド定番イベントが行われるとは思わなかった。
「おう、ボンボン」
「ボンボンって呼ばないでください」
むっとしたままのイクリール君が返事をする。
まぁ王子様だし間違いではないんだが、さすがに直球過ぎて嫌なんだろうなぁ。捻くれているだけのお爺ちゃんだから許してあげてね。
「戦争は嫌いか?」
「誰だって嫌いでしょう。大切な人と離れ離れになったり、故郷を追われることだってある」
戦争かぁ。その話は割とイクリール君には地雷だと思うんだけど大丈夫なの? これ。
自分の国が内戦中で大好きなお兄さんたちにも会えなくて。レグルス王子たちと仲良くしているとは言え故郷を一人で離れて。
「俺は息子を戦争に取られた」
「それは……。なら、僕が戦争のない世界を作ります」
やだなぁ、こういうの。もっと子供には平和な世の中を歩ましてやりたいじゃない?
せいらちゃん見てみなよ。これ以上ないくらい幸せです! って顔しながらチョコ頬張ってるよ? 子供なんてこれくらいでいいじゃん。
「そうかそうか。そりゃあいい!長生きするもんだな」
「笑わないでください! 僕は本気で!」
「ガキに持たせる剣はねぇが、必要になったら取りに来い。いいのを打ってやる」
ご機嫌で奥に帰って行くお爺さんを見送ってお孫さんがため息を吐いた。
「またあんなこと言って。……爺さんを送って下さりありがとうございました」
「いやいや、それより。この剣で騎士団長になってみせるんで楽しみにしててくださいっす」
力強く宣言したルクバト君にお孫さんが短く返事を返す。この世界の住人たちは日本人に比べると心意気が違うなぁ。
食べ終わった包み紙をせいらちゃんから受け取ってポシェットに仕舞い込む。どうやらチョコを食べて復活したらしい幼女がとてとてとルクバト君に歩み寄る。
「るーくんおじさんみたいになるの?」
「おじ、って団長っすか? そうっすよ。めっちゃ強くなります」
「そっかぁ、かっこいいね」
この幼女、最後しか聞いてないだろうに、調子いいな。
幼女はチョコを貰ってご機嫌である。




