16 大人はダメね、つい偏見の目で物事を見る
「ここが交易の街、アルシャウカトです」
イクリール君が数歩先で振り返り楽しそうに笑った。
「どうです? 綺麗な街でしょう? 僕も以前この街に泊まったことがあるんですよ」
少しだけ得意げに紹介した街並みは煉瓦造りの温かみのある建物が並んでいる。
赤茶の煉瓦を敷き詰めた街路に降り立った幼女はしきりに辺りを見渡しながら目を白黒させていた。まぁこのくらいの子にしたら統一された景観というのは物珍しいのかもしれない。
私にとっては深夜にやってるヨーロッパの空撮番組で見たような光景なのだが。それにしても煉瓦造りか、地震の心配がない土地なんだなぁ。
「どこか行きたいところ、と言ってもわからないですよね」
「そうっすね。俺はともかくお二人は初めての外出ですし」
「じゃあどこかで休憩してから公園に行きましょう。ナナも構いませんか?」
この街について詳しくないのもあるが、なんの反対もないので素直に頷いておく。
自分が案内できると張り切っているのか、率先してプランを考えてくれるイクリール君は頼もしくも可愛らしい。
「それじゃあお手をどうぞ。セイラ」
小さくても王子様だなぁ。エスコートに慣れていらっしゃる。
少年が幼女の手を引き、街路を歩く後姿をにこにこと眺めながらルクバト君と共に付いて行く。その後ろに何人かの騎士さんがいて、必要なことだとはわかっているがなんだか仰々しくて変な感じだ。
馬車の中で話した通りレグルス王子は街について早々にアルヘナ君と騎士さんを伴って、神殿へ入る許可を貰いに行った。
その辺は一国の王子だからといって顔パスというわけではなく、しっかり手続きが必要らしい。行政の在り方として信頼できるんだか、もうちょっとやりようはないのか。手続き大変でしょう。
「おみせいっぱいだね」
「アヴィオールは工業と商業で成り立っている国ですからね。特にこの街は交通の便がいいのでたくさんお店が集まっているんです」
いっぱい勉強したんだねぇ。でも多分せいらちゃんには最後の部分しか伝わってないよ。
四人で歩きながら街を見渡せば確かにお店が多い。魔法石の採掘が盛んなようで、その加工品の販売店や、それに集まった人への飲食店と言ったところか。
人の集まるところにはお金も集まると言うけれど、こういうのは世界関係なく同じなんだなぁ。
一人感心していると、不意に誰かがせいらちゃんたちの前で倒れかかった。
「あ」
声を上げるよりも早くルクバト君が動いて抱きとめる。老人だ。
一瞬にして後ろにいた騎士さんたちが飛び出してきて私たちを囲む。お、お仕事お疲れ様です? まぁ、そんなの関係ないとばかりに少年少女は大人たちの合間を縫って、飛び出していくんだけど。気持ちはわかるが騎士さんたちのためにもやめてあげて。
「危ねぇな、大丈夫っすか?」
「おじいちゃんだいじょうぶ?」
「どこか悪いんですか?」
警戒を解いた騎士さんたちにお礼を言い、私も落ちたお爺さんの荷物を拾い集める。
「おお、すまんな。最近は何をするにも膝に来ていかん」
ルクバト君に支えられながらその場に一度腰を下ろした。
それからちらりとせいらちゃんとイクリール君を見て大きく息を吐く。
「なんじゃお前さんら。ええとこのボンボンか」
「な、僕は!」
「まーまーまーまー。それより、膝は大丈夫っすか? 家まで帰れそう?」
「休みゃあ動くようになる」
「そうは言ってもこんな往来で休んでたら体も冷えるでしょ」
ルクバト君が呆れたように言うもお爺さんは気にした様子もなく。どこのお爺ちゃんも頑固だなぁ。
とはいえ膝を痛めているのは心配だし。少し悩んだ末に申し訳なさそうな顔をしてルクバト君がこちらを向く。
「家まで付き添って来ていいっすか? すぐに戻りますんで」
「ダメですよ。ルクバトは僕らの護衛なんですから一緒にいないと」
いやまぁそうなんだけど。協調性とか良識を考えたらその言動こそダメなんだろうけど、イクリール君の立場を考えたらその対応が正解なんだよなぁ。
近年日本でも怖い事件増えて来てたし、預かっている他国の王子様に何かあったら護衛として付いてきてくれているルクバトを始め周りを固めてくれている騎士さんたちの今後にも繋がる。
良識とか見え方とかを考えたらよくないのかもしれないけれど、こうして突き返すのも周りの人を守るための方法の一つなのかも。
「僕も行きます。弱ったお爺さんを置いていくなんて僕の主義に反しますので!」
ごめん。私の心が汚れてた。
この少年は高潔というかもっと清廉な世界で生きているんだよ。私と違って綺麗な物で溢れているの。保身とか仕方ないとかいう言い訳で世界を見てないの。
いつの間にこうなったのかはわからないけど、好意や善性を指針として世の中を見れなくなるのは大人のダメなところね。
ぽこぽこ怒りながらも「しっかりルクバトに捕まるんですよ」とか「家はどっちですか」なんて世話を焼こうとするイクリール君は微笑ましくも心配になる。
どうか悪い人に目を付けられず健やかに育ってくれ。
「いっくんやさしいね」
ちょこちょこと傍まで寄って来て笑ったせいらちゃんがなぜか満足げで、とりあえず頭を撫でておいた。
汚れた大人ですまんな。




