15 幼女が見てる世界
「私たちはもう少し仲良くなるべきだと思うんですよ」
これはどういう展開なんだろう。
レグルス王子が、イケメンが、幼女に向かって真剣な顔でそんなことを言っている。
カタカタと揺れる馬車に四人、向かい合って座る。レグルス王子とせいらちゃんはともかく、私とルクバト君は未だ困惑中だ。
え? レグルス王子は前の馬車に乗る予定だったよね? っすね。こそこそとルクバト君にアイコンタクトを送り合ってみるも目の前にいる王子様がいる現実は変わりなく。
忘れているのかどうかは記憶があやふやだが、ゲーム中の移動シーンは覚えがないから割愛されていたんじゃなかろうか。
もしかしたら同じ馬車で移動していた可能性もあるし、おかしくはないのかもしれないが、せめて事前に一言貰えると心の準備が出来るのでお願いします。
「街に着いたら神殿に入るための手続きで少し離れるので、移動中に少しでも話が出来たらと思いまして」
言っている意味はわかるし交友を深めるのも問題はない。ただ本当にびっくりしただけで。
シュルマさんが教えてくれたのだが、各地に点在する神殿は国営のものではないらしい。たまたまその地にあったあのクソデカクリスタルを信仰対象として各々で神殿を作ったそうだ。
とはいえこの国、アヴィオールの建国神話に出てくる龍を祀っているところばかりなので大体どこも似たような感じで信仰しているとのこと。
「おしごとなの?」
「はい。出来る限り早く戻ってきますね」
「そっかぁ」
「ルクバトも。その間二人をお願いしますね」
「了解っす」
相も変わらずせいらちゃんはぽかんと見上げたままレグルス王子に答えた。
警戒とも、緊張ともちょっと違うんだけど、なんかちょっと反応が悪いんだよね。別に嫌がっているわけではないが、なんか子供ながらに忖度してる感じがする。
「それで、さっきも言った通りなのですが、仲良くなるためにも星の神子様のことを教えて貰えませんか?」
何話せばいいのか困ってるな、この幼女。
隣でレグルス王子と私を見比べているせいらちゃんと次第に困った顔になる王子に思わず助け船を出す。
「せいらちゃんの好きな食べ物は何ですか?」
「せいらね、チョコすきだよ。あとね、りんごのうさぎさん!」
「りんごのうさぎ?」
「飾り切りっすね。皮の部分を耳に見立てた切り方っす」
「なるほど」
ピザの時も思ったけど、一応食文化は似通っているところはあるんだよね。お城で出されていた料理はフランス料理っぽい感じだった。
もしかしたら宮廷料理って大体あんな感じなのかな。ジャンクと総菜がメインの生活だったのでその辺はよくわからない。
「じゃあ、街に着いたらしたいことはありますか?」
「んと、……レグルスくん、おしごとおわったら、せいらとあそんでくれる?」
「もちろんです! 一緒に遊びましょうね」
「あのね。また、おにごっこしたい! ななちゃんと、るーくんも!」
嬉しそうな顔しちゃってまぁ。そうなると、私はまた筋肉痛かなぁ。もう少し体力付けた方がいい?
こっちの人の名前は幼女には少し難しいのか呼びやすく言い換えてるが、ルクバト君やイクリール君との関係は良好だ。毎晩の様に皆の名前をちゃんと呼ぶ練習の成果を披露出来るようになる日も近いかもしれない。
だからこそ、一番最初に会って、且つ名前も早々に呼べるようになったはずのレグルス王子に遠慮しているのがちょっと気になると。
「いっくんもあそんでくれるかなぁ?」
「ええ、きっと。一緒に誘いましょうね」
「うん!」
やっぱちびっこと仲良くなるには一緒に遊ぶのが一番だよなぁ。さっきの困り顔はどこへやら、にこにこで話をする二人に一安心する。
そうして少しずつ打ち解け始めた頃、不意に、レグルス王子の表情が曇った。
「神子様は、……お家に帰りたいですか?」
まぁ、この人にとってはそれが一番気になるところではあるか。だからといってそれをここで聞くのもどうかと思うが。
だって、それを聞いたところで私たちは元の世界に帰れない。それをせいらちゃんがどこまで理解しているかはわからないけど、それを聞くのは少し心無い気がした。
それでも聞かずにいられなかったのは、きっと、何も知らない子供から世界を奪ってしまった自責故だと思う。
「ままがね。こまってるひとがいたら、たすけてあげてねっていってたの」
せいらちゃんが笑った。
笑って、でも五歳児にしては落ち着いた声で、何もかもわかっているような顔で口を開くのだ。
「レグルスくんこまってる」
「それは……はい」
「せいらがおてつだいしたら、レグルスくんたすかる?」
「ええ、とても助かります」
何とも言えない気分だ。この子はどこまでわかっているんだろうか。
「なら、おてつだいがんばるね」
「ありがとうございます神子様」
色々背負い込んでいるんだろうなぁ。ルクバト君は皆でレグルス王子を支えていると言っていたけど、ここ数日の出来事だしまだ皆上手く呑み込めていないのかもしれないね。
ただ、せいらちゃんも、彼女のお母さんもいい人そうなのが余計にやるせなくて。
「素敵なお母様なんですね」
「うん! せいらも、ままのことだいすき!」
我々は、本当にこの子から大切なものを奪ってしまったらしい。




