14 扉を開けて
Side 第二王子
揺れる馬車の歩みは遅く、流れる景色をいつもよりもじっくりと眺めながら物思いにふける。
まだ王都を出てそう経っていないが、同じ馬車に乗っているアルヘナとイクリールも思い思いに過ごしていた。彼らは馬車での移動に慣れているが、一つ後ろの馬車に乗っている二人はどうだろう。
思い出すのは異界から来た二人のことで。
二人ともいい人だ。神子様はいつも笑顔で、今のところ大きな不安などは感じていない様で安心する。
メイドたちが話していたのだが、いつも朝、着替えが終わるとは周りにいる皆に「可愛い?」と問いかけては嬉しそうに笑っているらしい。ドレスの流行りはわからないが、ふわふわとしたデザインが好みのようだ。
ナナさんも最初に言った通り、神子様の生活面をよく支えてくれていて神子様も懐いている。きっと今も後ろの馬車で仲良く過ごしているだろう。
「ため息ばかり、鬱陶しいですよレグルス」
「え。ああ、すまない」
「そんなにあのちびちゃんたちが気になるのかよ」
「それは……いや、まぁ。すまない」
不意にかけられた声に視線を馬車内に戻せばアルヘナとイクリールが呆れたように私を見ていて。自分でも気づかないうちに何度もため息をついていたらしい。
確かに神子様について気になってはいたが、そこまで態度に出ているとは思わなかった。じっとりとした二人の視線に気おされて思わず謝罪する。
しかし、気になるものは気になるのだ。神子様たちがこちらに来てまだそう時間はたっていない。慣れないことや不安だってあるはずなんだ。それを少しでも解消してやりたいと。
「その、彼女たちが不自由なく暮らせているか気になって」
「気になるなら聞けばいいじゃないですか」
「そう簡単に聞けないから苦労しているんだよ、イクリール」
きっぱりと言い切ったイクリールに苦笑する。彼の率直なところは好ましいが、私に彼の真似は少し難しい。ただ意気地がないだけともいうが。彼女たちをこの世界に呼び込んだ責任や罪悪感が渦巻いて、つい二の足を踏んでしまう。
頭を悩ませる私の前でアルヘナが欠伸をした。君はもう少し私の悩みに興味を持ってくれ。こっちは真剣に悩んでいるんだ。
しばらく考えた後、イクリールが何かに納得したように口を開いた。
「ああ、なるほど。気安く話しかけられるほど仲良くないから困ってるんですね?」
「……、出来ればそうはっきりと言わないでくれると助かる。後、アルヘナ。笑うな」
「いや、笑うなっていう方がムリだろ」
心が痛い。もう少し手心というものをだな。
ただ、実際その通りなので困る。イクリールは神子様とすぐ仲良くなったようだし、この間も会ったばかりのルクバトともすぐ打ち解けていた。私が一番最初に神子様と出会ったはずなのに何が違う?
子供は人をよく見ていると言うし、もしかしたら私の罪悪感や卑しさに気が付いているのかもしれない。
「仲良くないなら仲良くなればいいじゃないですか。折角の旅ですよ? 使命を全うしつつも、楽しみましょう」
「簡単に言ってくれるなぁ」
イクリールの言っていることはわかる。だが、許されるだろうか? 私は彼女たちが多くの物を奪ったと言うのに。
残念ながら友人たちのフォローはない。アルヘナは明らかに私を揶揄する態勢で見ているし、イクリールは当たり前だが私の考えに共感してくれない。
「なに? お前らあのちびちゃんのこと気に入ったの?」
「だって可愛いじゃないですか。妹が出来たみたいで、僕はセイラのこと好きですよ」
アルヘナの質問に答えてイクリールが微笑む。
世界を救う役目を背負わされた星の神子様相手に、とも思わなくはないが。でも、そうだな……。神子様は、あの小さな少女は、私が仲良くなりたいと思ったならきっとそれを許してくれるんだろう。そんな気がするんだ。
「あぁ、うん。そうだね、可愛い妹が出来たみたいだ」
自分が許せないのか、許されたいのかは正直まだわからない。彼女を前にすると罪悪感が渦巻いて上手く笑えない気がするけれど。
それでも相手は幼い少女だ。ならば。いつか兄さんが私にしてくれたように出来るだろうか。
「なら、仲良くなるためにも。たくさん話しかけないとね。そうと決まれば少し行ってくるよ」
短く息を吸って立ち上がる。
馬車は四人乗りだ。向こうには神子様とナナさん、そして護衛のルクバトがいる。もう一人くらいなら乗れるはずだ。結局、イクリールの言う通りなのかもしれない。仲良くないから気まずいのだ。なら仲良くなれば、私の抱える後ろ暗い気持ちも、いつか何かに消化出来る日が来るのだろうか。
御者に話しかけ、そのまま扉に手をかける。
「馬車を止めてくれるか」
「は? ちょ、待て、レグルス」
「セイラによろしく伝えてください」
「ああ、わかった」
完全に止まり切っていない馬車の扉を開けて、御者がこちらに来るのも待たずに飛び降りる。少し体勢を崩したがそんなこと気にしていられない。
馬車に揺られてまだ数時間も経っていないのに、外の空気に胸が弾んだ。
王子様は幼女と仲良くなりたい!




