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101 海の街に来てやることと言えば


 この世界に来て幾度となく繰り返す馬車旅も、もうすっかり慣れたもので。

 微妙に揺れる馬車の車体や、何かに乗り上げた時の軽い衝撃も、大した障害にはならず、せいらちゃんも欠伸を噛み殺すほどにはのんびりとさせてもらっている。


 やっぱり道中に魔物が出ないのがいいね。

 一応、この辺りにも魔物はいるにはいるらしいけど、ノーモンの砂漠と違って数も少なく、わざわざ街道まで出て来ることもないらしい。大きい街が多いから、人の生活圏に魔物が来ない様に間引きなんかもしているのかもしれない。

 何はともあれ。魔物が飛び出してこないだけで移動もスムーズだし、トラブルに見舞われる機会も、騎士さんたちの負担だって格段に減るのは有り難いね。


「うみだ!」


 数日かけてハイルから移動し辿り着いた街に、せいらちゃんが目を輝かせる。

 海に面した街、アトリアは観光都市の一面を有しているのか、建物の外壁は全部白で統一されており、空と海の青と合わさってなんだか眩しい。どこを見ても青と白で、まるでこの街全体が海と砂浜みたいだ。

 馬車を降りて、騎士さんたちが荷物を宿に詰めてくれている間に少し街を散策する。この街の神殿には夕方に向かうと予定だが、それまでどうするべきか。

 この後の予定はレグルス王子に確認するとして、一先ずそわそわしているせいらちゃんを宥めるために声をかける。


「せいらちゃん、海好き?」

「すきー」


 グラフィアス行きの船に乗っていた時のテンションの上がり方からなんとなく察していたけど、やっぱり海好きかぁ。

 花も綻ぶような笑顔を振りまいて、ご機嫌でゆらゆら揺れているせいらちゃんに、街行く人も微笑ましそうにしている。ほらほら、人通りも多いし揺れるのはもうちょっと端の方でしようね。


「人が多いな」

「丁度、海祭りの時期なんですよ」


 それなりに人通りのある道の端にせいらちゃんを追いやっていると、レグルス王子の問いにイクリール君が答えた。

 海祭りとは。


「お祭り自体は豊漁祈願のものですが、この辺りには海神からの贈り物を見つけた者は望みが叶うという言い伝えがあるんです」

「贈り物って?」

「虹色に輝く貝ですね。おとぎ話ではあるけれど、お祭りにはそういうのも必要でしょ?」


 楽しそうに笑うイクリール君は、色々あったけど今年も無事開催出来るようでよかったと付け加える。

 辺りを見回せば祭りの準備なのか慌ただしく過ぎ去っていく人や、観光客らしき人もちらほら見られて、とても活気に満ちている。

 まぁ内戦があった後だもんね。色んな声があるとは思うが、こういう時だからこそ、ずっと続いているお祭りを開催してちょっとでも元気になってもらえたらいいね。


「キラキラのかい!」

「探してみます?」

「遊びに来てるんじゃねぇぞ」


 キラキラと聞いて反応するせいらちゃんと嬉しそうなイクリール君に、アルヘナ君が呆れた声を投げかける。

 そうは言いつつも、やるとなると結局最後まで近くで見守るくらいはするんだろうなぁ、この人。口は悪いけど、なんだかんだで顔見知りに対しては甘い、ほっとけない気質の人だし。


「まぁいいじゃないか。確か、神殿のある洞窟は海が引き潮になる夕方までいけないんだろ?」

「はい。ほら丁度あそこ、あの洞穴の中に神殿があるんです」


 宥める様に口を開いたレグルス王子にイクリール君が少し離れた岸壁を指さす。岸壁には穴が開いているが、そこに至るまでの道が海に呑まれている。引き潮になると足場が現れるんだろう。

 なるほど、それで神殿に行くのは夕方だったのか。潮の満ち引きで足場が出来るなら、わざわざ今濡れてまで向かう必要もないし、どの道時間を潰す必要がある。


「だから、ね?」

「たまにはいいんじゃないかい? 神子もやりたそうだし」


 いいでしょう? とでも言いたげなイクリール君に、エルナトも賛成の様だ。

 潮干狩りかぁ。自分の体力の無さが心配だが、特別不満もない。


「ナナはどうです?」

「私も構わないよ」


 イクリール君に問いかけられ頷けば、さらに彼の表情が明るくなる。さては君、せいらちゃんの要望にかこつけて、実は自分も噂の貝を探したかったな?

 まぁ実際に「貝を見付けたら望みが叶う」なんて信じてはいないんだろうけど、皆で潮干狩り、って言うのはせいらちゃんの思い出にいいんじゃないかな。楽しい思い出をたくさん作ってもらって。


「そういうわけだが、どうする? アルヘナ」

「あぁクソ、わかったよ」


 多数決では決定したが念のため、という様に問いかけたレグルス王子にアルヘナ君がため息と共に肩を落とす。

 人の良さが出てるなぁ。そこで宿に戻る、くらい言わないからついお願いしたら行けるんじゃないかと思われるんだと思うよ?


「みつかるといいね! キラキラのかい!」

「頑張って探そうね」


 すでにルンルンのせいらちゃんの頭を撫でれば、細い髪が手の中で滑った。汗は……かいてない。天気はいいものの日差しが強いわけではない。が、砂浜に出るならこまめに水分補給させないとなぁ。帽子があればよかったんだけど。

 それにしても。まさか異世界に来て潮干狩りをすることになろうとは思いもしなかったな。



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