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グッドバイ・ピッチ  作者: カロリーはうまみ
3年目(久松プロ6年目)
151/152

日本一記念特集 ーsky highー vol.1 クロウズの"死神"は2026年の軌跡に何を想うか

今季、24年振りのリーグ制覇、そして日本一の栄冠を手にした京央ネイビークロウズ。

その軌跡とプレイヤーの想いを、特集記事として全てのクロウズファンに贈る。


「今日はよろしくお願いします」


灰色の、糊の効いたスーツを見に纏い、久松は折り目正しく筆者に会釈をする。

通常取材する際のどこか無愛想な印象はまったくなく、にこやかとは言わないまでもいつもより柔らかい雰囲気を纏わせていた。

久松といえば、2024年に大きく飛躍してチームの柱となった選手だが、その足跡はクロウズをとりまく大きなうねりとも重なっている。

それだけに色々と聞きたい事はあるのだが、何につけても日本一だ。そこを祝わなければ始まらない。


「あぁ、これはどうも。ありがとうございます」


筆者の祝辞を外連なく受け取り、久松が鷹揚に返事をする。取材が始まっても、いつもとはどこか違う雰囲気を纏う。ということで、それを少しだけつついてみることにした。


「今回ばかりは愛想良くしろって広報の人から言われてましてね。というか、いつもそんなに愛想悪くしてますか?」


少し恥ずかしそうに久松は後頭部を掻いてそう言った。

マウンドでは感情を表に出さないよう努めている男が筆者の質問に苦笑いを浮かべる。それでも投球する時とは打って変わって、若干ながら柔らかい雰囲気だ。緊張もしてないようなので、早速日本一になった気分やポストシーズンでの登板について聞いてみた。


「まず、優勝は嬉しかったですし、できて良かったと思っていますよ。特に僕は、去年GSで不甲斐ないところを見せてしまいましたし、今年の秋はちゃんと働けたかなと思っています」


今年のGSでは出番がなかったものの、JCSでは3試合に登板し、9回8奪三振無失点。獅子奮迅の働きで大蝦夷の攻勢を弾き返してみせたのは記憶に新しい。

しかし、1イニングのクローザーでもなく先発でもなく、以前の役割であった3イニングクローザーというのには大いに驚かされた。久松自身、想定していた役割だったのだろうか。


「想定してはいませんでしたね。まぁでも、吉永監督の野球というのはそういう読めなさがいいところですし。僕自身もそういう使われ方の方があってる気がします。特に、今回大蝦夷は僕のことをすごく嫌がってる感じでしたし、舞台と作戦と能力がガチっと噛み合った結果があれでしょうから。最後の方は向こうの慣れとかが出てきてたからギリギリのラインでもありましたけど。できる事は100%やりきったかな」


久松はそう飄々と答え、続ける。


「力を発揮できるかとかはともかくとして、ピンチだったり特殊な使い方をされてる時っていうのはすごく頭を使うので、野球をやってるなぁって感じがするんです。JCSはそれの極地でしたね。そんな中で胴上げ投手になれたのは本当にいい思い出ですよ」


そんな風に最終盤を振り返った左腕に、今度は今年の出来を振り返ってもらうことにした。

筆者が題を立てると、軽く襟を正してゆっくりと久松が言う。


「ああは言いましたけど、色々と難しいシーズンだったと思います。アタマはクローザーとして、それで少しして先発として投げた訳ですが、調整だとか心身のスイッチの切り替えとかは、間がないと厳しいなと思いましたね。全体的にはたまたまうまく行ったかなという感じです。調整に関しては2軍の津田コーチや木下コーチには随分助けてもらいました。もちろん、上に戻った後は、宇多コーチにも技術面でのアドバイスをもらったり、コンディション管理の面ですごくお世話になりました。あとはまぁ、チームの状態がよかったのでその流れというか、追い風を受けて突っ走れたからこそ多少誤魔化せたのかなと」


クローザーとして10セーブを挙げ、その後チーム事情から先発へ転向し、8勝を挙げている。いずれも偉大な前任から役割を引き継いで、それに遅れを取らない働きと言えるだろう。大車輪、といっていい活躍をしているのにも関わらず、クロウズの死神はそう謙る。

胸を張っていい成績なのではないかと、筆者はそのままの言葉を投げかけてみた。


「ええ。出せた数字には満足しています。ただ、武田さんや十川さんのような絶望感や安定感は与えられていなかったのかなと。そういう意味では、さっき言った通り起用法やチームの勢いに助けられた所もありますし、小手先でどうにかした部分がまだまだ残っています。レベルアップしたいですね」


そう言って久松は、一瞬、下唇を犬歯で噛む。

優勝したというのに、そこには悔しさだけでなく焦燥感のようなものも感じる。その理由はなんだろうか。


「当たり前のことですけど、来年武田さんも十川さんもいませんからね。チームとしても個人としても意識しておくべきというか。特に僕なんかは歳が上の方になりますから、リーダーシップなんて取れる人間じゃないですけど、できる事はしていかなきゃなと思っています。…まぁ、そういう話の流れでいくと、どんな形であれ、チームから離れる事になってしまった2人の師匠に、クロウズでの優勝と日本一を届けられたのは本当に良かったです」


かつて薫陶を受けた者への手向けについて、久松がこの日1番満足そうに、それでいて安堵したように語ったのが印象的だった。

去る者がいて、残る者がいる。絶え間なく変わり続ける野球界にあって、久松は先達と袂を分つこととなるが、次に目指すものは何になるのだろうか。


「個人的な話でいくと、武田さんに並ぶような選手になりたいですね。もちろん、実績考えるとすごく難しいんですが、ひとまずにじりよるところから。最多セーブを取れるように頑張りたいです。チームとしては当然連覇を目標に。十川さんのように、成績でチームを引っ張っていければと思います」


クロウズが栄光の影で失ったもの。その穴は確かに大きく埋め難いのだろうが、新たな太い幹が確かにその存在を主張していた。

クロウズを優勝させる為にやってきた大魔王と、翳った年月も近年の輝きも一心に支え続けたエースの想いは、確かにここに受け継がれている。


(文・構成 関東スポーツ 菅汐里)

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― 新着の感想 ―
10セーブというのは校閲ミスかな? たしかリリーフでは1敗9セーブだった気が…
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