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81話 狂想曲+月下美人(3)

 三人が弾丸が飛んできた方向を見ると、そこには拳銃を構えた春紀の姿があった。



「ヘルエル!」



 既に傷だらけの春紀の体。光は構えていた剣を下ろし、春紀の元へ駆けつける。



「どうやってボクの氷を破ったんだい……」



 殺意を込めて春紀を睨みつけるルキフグス。春紀はそんな彼女を蔑むように笑った。



「ラファエル様の慈悲深い魔力を侮りましたね。」



 春紀の言葉にルキフグスは可憐を見た。光のネックレスのお陰である程度は抑えられているが、それでも僅かに溢れ出るエメラルドグリーンの魔力。それが氷の床を伝って春紀の魔力を回復させたのだ。


 事態を理解したルキフグスは舌打ちをした。



「やっぱり先に君を殺すべきだった。花の契約者」



 再度弓を構え、矢を具現化させるルキフグス。先程よりも強い殺意と魔力が込められていた。



「奇遇ですね。私もいち早く、貴女を殺したいと思っていますよ」



 春紀もルキフグスに負けない殺意を向ける。魔力で具現化した銃が彼女を狙う。



「助かったよ。花の契約者」



 光が春紀の隣に立ち、剣をルキフグスに向ける。ルキフグスも流石に二対一は分が悪いのか一歩さがった。



「別に私は、ガブリエル様を助けるつもりで撃ったのではありませんよ。私はただ、可憐さんの悲しむ顔を見たくないだけですから」



 一度背後にいる可憐に視線を送る。慈悲深い笑みを彼女に送ると、春紀は再度殺意をルキフグスに向けた。そんな春紀に光は少年らしく口角を上げた。



「それだけ皮肉が言えるなら、ぼくの熾天使としてまだ働けそうだね」



 可憐の悲しむ顔を見たくないのは同意だよと付け足し剣を強く握りしめる光。それに合わせるように彼の瞳も徐々に赤く染まる。



「随分ブラックな上司ですね」



 春紀がルキフグスに向けて銃を撃った。五十口径のガス圧作動方式の自動拳銃は一度撃っただけでかなりの破壊力のある弾を放つ。


 二人の会話を弓を構えた状態でルキフグスは聞いていた。再度呼吸を整え、重心を身体の中心に置く。両手を同じ高さに持ち上げ、闇と毒に近い色をした弓を左右均等に引き分け、胸郭を大きく開き、魔力でできた氷の矢を放った。



「死ね」



 短く呟かれた殺意の言葉。それと同時に放たれた矢は春紀の放った弾を真っ二つに割りながら減速することなく二人に向かって飛んだ。



「底無しの魔力は本当に(ずる)いですよね」



 再度銃を構え、両手で引き金を引く春紀。発砲した反動で一歩下がる。春紀の弾丸とルキフグスの矢が当たり、弾丸は二つに割れ、矢は減速した。減速した矢はそのまま光が剣を使い折った。



「三対一。ちょっとボクでもキツイかな」



 視線を可憐に移すルキフグス。彼女は既に魔力が限りなくゼロに近い春紀に魔力を分け与えていた。



「ありがとうございます。ラファエル様」



 ゆっくりと礼をする春紀。可憐は微笑んだ。



「あなたのお陰で助かったわ。私の魔力なんかでいいなら使って」



 癒しの大天使ラファエルの魔力は少量でも春紀には充分すぎる程の回復量だった。



 その頃、ルキフグスが自信の武器である弓矢を消し、再度指を鳴らした。すると、ベルフェゴールを拘束していた氷の拘束具が細かい氷となって砕けた。



「ベル。こっちにおいで」



 手招きをし、ベルフェゴールを呼ぶルキフグス。ベルフェゴールは言われるがままに黒い翼を使いルキフグスのもとへ飛んだ。ゆっくりと着地し、膝をつき、忠誠の姿勢をとる。



「お手伝い出来ず、申し訳ございません。ルキフグス様」



 金色の髪がさらりと彼女の背中を撫でた。ルキフグスはその髪を軽く手に取り肌触りを確かめる。



「いいんだよ。君は今日だけ、ウリエルのお姫様なんだから。ただ、今の状況は、正直ボクたち二人には相当不利なんだよね。先にベルゼブブ様のお手伝いをしよう」



 ルキフグスの言葉にベルフェゴールはゆっくりと頷いた。赤と青のオッドアイが涙を含み、潤う。ルキフグスがベルフェゴールの右手を掴み、二枚の黒い翼を生み出し、羽ばたかせた。ベルフェゴールもまたそれに続いた。



「ベルフェゴール!」



 可憐の叫び声にベルフェゴールは一瞬だけ視線を彼女に向けた。ベルフェゴールの求めるもの全てを手にしている癒しの大天使の器はベルフェゴールの事を悪魔としてでは無く、幼なじみの仲間として見ていた。



「あなたになりたかった」



 ベルフェゴールの慈しみと嫉妬の混ざった声は可憐には届かなかった。可憐はそのまま二人が飛んで行った方向をただ無心に見ていた。




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