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第82話 破滅の足音


 この『アルカディア』で最強とは何か。 


 人族が答えれば、魔王と言う声も挙がるかもしれない。

 しかし大半の者、すなわち獣人、ドワーフ、エルフ、鬼、吸血鬼、竜、魔物や魔獣等は答えられるのであればこう答えるであろう。


 邪神を単騎で倒す事が出来る『竜王メフィル・ナーガ』であると。


 神話から語られる神と邪神の戦い。


 創造神が何とか封印した邪神を、この世で唯一、単騎で邪神を倒し封じることが出来る存在。それが『竜王メフィル・ナーガ』である。


 竜王メフィル・ナーガが動くとき、それは世界が終焉に向っている合図でもある。

 

 



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 魔王桜ノ刃鬼、真祖メアルード・ツヴァイ・ヴラド、獣人で真祖の眷属グリード・ピットブル。この3人が戦っている戦場では、すでに生きている人族は居なかった。


 刃鬼のおかげで正気を取り戻し兵士は都市ロムルスへ逃げ、メアルードの『ブラッディ・アミューズメント』の効果から抜け出せなかった者は、同族で殺し合ったり、戦いの余波に巻き込まれたりして、物言わぬ死体と化した。


「グガガガ!ハッハッハ!」


 刃鬼が何度斬り飛ばしても、残った手足、時には首だけで襲ってくるグリード。目が血走り、よだれを垂らしながら狂気に身を焦がし狂った笑みを浮かべている。


 そしてそんなグリードを補助しながら、刃鬼に攻撃を仕掛けるメアルード。


「ほっっんとに面倒ね」

「いやーそんなに褒められるとはねー」

「褒めてな「ズガッアァァンンンッッ!!」!?」

「!」 

「グガガガ!」


 空気がビリビリと震える程の爆発音。

 斬り結んでいた3人が瞬時に距離を取り、爆発音があった方に目を向ける。


 すると、遠くに高速で飛来する何かが見えた。


「あれは……メフィル・ナーガ!?」

「ちょっと、竜王が出てくるのは聞いてないなー」

「グガっ!?」


 刃鬼は目を見開き、メアルードは冷や汗を垂らし、グリードは尻尾をシュンとさせながら、竜王を眺める。


 ウラヌス教総本山と都市ロムルスをかすめながら西の方に飛んでいく竜王メフィル・ナーガ。そしてそんな竜王は空を飛びながら、いくつもの魔法陣を自分の体付近に展開していく。


「グゥッラッゥアアア――――!!!!」

 

 竜王メフィル・ナーガの咆哮。


 その咆哮には、あり得ないほどの魔力が乗っており、それが魔法陣と共鳴し魔法陣から火の玉を降らせる!


 ズガン!ズガン!とそれなりに離れているこの戦場まで、爆発の音が響いてくる。

 それだけで、あの火の玉一つ一つがどれほどの威力か察せられた。


 この異常事態に対して、刃鬼の脳裏に浮かぶのは神崎徹の姿っだった。

(何が起きてるの?……まさか徹様がメフィル・ナーガと?!)


 魔王である自分に理解が及ばないのであれば、それはすなわち、自分より高位である神崎の身に何かが起きているという事だ。


 本当のところがどうであれ、刃鬼はそう感じた。そのため思わず、竜王メフィル・ナーガが居る方へ体が動こうとしたが、それを遮るメアルード。

 

「ッツ!」

「刃鬼~どこに行こうとしているのかなぁ?刃鬼の相手は私達だよ」

「ガハハハハ!!」

「……退きなさいメアルード」

「いいねー。やっと澄まし顔が崩れた」


 真祖メアルード・ツヴァイ・ヴラドにとって”魔王”という肩書に執着はない。もっと言うのであれば”神”である神崎徹にも興味がない。


 興味があるのは、楽しい事なのかつまらないか事なのか。やりたい事なのかやりたくない事なのか。興味があればとりあえずやってみて飽きたら簡単に壊す。それがメアルードというモノである。

 

 そんな飽き性な真祖メアルード。ここ最近……800年程の楽しみといえば、刃鬼をどういじめるか?だ。もちろん自分が返り討ちに会うことも珍しくはないが、刃鬼にちょっかいをかけるのが今の楽しみである。

 

 最初確かに、”魔王”を襲撃した理由は、”魔”の王が自分ではないと、神に告げられたことだ。


 メアルードにとって、竜王メフィル・ナーガはどう逆立ちしても敵わない相手だが、他のモノはそんな事は無かった。鬼族であろうと竜であろうと、ゴブリンキングであろうと、不死性を持つ真祖である自分の前では、皆等しく敵ではなかった。


 にもかかわらず、”魔王”が他のモノに任命された事、その事実に気づいたメアルードがにブチ切れ「なら、魔王を殺せば私が魔王だよね」と襲撃したのが最初である。


 今まで”真祖”である自分と対等に戦える者が居なかったメアルードにとって、自分の本気で壊れない刃鬼という存在が居たことにより、生きることに張り合いが生まれた。

 

 いつしか魔王になる事、何故魔王になるのか?という、その理由が変化していったのだ。


 ちなみに、神崎が何故メアルードを魔王にしなかったかというと、こいつを魔王にすると、人族もドワーフ族もエルフ族も獣人族も皆等しく、眷属化……吸血鬼にして、吸血鬼エンドになるんじゃね?って思ったからである。

 

 まあそれは置いておいて、”女神”に唆されたとはいえ、今回の戦いも自分の意思で参戦し、刃鬼をどう倒すのか?というお題目を真剣に考えていたメアルード。


 竜王が出てきて一瞬ビビったメアルードだが、刃鬼が焦ってそうな雰囲気を感じ、あれ?今日こそ()れる?と思い、殺した後は自分の眷属にして、どうしようかなあ~?何して遊ぼうかなあ~?何て事を考えていたら、刃鬼の雰囲気が変わった。


 先程までとは比べ物にならない程の殺気が周囲に漏れる。


 今までは、わざと殺気を叩きつけたり漏らすことで、周囲の者を牽制していた刃鬼だが、明らかに殺気の質が変わった。邪魔をする者は何人(なんぴと)も切り伏せるという明確な意思を感じる程に。


 そして刃鬼の顔から、表情が抜け落ち能面の様になっている。


 メアルードが刃鬼と相対する時、なんだかんだ言って会話はあるし、悪口の言い合いに等に発展するが、こんな能面の様な表情をメアルードは初めて見た。しかし、その表情の下では、焦りや心配、すぐに駆けつけたい思いがあるのだろう。質が変わった殺気がその激情を物語っていた。


「ッツ!?グリード!」

「グガガガガ!」


 メアルードが、刃鬼の変化に冷や汗をかきながら少し戸惑っていると、それを隙と感じた刃鬼がすぐさま動く。


 その気配を察知したメアルードがグリードに命令し、グリードが刃鬼に特攻する。


 先程までの刃鬼は、血操術の攻撃をある程度余裕を持って対処していたのに、今の刃鬼は、紙一重で攻撃を避けながら攻め始めた。


 メアルードやグリードは不死性により再生する。だが刃鬼にそんな能力はない。一発でも喰らったら終わりの致死の攻撃に対し、刃鬼は身を極限まで晒しながら、メアルード達を攻撃する!


 今まで拮抗していた両者の天秤が傾きはじめた。


 余裕を持って避けるのとギリギリ避けるのでは、避けたあとの刃鬼の攻撃がメアルード達に到達する時間が少し速くなる。

 

 ……その覚悟の分だけ、刃鬼のギリギリの対処が生み出す一歩が、メアルードとグリードの能力を凌駕し始めたのだ。


 何度目か分からない再生を果たしたグリードが、周囲の異変に気付く。手のひらサイズの魔法陣がいくつも自分の周りに展開されていた。


「ガッハハハ!ハギャ!?」


 マズいと思ったメアルードがグリードに指示を出そうとするが、グリードの体には黒い雷で出来た蛇が、鎖の様に絡まり身動きが取れないようになっていた。


「アバババババババ!?」


 さらにその鎖は、常に放電しているのかグリードの体をビクンッ!ビクンッ!っと痙攣させながら、体を消さない程度の出力にされており、再生させることが出来ない様になっていた。


 グリードを捕らえた刃鬼がメアルードに迫る。

 メアルードは近寄らせまいとパラソル片手に、血躁術で攻撃を仕掛ける。


 しかし、その悉く(ことごとく)を対処され刃鬼の刀が届く間合いまで踏み込まれた。


 (……ふふふ、良いなぁ刃鬼は、命を賭けるモノが見つかって。これが、思いの強さか)

   

 メアルードの首と胴体が離れる。

 すぐさま顔が右と左に分けられた。

 体も気が付いたら、刃鬼の上下の骨腕が持つ黒炎の剣と黒雷の剣で燃やされながら切りぎまれていく。


 そしていつの間にか納刀していた刀を刃鬼が一閃する。

 居合によって放たれた赤黒い魔力の斬撃が、細切れにされたメアルードの体を消滅させていく!


 何とか頭の右側を死守したメアルードは、『ブラッディ・アミューズメント』の残り少ないエネルギーを全て使い、アバアバ言っているグリードの近くで体を再生させる。そして黒雷の蛇に縛られていたグリードの頭を胴体から捻じり離し、


「グギャ?!」

「じゃあね刃鬼!また遊ぼうねー」


 と、消滅していくグリードの体の横で左手をヒラヒラさせて、そのままグリードの頭ごと、自分の体を霧に変え、戦場を後にする。


(それにしても、最後の刃鬼は強かったなー。さすがに、あれ以上殺されてたら消滅してたかも。危ない危ない)と、霧の姿で先ほどの刃鬼を思い浮かべながら、次の襲撃をするためには、失った力を取り戻すのにどれ位時間がかかるかなー。とか、次はどうやって追い詰めようかなー。とか、そんな事を思案しながら自分の根城に戻って行った。


 残心をしていた刃鬼はそれを見送り、周辺に異常がないことを確認すると、すぐさま踵を返し、竜王が居る所へ走り出す。


「徹様!!」


 

主要キャラ以外って、適当に出しているんですけど、書いていると愛着湧いてくるんですよねー。

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