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第66話 悠真大人になる!


 魔王と勇者の戦いに、介入した大魔王。


 その話は、アトモス王国軍の後方にいた幕僚達と、聖光騎士団の隊長の元にも届けられた。


 さすがに、魔王一人でも手に余る現状において、それと同等かそれ以上の存在が確認された今、このまま戦うという選択肢は無い。


 すぐさま撤退を指示する隊長。


 アトモス王国軍は、魔王軍にそれなりの被害を与える事が出来たが、結局のところ、魔王と大魔王の前に敗れた。と言えるのだろう。


 魔王を倒せなかった事は良いことでは無い。しかし、魔王を倒せる唯一の存在である悠真が、生きてアトモス王国に戻れた事を考えると、魔王との戦闘”経験”を積んだと考える事が出来、トータルで見るとプラスであろう。


 人族からすれば、魔王に100回負けても、最終的に1回でも倒せればそれで人族の勝ちなのだから。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 今日も悠真はうなされている。


 魔王との戦いで無事に帰って来た悠真は、私の持つ屋敷の一つで療養中である。


 帰って来た悠真を見たとき、私は最初誰だか分からなかった。


 目は虚ろで、痩せこけ、馬車の中で身動きせず、ただただ焦点の合わない目で虚空を見つめていた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 私はすぐさま、悠真を屋敷に連れて帰り、献身的に身の回りの世話をしたと思う。

 何故、悠真がこんな状態になっているのか正確には分からない。


 聖光騎士団隊長に聞いても、言葉を濁すだけで答えてはくれなかった。

 答えてはくれなかったが、その反応である程度の推測は立つ。


 多分、父かその側近達は、悠真を意のままに操ろうとして失敗したのであろう。

 魔術や呪いの類で、悠真の自我を壊し、都合のいい人形にしようとしたのだ。


 ……。


 私も、国を背負う側の人間だ。

 だから、そのやり方の全てを否定するわけでは無いが、これだけは違うと、心からそう思う。

 勝手に連れてきて、その心が邪魔だからと、自我を壊し、使い勝手の良い人形にするなんて、さすがの私でもそれを肯定する訳にはいかない。


 仮に父が、それに噛んでいるのだとしたら、私は、悠真側に立つ。

 それが父の意に反する事ことになろうとも。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 あれから悠真は、見たところ普通の状態に戻った様に見える。

 ご飯も普通に食べるし、話しもする。


 ただ眠りにつくと、決まってうなされている。

 だから私は、悠真の隣で手を握り顔や首の汗を拭く。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 いつもの様に悠真がうなされている。

 私は慣れた手つきで、悠真を寝かせつけようと手を握る。


 段々と息が荒くなり、大量の汗をかいている。

 この時点で、いつもと違う事に気づく。


 すると悠真は、いきなりビクンと身体を震わせると、頭を左右に振りながら涙を流しながら口を動かしていた。


 何かを口にしている様だが、聞き取れなかったのですぐに悠真の口元に耳を近づける。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。僕は人を殺してしまいました。父さん。母さん。許して。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 悠真は呪詛の様にごめんなさい、ごめんなさい、と口ずさむ。


 私は、何とかしなければ!と頭では思うのに、どうして良いのかわからない。


 だから、何が正解なのか、どうすれば良いのかなんて言う考えを捨て、ただただ悠真を抱き締める。

 私の胸の中で、悠真は荒い息のまま、両手で頭を挟みながらイヤイヤとしている。


「悠真!大丈夫!大丈夫だから。私は貴方が何をしようとここに居るわ」


 左手で悠真の頭を胸に抱き、右手で背中をさする。


 どれくらいこうしていたのだろうか?数分だったかも知れないし、1時間単位だったかも知れない。


 目を覚ました悠真が、


「……ミ、レイユ?」


 と、私の顔をぼんやり見ながら呟く。


 私は少し離れ、左手で悠真の頬に手をやり、右手で悠真の頭撫でる。


 本当は聞いてはいけないのかも知れない。

 でもこのまま、何もせずにいたら悠真が壊れてしまう気がした。

 だから私は踏み込む事にした。


「大丈夫?大分うなされていたわよ?」


 そう言いながら優しく撫でていると、ぽつりと言葉を発する。


「夢を見たんだ」


「そう」


「僕のいた世界では、人殺しは1番やっちゃいけない事なんだ。……だから、僕は人殺しはしたく無かった」


「うん」


「でもこの世界では、必要があればしなくてはいけない事だ。頭では分かっているんだけど、やっぱりダメだった」


「うん」


「僕だけが非難されるなら、僕は耐えられた。でも、婚約したミレイユがそれで非難されるのは嫌だったんだ。だから薬を飲んででも、それをしようと思ったんだ」


「うん」


「でも、あの人達の顔が、断末魔が頭にこびりついて離れないんだ。大魔王と相対してから、薬を飲もうと思っても、なんか口に入れてはいけない気がして。……それ以来飲んで無いんだけど、薬を飲まなくなってから、その人達の恨みがどんどん増して来て」


「うん」


「僕はどうしたらいいのかわからないんだ。父さん母さんからも人殺しと言われ、友達からも言われ、殺めてしまった人からは恨みつらみを言われ」


「うん」


「僕は、もういない方がいいのかな?」


「悠真はどう思う?」


「みんなに迷惑をかけるならいっそ……」


「そう……」


 悠真は虚ろな目で私を見ている。いえ見ていないわね。 

 私を視覚に入れているのだけれど、見ていない感じかしら。


 私は何も言わず悠真を抱き締める。

 そしてそのまま、悠真の唇に自分の唇を当てる。


 数秒、何も反応しなかった悠真であるが、いきなりビクッと反応し、


「ミレイユ……」


 先程までの虚ろな瞳ではなく、弱弱しいが、意思の感じる瞳になっていた。


「ごめんなさいね悠真。貴方のその苦しみは、私達の勝手なエゴによるものよね。貴方が自分の世界に居れば、そんな苦しみを感じる事は無かったのに」


 私は、微笑みながらまた口づけを交わす。

 チュっという感じの軽いキスをして、


「悠真。その苦しみを一時でもいいから忘れなさい。……ね?」


 息のかかる近さで、そう私は言い、再度口づけを交わす。


 今度は長く、そして悠真の口内に舌を入れ、激しく。


 少しして、悠真は抵抗するように顔をそむける。


「ミレイユ。僕はそんな気分じゃッツ!?ウっぐ」


 その発言を無視して唇を奪う。

 仮に怒るのであればそれでも構わない。

 それが、少しでも生きる糧になるのなら。


 私は、悠真が嫌がるのを無視して、自身のネグリジェに手を掛ける。


 最初は戸惑っていた悠真、しかし徐々にその行為を受け入れたのか、そのまま……。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 チュンチュンチュン。



 小鳥のさえずりが耳に入り、朝日が顔にかかり自然と目が覚める。

  

 なんか良く分からないけど、久しぶりに頭がスッキリとした気がする。


 いつからか、自分が自分じゃないような感覚に囚われていたけど、今は”自分”というものが認識できる。


 そんなことを考えながら寝返りを打つと、目の前には眠っているミレイユがいた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「すいませんでした!」


 大きなベッドの上で、一応、服を着た僕は土下座をする。

 その正面には、一糸まとわぬミレイユがシーツを掛け微笑んでいた。


「何で悠真は謝っているのかしら?」


「いえ、その、何といいますか。一国のお姫様相手に、こんなことをしてしまって」


「何を言っているの?誘ったのは私なのだから、そんなことは気にしなくていいのに。それにしても、少しは元気になったわね。あの後、普通に眠れたみたいだし」


 あの後がどの後なのかを考えると顔が熱くなる!

 というか、昨日の記憶が少しずつ思い出される。


 恥ずかしい!///



 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 あれからミレイユと僕は、湯あみをして朝食をいただき、ミレイユの屋敷の執務室に場所を移した。


 ちなみに、ベッドの上に赤い点々があったことをここに記しておくまる


 

 僕は、執務室のソファに腰を下ろし、正面に居るミレイユを窺う。


「悠真はここ最近の事を覚えていますか?」


「……んー、ぼんやりとは。なんか霞がかかったような感じですけど」


「やっぱりですか」


 下を向き唇を噛むミレイユ。

 そもまま、無言の状態が続き、唐突に顔を上げたミレイユが、

 

「聞いていただけますか?この国が悠真に対してしたであろう行いを」


 と、意を決した様に話し出した。


大変長らくお待たせしました。

風邪をひく→こじらせる→気管支炎でダウンというコンボをくらい、仕事だけで手いっぱいでした。

 

薬をもらって良くなってきたので、ちょこちょこ再開します^^

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