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第67話 悠真逃げだす!


 僕とミレイユは、今アトモス王国城の客間に居る。

 何故なら、城から登城するようにと達しがあったからだ。


 ミレイユとそういう関係になってから、僕は不思議と、体と心の調子をとり戻し大分精神状態も良くなった。


 ミレイユとの話し合いで伝えられた事は、アトモス王国が僕の自我を壊し、人形として使おうとしていた事。


 もちろん、あの怪しい人物を捕らえたわけでは無いが、状況と聖光騎士団隊長の言葉の感じでは、多分そうだろうと。


 ただそれが、国王主体なのか側近の勝手な行動によるものなのかは、ミレイユにも分からないらしい。


 そしてミレイユは、アトモス王国から出奔することも視野に入れ、色々と行動してくれていた。

 僕は、正直どうすればいいのか分からなかったから凄く助かっている。


 これからアトモス王と謁見をし、その真意を確かめ、ミレイユと今後の事を決める予定だ。


 そんな事を考えながら、城の客間で待っていると、ズズンという音とともに城が少し揺れた。


「これは?」


「玉座の間の方からですね」


 ミレイユと顔を合わし、すぐに玉座の間に向かう。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 玉座の間の前に兵士は居らず、その豪華な扉を開けると、そこには僕をこの世界に呼び出した司教聖枢機卿が、自身の周りにバリアを張りながら膝をついていた。


 そして僕の顔を見るなり、


「!?勇者!早く逃げるのじゃ!」


 その声と同じくして、周囲から魔術を練っているのが分かる。

 すぐさま、光魔法のバリアを展開してミレイユと司教聖枢機卿を守る。


 一泊置いた後、ズガガッンと僕の張ったバリアに着弾した。


 割と強めの魔術だったのか、後ろにあった扉は壊れ壁にも穴が空いていた。


 玉座では、ミレイユの父であるアトモス王が、感情の無い目でこちらを見ていた。


 そしてその周りには、僕が見たことのないローブを羽織った人達が居た。


 もちろん、城で働く人やアトモス王国民の全てを知っているわけではない。それでも、何度もアトモス王と謁見したが、この人達は見たことがない。


 少なからず、近衛兵や聖光騎士団や宮廷魔術師に人達とは顔を合わせているのだが。


 周りの警戒を怠らないようにしながら、後ろにいるミレイユに目を向ける。


 驚いて固まっていたミレイユは、僕の顔を見てハッとし、ふーっと息を吐くとこっちを見ながらこくりと頷き、一歩前に出て王様に話しかける。


「お父様。これは何の冗談かしら?」


 冗談ではないことをミレイユは分かっているはず。でも、信じられないのかそう問いかける。


 ミレイユを見ても、顔色を変えないアトモス王に何か違和感を感じ、鑑定を行うが特に変わったところは見当たらない。


 だけど何かがおかしいと、僕の頭の中では警鐘が鳴り響いていた。


 すると、いつもは戦闘でしか発動しない予知が発動する。

 僕の脳裏に浮かんだ映像は、王様の肉体から出てくるおぞましい物であった。


 そう……アトモス王に寄生したそいつは、その内側から”肉”を溶かし、必要な部位だけ残し、姿形、声等をそのまま使っているようだ。


 つまりアトモス王は、すでにこの世に居ない。


「……ミレイユ。残念だけどアレは君のお父さんじゃない」


「え?」


 目を見開き、自分の父親らしき者を見つめる。

 見つめられたそれは、ニタアと不気味な笑みを浮かべ、


「ミレイユ、こっちに来なさい。その男は、国家転覆罪で死刑だ。さあ」


 そう言い手を伸ばす。


 ミレイユは、自分の父親が醜い笑いをした事に、何が起きているのか分からず放心している。


 すると、周りに居たローブ姿の者達は王様とミレイユの会話なぞ無視して、攻撃を開始する。


 僕は再度バリア張り、ミレイユと司教聖枢機卿を守る。

 このままここに居ても、ジリ貧だと思った僕は、バリアを張りながらさらに魔術を練る。


 相手の攻撃は続いているが、無視して光魔法を発動する。


 光量を最大限にした魔法は、相手……というかここに居た僕以外の全員の目、視覚を短時間使えなくした。


 すぐさま、王様も含め攻撃をして来た人全員を、土魔法のアレンジで、床の石材に足をめり込ませる。

 そしてそのままミレイユと司教聖枢機卿を肩に担いで城から逃げ出す。


 数分で城内から脱出し、貴族街付近にある兵舎にバレない様にしながら侵入する。

 今の時間の兵舎には人はまばらで、限られた人しかいないようだ。


 目が見えるようになった2人を1度降ろし、兵舎付近の馬小屋から馬を2頭拝借する。

 そのままミレイユと枢機卿に1人ずつ乗ってもらう。確認したところ2人とも馬には普通に乗れるようだ。僕自身は、乗らない方が戦えるし、早く動けるから馬は必要ない。


 そのまま郊外に向かって走り出す。

 とりあえず、アトモス王国の城下町から出ない事には話にならない。


 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 あれから簡単に、城下町の城門から出る事が出来た。

 ぶっちゃけ、結構な無茶をするつもりだったのだけど、その必要がない……というより、城での出来事が現実ではないのでは?というぐらいあっさりしていた。


 そのまま街道沿いを進んで、やっと僕たちは一息つく事が出来た。

 

 そして、ミレイユが口を開く。


「悠真ごめんなさい。放心してしまって」


「いや、あの状態じゃ仕方ないよ」


 とミレイユに首を振りながら、しょうがない事を伝える。

 

「わしも助けていただき感謝致します」


 馬から降りた枢機卿がそう言うと恭しくお辞儀をする。

 僕はこくりと頷くと、


「悠真……。アレは父ではないのよね?その操られているとか、洗脳されているとか」


「そう、ですね。あれは、その」


 僕が言いづらそうにしていると、


「悠真、構わないわ。薄々気づいているのよ、父はもうこの世に居ないって」


 そうか、そうだよね。

 ミレイユのお父さんの事だもんね。


「……はい。アトモス王はもう殺されています。そしてアイツは、アトモス王の死体と言えばいいんでしょうか?死体に寄生したものが操っています」


「そう」


 悲痛な顔で、僕の話を聞くミレイユ。


「大丈夫ミレイユ?」


 こういう時、なんて声を掛ければいいのか分からない。

 大切な人なのに、僕の無力さを感じてしまう。


 すると首をフルフルと横に振り、


「悲しくないと言えば嘘になるかしら。でも今は父の死を悲しんでいる場合じゃないわ。これからの事を考えないと」


「そう、だね」


 と僕とミレイユ話が一段落したところで、話を聞いていた枢機卿が、


「ふむ、なるほどのう。アトモス王国が急に方向転換したのはそういう訳か」


 いつもは好々爺という感じの枢機卿が、目を細め鋭い目つきでこちらに話しかけてくる。


「えっと何かわかったんですか?」


「うむ。まあ仮定じゃがのう。そもそも悠真は、自分が何故この世界に呼ばれたのか知っておるのか?」


「えっと。魔王を倒すんですよね?人族では倒せないから、僕が呼ばれたと聞きましたが」


「まあ、それも一つの理由なのじゃが。本来あの召喚術は、人族を守護する存在、”神”的なものをこの世界に降ろし、この国、もとい人族領を導いてもらうのが、そもそもわしとアトモス王の当初の目的だったのじゃよ」


「え?そうなんですか??」


 つまり、魔王を倒す勇者というより、人族領の人々を導く神的なものを呼び、守護してもらうことにより結果魔王を倒す予定だったのかな。

 

「しかし、召喚されたのは普通の青年に見えた。だから魔王を倒す勇者として王女をあてがい、とりあえず祀り上げる事にしたのじゃ」


 な、なんだと?

 そんなばっさり言わなくてもよくない?

 せめてオブラートには包もうよ。

 

「もちろん、悠真の資質、能力によっては、人神として人族を導いてもらうつもりじゃったのだがのう。ミレイユと悠真の婚約話があった頃は、アトモス王もこの話に乗り気であった。しかし、魔王と悠真が戦ったあたりで、政策を一気に変えたのじゃよ」


「一気に変えた……。ってことは、僕がいない間に寄生されたっていう事ですかね?」


「おそらく。というより悠真が居なくなったから、相手が手を出してきたのじゃろう」


「なるほど」


 ミレイユもこの話に噛んでいたのかな?

 そう思いミレイユの方を見ると、こくりと頷き、


「悠真を召喚した時、その条件は、善良である事、愚かでない事、存在力が高い事等、この世界の人族を導く存在として呼んだのは間違いないです。……ただ、私たちは一つ思い違いをしていました。呼ばれた者が”神”のように超然としたものであると思っていたのですが、普通の青年が現れたので」


「うん。なんかごめんね!?」


「いえ。私は悠真とこういう関係になった事は嬉しく思っているので、むしろそれで良かったのですが」


 うん。普通にそう言われると照れるね///


 ただ、アトモス王の事があるから、いつものミレイユの笑顔ではない。まあさっきより顔色が良くなってきているから良かったけど。


 ミレイユは笑みを引っ込め、枢機卿に向き直り、


「枢機卿。父を殺したやつらは一体何者なのかしら?現状、そいつらが敵なのよね?」


 そうだ。枢機卿の話が本当なら、僕に薬を与えた奴らも王様を殺した一味なのでは?


「……多分じゃが、女神教の奴らじゃろう」


「女神教?」

「女神教ですか!」


 僕とミレイユが同時に声をこぼす。


「さっき言った、政策の方向転換とは、ウラヌス教を邪教扱いにして、悠真を生け捕りにし女神教に引き渡すという話だったのじゃよ。アトモス王はさらに、国ごと女神教の傘下に入ると言い出してな」


 枢機卿はその事を問いただしに行ったら、さっきの状態になったらしい。


「これからどうします?僕等アトモス王国にはいれないですよね?」


「そうね……。捕まったら私も枢機卿も殺されるわね。悠真も女神教に渡されちゃうし」


「……都市ロムルスに行くしかないじゃろう。他の国は女神教に侵されとるからのう。ウラヌス教があるあそこは、女神教に侵されていない様じゃし」


「え?他の国も女神教となんかあったんですか?」


 ミレイユが驚きながら枢機卿に確認をとる。


「知らんかったのか?公にはされとらんが、メギド王国も帝国も女神教と手を組んどるらしい。何をするのかまでは知らんがのう」


 ミレイユと枢機卿が、少し話し込んでいると、


 僕の”予知”に警鐘が鳴った。

 アトモス王国の兵士ではなく、コボルトや邪族といった忌み嫌われるものが、襲ってくるのを映像として確認できた。


「ミレイユ!追手が来たっぽい。ロムルスに行くなら急ごう!」


「そうね。枢機卿も本当にそれでいいんですか?」


「わしは構わん。わしがどうなろうと、それはわしの罪じゃからな、気にせんでいい


 枢機卿が何を言っているのかわからなかったが、とりあえず、魔王と戦った近くにある都市ロムルスに逃げる事が決まった。


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