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第65話 佐藤悠真服薬中


 試験に合格してしまった。


 それはつまり、最低限の準備が整ったと言う事なのであろう。


 やだなぁ。戦いたく無い。


 僕にあてがわれた部屋のベッドで、ゴロゴロしながら考える。

 考えれば考える程、寝つきが悪くなり、すっかり目が覚めてしまった。


 はあとため息をつきながら、バルコニー出て、手すりに上り、そこからジャンプして屋根に登る。


 僕の部屋が3階にあるのだが、3階から普通に落ちても怪我をしなかった。


 というより、2階からジャンプして降りても問題なかったから、3階からジャンプしてみたんだけど、途中でバランス崩して落下した。


 痛かっただけである。

 ステータスって凄いよね。


 そのまま、お城の上の方に登り、いい傾斜のところで横になる。


 空を見上げると、地球では見たことのない星が無数に瞬いていた。


 青い月らしき物を眺めながらポケーとしていると、ギシリギシリと、誰かがこちらに向かって来た。


 振り返り確認すると、ミレイユ様が恐る恐る屋根を渡って来るのが見えた。


 ってちょっと!?


 すぐに起き上がり、彼女のもとに駆け寄る。


「何をしているんですかこんな所で?!危ないですよ?」


「いえ、悠真様が見えたので何をなされてるのかなと思いまして」


「いやだからと言って、ミレイユ様が屋根の上に上がるのは危ないじゃないですか」


 そんな理由で、落ちたら危険な所に登って来るとは、中々アグレシッブなお姫様ですね。


 僕の呆れた顔に気を良くしたのか、


「ふふふ。本当は、悠真様と二人でお話ししたかったのですよ?普段だと、お城の方々が居て、お話し出来ませんし」


 そう言うミレイユの顔は、いつものお姫様然とした顔ではなく、一人の女の子という顔だった。


「で。僕なんかと何を話したいんですか?」


「僕なんかと自分を卑下しないで下さい。……そうですね、どうですか?この世界には慣れましたか?」


「う~ん、どうなんですかね?生きていく上での戸惑いとかはあんまりなくなりましたかね。元の世界に帰りたくてしょうがないわけでも無いですし」


 僕のその発言に、少し顔をしかめ、


「申し訳御座いません。普通に考えれば、拉致とか誘拐ですよね。勝手に召喚して、帰る方法は分からないなんて」


「まあ、それは否定出来ないですね」


 苦笑しながら、ミレイユ様の問いに答える。


 すると、ふーと一息付いたミレイユ様が、意を決した様な顔をして、


「ですので、私達……いえ、私は貴方をこの国に留めて置くためならば、なんでも致します。その、なんでもです」


 そう言うと、ミレイユ様は頬を赤らめなが俯いてしまった。


 アレーー?!なんでもという事は、何でもですか!良いんですか!!

 いや!一旦もちつけ!!


 僕にそんな都合の良いことが起きる訳がないじゃないか!


 ひっひっふー。ひっひっふー。


「お姫様って大変なんですね。異世界から来た、僕みたいのにそんな事言わなくてはならないなんて」


 正直、自分が同じ立場だったら嫌……いや可愛い子なら全然OKだな。うん。


「貴方の居た世界の価値観は分かりませんが、こちらの価値基準で言うと、そうでもないんですよ?」


 うん?どう言う事だろうか?

 僕のハテナ顔を見て、ミレイユ様が微笑みながら、


「この世界で、貴方ほどの強さを持つ人は居ませんし、それに、粗暴でもありません」


 詳しく聞いてみると、この世界では、魔王や魔獣、魔物、戦争など純粋な戦闘力が必要な場面が多い。

 その為、異性同性問わず”強さ”がある人は尊敬されるようだ。


 この強さとは、腕っ節はもちろん、魔術の強さや戦術、さらに商人の商才も含まれるとの事。

 商人の商才だけは、この中で浮いているように見えるが、お金があれば用心棒を雇う事は出来るし、そう簡単に食うに困る事は無いだろう。

 だから直接的な強さでは無いが、お金を稼げる商人も尊敬されているようだ。


 ただそういった、持っている者は持って無い者を見下す傾向があり、持っている者の性格の悪さが目立つらしく、粗暴、横暴、傲慢な者が多く、現代日本の価値観を持つ僕は相当稀らしい。


 ほーん、そんなものなのかね~。

 とのんびり話を聞いていると、


「ですので私は、自分の役目と自身の幸せを考えた時、その、ゆ、悠真様とであれば、共に歩いて行けるのかなと思いまして」


 そう言うと、ミレイユ様は頬を赤らめ下を向いてしまった。

 こっちの世界の人は、随分攻めてきますね!


「ま、マジですか!いや、こんな美人さんが僕に言い寄ってくる、だと……?!」


 僕の経験からくる冷静な部分と、都合の良い解釈をしたがる性欲的な部分がせめぎあっている!

 

「勿論、私は第3王女ですので、この国の事を第一に思っています。そういう意味では貴方を上手く使おうと思っているのも事実です。それに、自分が政略結婚でどこぞのおっさんと結婚させられるのが嫌、という気持ちがあるのも否定はしません」


 そこまで一気に言った後、ですが、と一旦きり、


「悠真様と共に歩いて行きたい、と思う気持ちがあるのも事実なのです」


 と真っ直ぐにこちらを見つめる目には、嘘は無いように見えた。


 お母さん!僕はやったよ!

 異国の地で、美人な外国人を嫁(仮)にしたよ!

 もう、ゴールでいいよね?!





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 

 あれから数日、僕とミレイユ様……、いやミレイユは一応許嫁?婚約?という形になった。


 非公式ではあるが、王様と家臣数名が署名をし、よっぽどのことが無い限り、いつか国民や他の国々に知らせ盛大に結婚式を挙げる事となった。

 




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 アトモス王国から課せられた試験は終わったが、強くなる事は大切なので、あの後も自主的に訓練をしている。

 今日の訓練が終わり、軍宿舎の風呂で汗を流し、サッパリしたところで、アトモス王国第三王女ミレイユがやって来た。


「悠真、今日の訓練は終わりましたか?」


「は、はい!終わりました」


 ミレイユはにっこり笑うと、僕の腕に抱き着いてきた。

 

 警戒態勢発令!

 例のアレがガッツリ当たってます!


「あう」


 と僕は情けない声を出してしまった。

 恥ずかしい。


 そう考えれば考えるほど、顔が赤くなっていくのが分かる。 


 すると、


「悠真は可愛いわね」


 とクスクス笑いながら、微笑んでいた。


 むしろ貴女の方が可愛いです!!




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 こんな幸せが続けばいいなと思っていたけど、まあ、そんなうまくいくわけないよね。


 僕とミレイユの婚約の話は基本秘密だけど、僕らの態度を見れば察する事は出来るし、人の口を完全に黙らせる事は難しい。


 ただ僕らの事を、ゴシップ的に噂するならば問題ない。

 いや、恥ずかしいから止めてもらいたいけどね?


 この世界の娯楽は少ない。だから噂話は、ある意味娯楽の一つなのだろう。


 問題は悪意のある方だ。


 つまり王女とあろう者が、どこぞの馬とも知れない輩と、婚約した事がそもそも問題である。と吹聴して回る人が出てきたのだ。


 アトモス王国もそれなりの階級社会だ。

 王族・貴族・平民・奴隷、基本的なこの階級が存在する。

 この階級を超え結婚する時は、何かしらの手土産が必要になる。


 大商人で国を飢饉から救うとか、スタンピードから国を救う英雄とか、……魔王を倒す勇者とか。


 僕はまだ何もしていない。

いやもっと言えば、度胸を付ける為と、死罪の決まった囚人の首を落とせと言われて、情けなく放心してしまい、震えていた僕がそんな事出来る訳もなく、兵士の人達から白い目で見られていたぐらいだ。


 むしろマイナスだね。


 この事は、ミレイユと夜の密会をする前の話だから、もちろんミレイユは知っているだろうし、それを聞いて婚約は無しとかそんな話にはならないんだけど、僕の所為で、ミレイユが悪く言われるのは凄く嫌だ。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「では、コレを使って下さい」


 そう言うと、フードを深く被った怪しい男は、瓶に入った錠剤を渡して来た。


「これは、貴方の不安を取り除く薬です。効きますよ?」


 その渡された水色の錠剤を、胡散臭そうに見ていると、


「まあ、飲むも飲まないも貴方の自由ですからお好きになされれば宜しいですよ?ただ馬鹿にされたままで良ければ、ですが」


 その男は、挑発する様にニヤリと笑った。


 何故か、僕は小学校の頃のイジメられていた事を思い出し、腹の中から得体の知れない感情が登ってくるのを感じた。


 あの頃、僕は力が無かった。


 でも今は・・!


 僕の心情を理解したのか、その男は満足そうに頷くと、


「では、またご贔屓に」


 と、言葉を残し去って行った。


 そして僕は、その青い錠剤を一つ口に入れた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 噂によると、魔王が都市ロムルスに現れるとの事だ。

 この事は噂と云うより、ほぼほぼ確定事項らしく、そう遠く無い未来に、魔王との死闘がある訳だ。


 その事を考えても、恐怖は無く、僕……いや俺は、むしろ早く戦いたいとさえ思っていた。


 そう、アトモス王国周辺にある盗賊団のアジトで、一人血溜まりの中、獰猛に笑うのだった。


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