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第62話閑話 思考の海にダイブ!


 今日は久しぶりに一人である。


 ネオンと刃鬼は一緒に狩りに行ってしまったし、サーシャはミネルヴァさんとお茶をするそうだ。

 ゴドフは、相変わらず鍛冶にいそしんでいる。


 たまには一人で、考えにふけるのも悪くないと思い、ウラヌス教総本山があるクリュチェフスカヤ山の山頂にテレポートで跳んできて、展望台で一人景色を眺めながらぽけ~としているところである。


 決して、護衛の二人・・刃鬼とサーシャから逃げたわけではない。

 総本山の施設内に居て下さいと言われたが、ある意味ここも施設内であろう。


 問題ない。


 ・・よね?



 ◆◆◆




 この世界『アルカディア』に召喚されてから、大体100日ほど経ったわけだが・・、まあ色々な事があったと思う。


 サーシャと出会い、ネオンを拾い、ゴドフに脅され、刃鬼を当初の予定通り仲間にして・・。


 今強く思う事は、果たして俺は自分の居た世界に帰れるのだろうか?そして、俺は自分の居た世界に帰りたいのだろうか?という事であろう。


 いやまあ、この世界での”死”が現実の死となるのであれば帰りたい。ものすごく帰りたい。


 この世界のシステムや、科学技術の低さによる不便さはこの際関係ない。


 元居た世界に比べ、この世界は死が溢れている。

 魔物や魔獣、無秩序な人族、女神、邪神・・。


 もちろんこの世界だからこそできる事、魔法やテレポート等の権能もあるので、そういった力があればそう簡単に死ぬことはないと思う。


 ただ、明確な殺意を向けてくる女神集団に目を付けられている時点で逃げたい。


 だって、死にたくないし・・。


 

 俺の生まれ育った世界、日本においては、テロリストや殺人鬼に狙わられる可能性は低いし、事故も大分少ない。


 車が自動でコントロールされる様になってから随分経つし、飛行機や電車などの事故なんて、ここ数年話を聞かない。


 食料事情も安定し、医療も発達している日本において、死というものはどこか遠い話なのである。


 まあ、精神を病んでる人は増えたし、自殺者が多いのは事実であるが・・、それでも、生きたいと願えば、それなりの確率で寿命を全うする事が出来るであろう。

 



 これが日本でなく、世界という括りにすると今の話は少し変わってくる。


 地球という規模で考えてみると、年間の餓死者は1000万人にのぼり、テロリストなどによる無差別テロ、宗教戦争や内戦、はたまた自国の利益の為に他国を襲うなど、世界的に見れば、理不尽な死というものはそこかしこに溢れているのかもしれない。


 そうやってよくよく考えてみると、日本においてはそういった危険性は少ないものの、絶対にないかと言われるとそんな事はない。


 何処かの国のトップが、狂って核弾頭を発射してしまえば、高確率で核弾頭の撃ち合いになり、地球の大半は焦土と化すだろう。

 核戦争じゃなくても、どこかの国の戦争が飛び火し、世界的な戦争に巻き込まれるかもしれない。


 科学技術の発展により、地震や津波、台風や火山による天災による被害は減ったが、被害が無い訳ではない。


 昔に比べれば、日本に居る外国人も増えた。これは、国籍がどうとかではなく、生まれ育った場所や血筋がいわゆる日本人ではない人が増えたという事である。


 その為日本と言えど、価値観の違いなどによる諍いは少なからずあるし、運が悪ければ殺し殺されの争いにも発展する。


 こう考えていくと、実はアルカディアの方が安全な気もしてくる。

 最低限、アルカディアにおいては”理不尽な死”というものは、俺に関しては殆ど無いと思われる。


 刃鬼の護衛が有り、ネオンの索敵、神の加護によるステータス上昇、テレポートなどなど、考えれば考えるほど、そう簡単にはくたばらなさそうである。



 ただ・・この世界が何なのか?が分かるまでは、元の世界に帰るという目標でいるのが無難であろう。


 ここが仮想現実内の世界であって、その中に囚われているのであれば、何かの拍子に、その仮想現実が消えた場合、俺という存在も同じ様に消える可能性が高い。


 感覚的に言うと、この世界は限りなく現実に近いと思うのだが・・どうなんだろうか?


 どう考えても、この世界がゲーム『アルカディア』の世界と、なにかしらの関係があるのは確かなのだ。


 さらに言えば、俺のやっていたゲームデータと関係があるのだが、そのゲームデータ内に閉じ込められたというのは無理がある。


 いくらなんでもゲーム内と現実の違いが分からなくなるほど、俺のやっていたゲームは発達していなかった。


 それともここは未来のゲームデータ内なのかな?かな?


 ・・・・。

 

 未来の技術がどれほど発達するかは定かでは無いが、いつか、現実と仮想現実との区別がつかなくなるほどの技術が確立されるのは間違いない。


 ただ2090年代の今現在、現実と仮想現実の違いが分からなくなるほど技術は進歩していない。


 自分という肉体から、”外”を知覚する方法は、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚という、”外”と肉体を繋ぐ5感を通し、脳が処理をして初めて理解する事が出来る。


 仮想現実に行く場合、まず、脳と5感を切り離し、本来の自分の肉体を知覚させないようにし、脳に錯覚をさせ、そこにあたかも世界があるようにするわけだ。

 イメージ的には、意識だけをデータの世界に連れて行ってる感じであろうか。

 まあその辺の技術は、俺にはよく分からないが・・。


 俺がわかる事は、仮想現実とは脳を錯覚させ、そこに世界を作るわけだが、それが非常に難しいという事だ。


 1つの感覚だけを騙すのであれば、まあなんとか。

 これが2個3個と重なってくると、どんどん難しくなっていく。


 例えるなら、鉄板に乗ったステーキを想像していただきたい。

 視覚だけであれば、3Dコピーで作った様な物を再現すればいい。

 聴覚だけであれば、鉄板がジュウジュウとたてる音を再現すればいい。

 触覚で言えば、口に入れたステーキの弾力だけを再現すればいい。

 味覚であれば、そのお肉とステーキソースの味を再現すればいい。

 嗅覚であるならば、そのお肉が鉄板で焼ける臭いを再現すればいい。


 仮想現実において、脳を騙し、そこにあたかも本当にあるようにするには、これらすべてを再現する必要があるわけだが、そんなことは今現在不可能である。


 ・・不可能ではないか。


 それらの要素を、すべて再現すること自体は可能なのであろう。

 しかし、現実世界の再現度を上げて行けば行くほど、データ量・解像度・通信量・処理能力など様々な面で現実的な問題が出てくる。


 その為、今日の仮想現実では、重要なところに力を入れ、そうでないところはバッサリ切り捨てている。

 だから、どうしても現実と仮想現実は乖離しているのである。


 つまり、それはどういう事かと言うと、人は外からの情報、データを収集する時、ほぼ視覚に頼っているのである。


 割合で言うと、約70%~80%にも上り、視覚というのはそれほど大切であるという事だ。


 そのため、現在の仮想現実は、視覚と聴覚をメインに、触覚をところどころに入れつつ騙しながらやるのが、今できる最高の仮想現実なのである。


 俺のやっていたゲーム『アルカディア』で説明すると、プレイヤー周辺、プレイヤー自身のの見える範囲の世界を再現するわけだが、見た目はともかく、木とか石とか見た目をそれっぽいはずなのに触ると何かがそこに”ある”という程度の感触しかなく、地面も草とか生えているのに、その踏んだ感触などは再現されていない。


 後は、触覚で当たったことは理解できるが、痛覚は再現されていない。その痛覚を再現するだけでも、相当なスペックを要するからである。


 もっと言えば、自分の顔を触った時のあの気味の悪い感触・・。

 固いゴムの仮面で覆われているような感触で、頬骨の感触や眉毛、頬の柔らかさ唇の感触など一切ない。

 ただ均一に固いゴムである。


 何が言いたいかと言うと、ぶっちゃけ、仮想現実と現実の違いはすぐにわかる。

 もちろん、リアル過ぎる仮想現実の線も否定はできないのだが・・。


 それとも何?ゲーム内に囚われると、現実とゲームの区別がつかなくなる呪いでも掛かってんの? 


 

 ついでにもう一つ。


 ゲームを行う上で大切な要素の一つに、その世界の住人であろう。

 『アルカディア』においても、もちろん大切な要素である。なんせ、自分で召喚して設定するわけだし。


 ただキャラクターも、リアルを求めれば求めるほど、その容量を食う存在である。


 ゲームシステムを司るAIの能力だって無限ではない。

 だから抑えるところは抑え、使うところは使うという感じでプレイヤーを満足させてきたわけだ。


 ゲーム時代、キャラクターに話しかけたり、関わりを持ったりすれば、確かにフレーバーテキストが変更される事はあった。


 でも、やっぱゲームはゲームだから、全てのキャラクターが、俺の反応に対して的確に返してくることなんて無かった。


 唯一、仲間として同行させた場合のみ、キャラクター達がそのフレーバーテキストを読み込んだ性格で接して来たり、信頼度的なもので仲良くなったりするのであった。


 それを踏まえ、今現在いるこの世界を考えてみると、住人一人一人をAIが管理しているとは到底思えない。

 

 あんな自然なキャラクター・・いや、住人は見た事がない。っていうか一人一人自我があるとしか思えない。


 それに・・だ。


 仮に女神、ゲーム時代のAIであるメアが、全てをコントロールしているのであれば、俺はとっくに殺されている筈だ。


 女神の手下であるエグゼバグが、命を賭して殺しに来たという事実は、女神の意思であると考えられる。


 つまり寝ている時に、サーシャなりネオンなりを操り、ナイフで俺を刺せばそれで終わりだ。


 にも関わらず、そうなっていないという事は、出来ないという事ではないだろうか?出来ないのであれば、ほぼほぼサーシャ、ネオン、ゴドフ、刃鬼は、信頼に値するという事だ。


 まあ確実性を考え、ここぞと言う時に操ると言う可能性もある訳だが。


 とりあえず現状は、AIが全てを管理していないと言う考え方が自然であろう。

 

 という事は、・・だ。

 

 これらの事から推察するに、この世界は現実世界とし”在る”と見ていいのではないだろうか。


 まあもちろん、映画マト〇ックスの様な可能性も大いにある。

 ここも地球も仮想現実であり、俺の本体である肉体はどこかにある可能性だ。

 

 その可能性は、俺が今ここで考えてもしょうがないな・・。

 何をどうしようが、それの立証方法は思いつかないし。

 


 とりあえず、分からない事は置いといて、わかる事を繋げていくと、この世界は、地球ではないどこかの現実世界であるが、何故か俺がプレイしていた『アルカディア』と関係がある。という事だろうか。


 それは、ゲーム時代のアルカディアのシステムが、相当数見られる事からも、ゲームアルカディアとの何か因果関係があるのは間違いないだろう。


 さらに、魔王刃鬼、竜王メフィル・ナーガ、ネオンの先祖であるミョンは、俺がゲームをプレイしていた頃のキャラクターたちだ。


 これが偶々偶然何てことは無いだろう。



 竜王メフィル・ナーガに会えば”神の座”に行けるのだろうか?

 もしくは、勇者である佐藤悠真に会えば、帰る手立てが見つかるのだろうか?


 分からない事だらけである。



 ◆◆◆



 思考の海に没頭していた意識を、ハァーー・・という長いため息とともに引き上げる。


 目の前には、地球では絶対に見られない、二つの綺麗な夕日が赤く辺りを染めていた。


 大きな太陽らしき天体が地平線に沈んでいき、青い天体はそのまま違う方向に向かっていく。


 なんとまあ幻想的な景色であろうか。


「こんな所でカッコつけながら黄昏ているいるところ申し訳ないのですが、施設内に居て下さいといいましたよね?」


 ・・後ろから、底冷えのするような低い声が聞こえる。


 やばい!すぐに戻れば問題ないと思ってたけど、そういえば、もう夕刻じゃん!


 恐る恐る後ろを振り向くと、ジト目使いのクールビューティ―さんがそこに居らっしゃいました。


「正座。」


「はい・・。」


 

 その後、頭を踏まれながら、説教を受けたのは言うまでもない。




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