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第61話閑話 刃鬼の暗躍


 これは、刃鬼が神崎パーティーに合流したすぐ後の話である。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「刃鬼さん、準備終わりました?」

 

 サーシャとネオン、そして刃鬼の女子部屋である。


 この世界の住民は日が昇ってすぐに起床するのが一般的で、夜は暗くなったら床に就くのが普通だ。

 まあ、魔術的なものや木材等の燃料もあるから、明かりを点けて夜を過ごす事も出来る。しかし効率的ではない。


 身支度を整えた3人は、自分たちにあてがわれた部屋をざっと掃除し、隣の神崎たちがいる部屋に向かう。



 刃鬼は、先日徹に言われたことを思い出す。


『とりあえず、俺たちの雰囲気というか関係というか……まあ、観察してさ、俺たちとどう接していくか考えてよ。ネオンやサーシャ、ゴドフがどう俺と接してもそれについての言及はなしね。俺は今の関係気に入っているし』

 

 そんな事を思い出しながら、徹とゴドフの居る部屋に入る。


「ゴドフ―おはようにゃ!」

「おはようございますゴドフさん」


「おう嬢ちゃん達、朝からご苦労さんだな。ガハハハハ!」


 部屋に入ると、ドワーフ族のゴドフはもうすでに身支度を整えていて、


「じゃあわしはもう工房に行くからな!なんかあったら呼んどくれ」


 と言って去って行った。


「バイバイにゃ!」

「はい、また後で」


 それを3人で見送った後、


「さて起こしますか」

 

 と、おもむろにサーシャが、自身のブーツを脱ぎ徹様のベッドの上の乗っかった。

 そして、ネオンは何故か準備運動をしている。


 一対何をするつもりなのかしら?この子たちは。


「神崎さん朝ですよー。起きてください」

「トオル朝にゃ!ごはんにゃ!」


「う~ん。後5分……」


 むにゃむにゃと、寝ぼけた徹様、ちょっと可愛い。


 するとサーシャが徹様の横顔に、ふにっと足の裏を乗っけた。


 ――えっ?!


 すると徹様は一気に覚醒したのか、目を見開き、焦った表情をしながら声を出す。


「はっ!?ちょ、ちょとま!」


 そのまま躊躇うことなく体重をかけるサーシャ。


 ……って、何しているの貴女は!?

 一瞬、何が起きたのかわからず呆けてしまった。


 徹様は、 


「あたたたた!」


 とジタバタしていた。


 すぐにサーシャを止めようと動き出した瞬間、


「行くにゃー!!」


 とネオンが飛んでいた。

 そのまま徹様の胴体に、ネオンは落ちていった。


「ぐはっ!」 




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 今日は衝撃的な一日であった。

 

 私の敬愛する徹様が、人族の小娘と獣娘にあんな扱いをされているなんて……。


 あの娘達殺そうかしら?


 ……いえ、ダメね。

 徹様はあのペットも人族の娘も気に入っている様ですし。

 ハアとため息をついていたところ。


 ガチャっという音をたてながら、部屋に取り付けられていた風呂から出てくる二人。


「刃鬼さん。お先に頂きました」


「気持ちよかったにゃ!」


 私もお風呂に入って一旦落ち着きましょう。


「でわ、私もお風呂に入らさせて頂きます」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 落ち着くためにお風呂に入ったはずなのに、寝室に戻って来て、そのあり得ない光景を目の当たりにした。



 唐突であるが、神とは何であろうか。


 色々な定義があると思われるが、基本的には唯一無二の存在であり、私達とは比べようもない程、隔絶した上位の存在である事だろう。


 仮に創造神ともなれば、その造った世界の創造物である住人より確実に偉い訳で……。


 ならば何故、この世界の創造神である徹様が、創造物である人族の小娘に踏まれているのだろうか?


 もっと言えば、何故あの体勢なのだろう。

 それだけで屈辱的な格好であるはず……。


 私の敬愛する創造神である徹様が、土下座をしながら小娘に頭を踏まれているなど、考えたくもない。


 しかも、なんか嬉しそうだし。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 あれから数日が経った。


 徹様と他の人達の交流を近くて黙って見ていた。

 もちろん、徹様がそれで良いのであれば、私は何も言う資格はない。

 だから徹様が、サーシャに踏まれて喜んでいるのであればとやかく言うつもりはない。


 

 ……。


 

 だから逆に、私も我儘を言っても良いのではないのだろうか?

 私はこの世界で、徹様の隣に立ってずっとお側に居られるのであれば、それだけで十分だ。


 しかし徹様の目的は、自分の元いた世界に帰る事らしい。


 徹様の目標とと私の目標は相反するものであり、私が我儘を言って、徹様をお止めになる訳にはいかない。


 だから私は、徹様が自らの意思で残って頂ける様にしなくてはならない。


 その為には……。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 今日は珍しく、徹様とネオンがゴドフの所に行っている。


 だから、私からサーシャを誘い、私達が泊まっている部屋でお茶をしているところだ。


 人族はこうやって、お茶を飲みながら話をし親交を深めるらしい。

 鬼族であれば、どっちが強いかを確かめ合って、勝った方がそいつの全てを手に入れる訳だが……、ここは人族に合わせましょう。


 先程からサーシャが、私と何を話ばいいのかわからないのか、ソワソワしているようですし、こちらから本題をぶつけますか。


 佇まいを正し、サーシャの顔を直視する。そして、


「単刀直入に聞きますが……サーシャさんは、徹様と肉体関係は結んでないのかしら?」


「ぶはっ!ごほごほっ!……い、いきなり何を言うんですか?」


 私の唐突な一言を受け、飲んでいたお茶を吹き出すサーシャ。

 私は、自身の顔にかかったお茶を袖で拭い、


「その感じですと、まだ、ということですわね……」


 ふむ、と腕を組み右手の人差し指で左の二の腕をトントンと叩きながら首を傾げ、


「貴女は、そういった気持ちはないのかしら?それなりに徹様と二人だけの時間も有ったのでしょう?」


 と、サーシャの目を真剣な眼差しで貫いた。


「えっと、いや、その……徹さんにその気があるなら吝かでないと言いますか、えっと、何と言いますか」


 あたふたしながら答えるサーシャ。

 ハッキリしなさい!


「少しでもその気があるのなら、貴女も頑張って徹様を篭絡してくださいな」


 目を見開き、戸惑いながら口を開くサーシャ。


「?えっと?いいんですか?刃鬼さんも徹さんの事を、その慕っていますよね?」


「そうね。――まあ厳密には慕う、というより私の全てを徹様に捧げるつもりですけれどね。それより私の徹様に対する気持ちの大きさは置いといて。もし貴女も、徹様の事を憎からず思っているのなら、早く篭絡しなさい。そして、少しでもこの世界に残ってもらえるような気持になってもらわないと」


「そ、それはつまり、子どもを作れという事でしょうか?」


「端的に言えばそうともとれるわね。私と徹様より、貴女と徹様の方が、子どもが出来る可能性は高いでしょうし。まあ子どもが出来る出来ないは最悪どうでも良いのだけれど、徹様が元の世界に帰ろうとしている事は容認できないわ」


「でも、それが徹さんの願いですよ?」


「何故帰りたいのかは分からないけれども、その気持ちを変える努力をする分には、なにも問題無いのではなくて?」


 サーシャは顎に手をやり、自身の右上の方に視線を向け、5秒程考えたのち、


「まあ……そう言われると、そうですね。徹さんがここに自分から残りたいと思えば、それは何も問題無いという事ですもんね!」


「そう――だから子どもが出来なくても、徹様のそういった相手になって、私達を残して行けない様な心情にしてしまえば、何も問題無いわけよ」


 まあもちろん、子どもが出来た方がなお良いのでしょうけれど。と私は、悪びれた様子も無く語る。


「だから、貴女が協力してくれるなら、これについては”共闘”という形で、徹様を落とす仲間という事ね」


「その、それは良いのですが、刃鬼さんはそれで良いんですか?仮に、私が子どもを身籠った時とか……」


「ええ、何も問題無いわ。仮に貴女のおかげで徹様がこの世界に残る事になったとするじゃない?貴女と徹様の間に子どもがいた場合、それが楔になってそうそう元の世界に帰ろうなんて思わないでしょう?」


「それはそうですけど。その……」


「ふふ、貴女は人族なのだから……ね。徹様が寿命で死ぬ事なんて無いでしょうし、私の寿命も相当長いわけだから、邪魔者が消えた後にじっくりしっぽり落とさせて頂くわ」


「なっ!!?!」


「安心して?貴女の子孫はちゃんと面倒見るから」


 私はそう言いながら、ニッコリとサーシャに笑みを浮かべた。


「ぐぬぬ!」


 逆にサーシャは、貫殺さんばかりの視線を私に向け悔しそうにしていた。


 私はコホンと咳ばらいを一つして、


「まあとは言え、一番の目的は、徹様をどうやってこの世界に繫ぎ止めるか、ね。最悪、徹様が自分の世界に帰っても、こちらの世界にちょくちょく来てもらえる様にはしたいわ」


「それは確かに」


 サーシャもそれには賛成なのか力強く頷く。


「と言うわけで、協力して頂けるかしら?」


「――分かりました。確かにこのままいくと、徹さんは自分の世界に帰ってしまいますからね。それだけは阻止したいですし。……刃鬼さんこれから宜しくお願いします」


「刃鬼で良いわ。これからは徹様を落とす為の仲間な訳ですし」


「では、私の事もサーシャと呼んでください」


「分かったわ」


 確かこういう時はこするのでしたわよね。

 と、そう思いながら、私はサーシャに向け右手を差し出す。

 それを受けサーシャも、右手を伸ばし私の手を握る。

 私はそれを優しく握り返す。


 ここに、徹籠絡隊が結成された。


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