第54話 そういえば俺って冒険者だったよね?
ミネルヴァさんとクリーン大司教に話をすると、昨日泊まった部屋をそのまま貸しくれるらしいので、その厚意に乗っかった。
さらに、総本山の建物の近くの空き地も提供してくれるという事だ。
ただ代わりと言っては何だが、ウラヌス教再建の為、史実を教えたり、魔王と聖女の役割についてや、何故、神が魔王を任命する運びになったのか、等様々な情報を提供しているところだ。
図書館に神話が書かれた本があったけど、史実的のものも割と多く出回っていた。
しかし何が本当の歴史なのか、人族が知るすべがないため、合っている部分と捏造された部分、そして歴史に埋もれてしまった部分等を伝える事になった。
まあもちろん、この作業が1日で終わるわけもなく、俺は当分ウラヌス教に付きっきりになりそうだ。
ウラヌス教は、このまま”神”の考え方をメインに”教え”を作っていくらしい。
そもそもウラヌス教の根底にあるのは、『隣人が誰であろうと困っていたら助けなさい』という教えだ。
ウラヌスが活動していた、その時の理念がそのまま教えになった感じらしく、どこの国の貴族であろうとスラム出身者であろうと、この地に居る限り上も下も敵もない、助け合いながら生きていくという当時の考え方を踏襲した教えである。
それを隣人の定義を人族だけではなく、他の種族にまで適用する事により、神の”考え”として、ウラヌス教の”教義”にするらしい。
俺的にも、人族が他種族と仲良くしてくれるのであれば万々歳なので、それ自体は全然いいのだが、そう簡単に組織改編が上手くいくのかね?
それほど教義の中身は変わらないし、今までとウラヌス教の活動にそれほど変化はないのだが、メギド王国や帝国などは反発するだろう。
メギド王国にとって魔族は積年の怨敵だし、帝国と獣人族も戦争をしている。そのさなか、みんな仲良くしましょうと言ってもそれに耳を傾ける事は無いだろう。
なんなら、敵として狙われる可能性があるのだが……どうするんだろう?
まあその辺の対策は、クリーン大司教や教会関係者の人達が考えるか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
勇者と魔王の一戦から、一週間が経った。
俺は、刃鬼にお願いをして竜王の居場所を探してもらっている。
と言っても、刃鬼自身は魔王としての能力、”魔の付く者を統制”により魔獣や魔物を使役することが出来るので、それを使い、飛行能力に長けた魔獣を使役し竜王メフィル・ナーガを探しているのだ。
そしてゴドフは、総本山の敷地内の外れで俺たちの装備を作ってくれている。
良い素材が手に入ったらまた新しく作るからと、今ある素材でガンガン作ってくれているらしい。
ネオンとサーシャ、刃鬼の姦し3人娘は、よく一緒に行動しているとの事。
俺もちょくちょく一緒になって、ご飯を食べたり買い物に行ったりしている。
◆◆◆
そして今は、すっかり忘れていた冒険者の更新に向かっているところだ。
ここ最近では珍しくなったサーシャと2人、という編成でロムルスの街中を歩いているのだが、ゴージャスのウラヌス教に対する影響力が消えた今、2人とも顔を隠さず行動している。
死んだと思われていたサーシャの人気は凄まじく、ウラヌス教が生きていた事を発表した日には、一目見ようと信者や街の住人が集まったものだ。
その後、関係各所に挨拶回りをしていたサーシャは、死んだように疲れていたが。
◆◆◆
ロムルスの冒険者ギルドは、石造りの教会に似た建物であり、中に入ると、目の前にカウターがあって、用途に応じた係が居るらしく、人が並んでいるカウンターと誰も居ないカウンターとがあった。
そして誰も並んでいない列に、冒険者用カウターと書かれていたのでそこに向かった。
「いらっしゃませ。本日はどういったご用件でしょうか?」
「すいません。この冒険者カードなんですが期限はまだ切れてませんか?」
ついでにサーシャも出しているが、お前のは切れてないだろ。
「神崎様とサーシャ様でございますね?確認して参りますのでそちらの席に座って、少々お待ちください」
そう言うと、ギルドカウンターのおねーさんは裏に行ってしまった。
「確か、Cランクは半年ぐらいは大丈夫だったよね?Dランクはどれぐらいだったっけ?」
「Dランクは2カ月のはずなので大丈夫だと思いますけど」
顎に人差し指をやりながら、こてっと首を傾げるサーシャさん。
そのまま30分ほど他愛のない話をしていた。
「さすがにかかり過ぎじゃね?」
「そうですね~。何か問題でもあったのでしょうか?」
二人で、何かしたかなと考えていると、
先程のカウンターのおねーさんが帰ってきて、
「すみませんお待たせいたしました。どうぞこちらへ」
ギルド内の奥へと案内された。
サーシャと目を合わせ(――俺達なんかしたっけ?)(いえ、何もしていないと思いますけど……)と目で会話をしながらおねーさんについて行った。
奥の扉を開けると廊下がありそのまま進んでいくと、その突き当たりにギルドマスター室と書かれた扉があった。
その扉を、ギルドカウンターのおねーさんがコンコンコンとノックをし、失礼しますと言いながら開け、
「ギルドマスター、お二方をお連れ致しました」
と俺たちをその室内に案内する。
そして、ギルドカウンターのおねーさんは失礼します。と出ていった。
「どうぞお掛け下さい」
と正面に居る女性が声をかけてくる。
え?この女性がギルドマスター?
隣にいたサーシャは、さっさっとその女性の対面のソファーに腰掛ける。
俺もそれにならい、サーシャの横に座る。
「初めまして、私は冒険者ギルド、ロムルス支部のギルド長をさせて頂いているカトライナです」
と柔和な笑みで手を差し伸べてくる。
年の頃は、30後半から40前半ぐらいであろうか。
落ち着いた大人の雰囲気を醸し出しながら、握手を交わす。
金髪で黒と白のシスター服に身を包んだtheシスターと言う感じである。
「こちらこそ初めまして。神崎徹です」
「お久しぶりです、カトライナさん」
サーシャとは面識があったらしい。
って事は、俺じゃなくてサーシャに用があったのかな?
「そうですね。サーシャが無事で良かったですよ」
「それにしても、いつからギルド長になられたのですか?」
2人の話を総合すると、そもそも神聖魔術を使えるようになるには、ウラヌス教に入信し修行を積まなければならないらしい。
もちろん、それ以外でも教わる事は出来るのだが、入信するのが一般的である。
んで、修行を終えた信者はウラヌス教で働くか、他で働くか考えなければならないのだが、それの一つに冒険者や傭兵団に属する者も少なからずいるとの事。
カトライナさんは、もともとその集団、”神聖”というクランを纏めていたシスターらしい。
その為、”神聖”は護衛などの仕事も受けていて、聖女時代のサーシャの旅にも何人も付いて行っていたらしい。
そう言った縁で、サーシャはカトライナさんの事を知っていたらしい。知人まではいかない顔見知りと言う感じだろうか。
サーシャとの世間話が終わったらしく、俺に視線を向け、
「――貴方が、アルスメットでゴブリンジェネラルを倒した魔術士様ですか?」
と聞いてきた。




