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第48話 勇者現る。


「状況が変わりましたね。アトモス王国軍が、魔王軍をロムルスに来る前に抑えられるのであれば、こちらも総本山で立てこもるのは最終手段とし、教会の神官やシスターを市街に配置して、結界や回復をする後方支援役として投入しましょう」


 クリーン大司教が、部屋の教会関係者を見ながら指示を出す。


「とりあえず、俺たちの事は期待しないで動いてくれる?アトモス王国軍と魔王軍がどうぶつかるかもわからないし、アトモス王国軍の目的も分からないから、俺らは状況に応じて動くよ」


「――わかりました。では我々ウラヌス教は、アトモス王国軍を支援する形でやらさせていただきます」


 こくりと頷き、サーシャ達を視線で促し部屋から出る。

 パタンとドアが閉まったところで、サーシャが口を開く。


「神崎さん。ウラヌス教の人達と行動を共にしないのですか?」


「この都市を守るんじゃにゃい(ない)にゃ?」


「う~ん。ミッドガルの時と違って、今回は防衛戦じゃないからな。魔王さえ何とかすれば、魔王の言うことを聞いている奴らも解散するだろうし。それに、アトモス王国が何を考えているのかも知りたいしな」


「ふむ。アトモス王国は、ただ助けに来たと言う訳じゃないのか?」


 ゴドフが自慢の髭を撫でながら聞いてくる。


「はは。無償で人族が動くわけないじゃん。もちろん可能性が無い訳じゃないけど、何か裏があって動いていると思うよ」


 こう何というのだろうか?ある意味俺は人族の事を信頼している。――もちろん悪い意味ではあるが。


 ただの善意で助けに動けるのは個人レベルまでだろう。人が多ければ多いほど、純粋な善意で人助けなど簡単に出来る事ではない。


「と言う訳で、ミネルヴァさん。俺たちの事はあまり漏らさないようにお願いします」


「はい、わかりました」


 ミネルヴァさんの顔があまり冴えない顔をしていた。

 見方によっては、人族に任せて見捨てたようにもとれるからかな?


「事が終わったら、またここに来ますので、その時はよろしくお願いします」


 はい。と頷くミネルヴァさん。

 ここで安心できるような言葉かけをしてもしょうがないだろう。

 なんせ魔王を任命しているのは俺なのだから、ある意味人族の敵なわけだし。


 そのままミネルヴァさんを残し、テレポートで孤児院まで戻る俺達。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「と言う訳でサーシャ。魔王軍とアトモス王国軍がぶつかる予定の草原ってどの辺?」


「多分ここから西にある草原の事だと思います」


 指をさしながら、大体の方角を教えてくれた。

 

「OK」


 次に飛んだ場所は、ロムルスをぐるっと囲んでいる壁の上で、そこから見渡すと、遠くの方に砂煙が見える。

 もうすでに戦いは始まっているらしい。

 後ろに居るサーシャ達を見ると、力強く頷き返してきたので、心の準備は終わっているらしい。


 前を向き直し、テレポートを発動する。

 ただ一発では届きそうにないので、空中に何度か投げ出されながら連続で行う。


 そうしてやって来たのは、アトモス王国軍と魔王軍が一望できる崖の上である。


 横のサーシャを見ると、テレポート酔いをしたらしく顔が白かった。

 逆にネオンはにゃはははは!と笑い、後でもう一回にゃ!と新しい遊びとして認識したらしい。


「王国軍の布陣が終わっておるのう」


 そう、近づいてくる魔王軍に対して、王国軍は草原の中にある丘の上に陣を敷いていた。

 先程の砂塵は、魔王軍の移動により舞い上がった砂埃だった。


 王国軍の陣を見ると、わかることがいくつかある。

 勿論戦争とかしたことが無いし、生でこんな戦いを見た事もない素人だけど、ある程度王国軍が何をしたいのかは予想が出来る。


 前面に魔術師らしき部隊がずらっと並んでることからも分かるよう、まず突っ込んでくる魔王軍に対し、魔術を一斉掃射して数を減らし勢いを削いだ後、その後ろに控えている重戦士を盾にし、弓兵や剣士、槍士で各個撃破していくつもりなのだろう。


「とりあえずここで様子見かな……」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 

 予想通りの展開になってきた。

 

 魔王軍は、陣や戦術などを一切無視して、そのままアトモス王国軍に突っ込んでいった。

 先陣を切って襲い掛かるのは、ウルフ系とボア系、並びにゴブリン種が多数である。


 それに対し、雨あられと中級以上の魔術を放ち迎え撃つアトモス王国軍。


 序盤はアトモス王国軍が大いに敵を討って優位であったが、魔術師の魔力が切れ始め、そこから敵の接近を許し始めてから、混戦模様になり状況が変わった。

 

 接近戦においても、最初は各個撃破していた王国軍が優位であったのだが、二足歩行で筋肉隆々の角が生えている種族、鬼族が戦場に現れて戦況が一変した。


 3メートルほどある巨躯から繰り出される棍棒による一撃、一振りするごとに人族が数人命を散らしている。

 普通の兵士の剣や槍では、たいした傷もつかないらしく、矢が当たっても体には刺さらずポロポロと落ちている。


 アトモス王国軍は何とか囲んで各個撃破を狙っているのだが、いかんせん囲まれたところで、一振りでその囲いを崩し、突破してしまう鬼族の戦士に成す術がない王国軍。


 初めて見る光景に気分が悪くなる俺。ゴブリンとかの人型のモンスターは大丈夫だったけど、完璧な人は結構クるな。

 風に乗って来る血の匂いとかも気持ち悪いし、悲鳴というか断末魔とかも聞こえてくるし。


 ここがリアルかどうかは置いといて、ゲームとリアルは全然違うよね。

 

 そういえば、ミッドガルでは、俺の近くでドワーフ族が殺されているのを見なかったもんな。

 ある意味、この世界に来て初めての人の死をリアルに感じている。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「神崎さん。これどうします?」


 その問いに、現実逃避をしていた思考が引き戻される。

 そう……目の前の光景を直視したくなくて、現実逃避をしていたわけだが、現実逃避の先で考えていたメアの事も逃避したいよ。


「どうしようかね?」


 戦いが始まってから1時間ほど経ったであろうか、現在は膠着状態に陥っている。最初に魔法を放っていた部隊が、戦線に復帰して鬼族の戦士を抑える事に成功したためである。


 その膠着した状況を打破しようと、鬼族の戦士達が20体程が固まって魔術部隊に突っ込んでいく!

 前に居た鬼族を盾にしながら魔法を耐え、盾を構える人族を撫で倒し、後ろの鬼族がその魔術部隊に特攻した。


 接近戦になった瞬間に、蜘蛛の子を散らすように逃げだす魔術部隊。

 しかし簡単に逃げれる訳も無く、背を向けた者から蹂躙されていく。


 このままいくと、魔術部隊が全滅するというところで、人族の後方から弾丸の様に疾走する戦士が出てきた。

====================

名前  佐藤 悠真

種族  異世界人

役割  なし

職種  勇者

位階  32

筋力  4100

体力  3200

精神  2600

知力  2500

魔力  4000

器用  3400

運   50


特技 火魔法7 風魔法7 水魔法7 土魔法7 

   雷魔法7 光魔法7 闇魔法7 剣術7  

   鑑定7 体術7 盾術7 算術4 言語4


特殊スキル 可能性 予知 魔殺し


地球という世界から、この地に召喚された人間。

あちらの世界では高校生という身分であった。

アトモス王国で召喚され、アトモス王国第3王女に請われ、魔王を倒すことを決意。

2カ月ほどの鍛錬を行い、現在魔王軍と交戦中である。

====================



「あれが勇者か!」


 右手に長い剣、左手の籠手の外側に小さな盾を付け、意匠の凝らした白銀の鎧に、金糸で整えられた赤いマント翻した青年がそこに居た。


 ステータスが人としてはあり得ない数値になっている、さらに人族ではなく異世界人となっている。


 というか高校生なのか。

 高校生が命のやり取りをしているとは、俺の価値観が崩れるな。


 その勇者は、鬼族の戦士と魔術部隊の間に割って入り、鬼族に斬りかかる!


 鬼族の戦士も”それ”が手強い事を察したのか、魔術部隊を無視して何体も襲い掛かる。

 それを事もなく躱しながら、鬼族を斬りとばす勇者。


 強い。


 勇者に狙われた鬼族が、右手の棍棒を振り下ろす。唸りを上げながら振り下ろそれた棍棒を、半身を軽く捻り簡単にかわす勇者。

 そして勇者の持っている普通であれば両手で扱うであろう剣、グレートソード的な物をカウンターで振り切る!

 ズルっという感じで胴体が斜めに崩れ落ちていく。


 勇者はその剣を肩に担ぎ、左手を腰に当て獰猛な笑顔で辺りを見渡す。


 それを受け、鬼族の戦士が一斉に襲い掛かる!




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「あれが勇者……!?」


 サーシャが呆けている。そりゃあ、人族の中では相当上位に位置するサーシャでも、鬼族の戦士と相対したらタダでは済まない。

 それを事も無げに、倒している人族など考えられないのだろう。


 そして、鬼族の戦士が5体となった時、その赤黒い刃は突如として勇者周辺に降り注いだ。


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