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第31話 崩壊の足音。


 唐突ではあるが、第3世代の種族である獣人・ドワーフ・エルフについて説明をしよう。


 獣人は、シンハ王国周辺に多く暮らしている。


 もちろんシンハ王国にも多くの獣人が暮らしているが、獣人は家族単位、部族単位で小さな集落で暮らすことが多く、一つの国で全ての獣人が暮らす事は出来ない。


 これは獣人の種族特性による。


 猫系獣人や犬系獣人、熊系や兎系、狐系などなど色んな種類の獣人がいるが、暮らし方や価値観などが違い過ぎて、一緒のところでは上手く暮らしていけないのである。

 比較的獣度が低ければ、それほど問題はないのだが、高いと野生が強く出てしまい不都合が多くなる。

 ただ、だからと言って、獣人同士で戦争があるかというとそんなことはない。

 家族部族の絆はもちろん強いのだが、獣人という括りの絆も強く、お互いの個性を尊重しながら、仲間としてうまく生活しているのが、獣人という種族である。


 寿命は50年から100年程で位階の高さによっても変わる。また繁殖力も高く、基本的には人族より高いが、食糧難や疫病などの対策をする事が出来ず、毎年結構な数が亡くなってしまっている。

 魔法は不得手であるが、身体能力は相当高い種族である。

 武器は自身の爪や牙、鉤爪のついた籠手やナックルガード、剣、槍、斧、ナイフ、弓矢などで戦う。



 ドワーフ族は、ミッドガルを中心にその鉱山地帯一体に住んでいる。


 鉱山を掘り、そこから出た資源を元に、いろいろな物を創ることに命を懸ける種族である。

 いろんな種族がいる中で、神に対する意識が一番高い種族でもある。

 特に、自分たちが作った物を神に認められたい欲求が強い。

 基本的に情に厚く、人族であろうと獣人であろうと差別的な考えはない。

 そして仕事の後に酒を飲み、バカ騒ぎが出来れば文句のない種族である。

 ただし、エルフ族とは反りが合わない。

 寿命は300年程で、後は位階の高さによって変わる。

 魔法は、火系と土系の適正があり、戦闘面でも筋力の高さと火系と土系の魔法を駆使し戦う。

 武器は、自分たちが作った剣や斧、槍等の重量級の武器を好み、また鎧や盾を装備することが多い。

 

 

 エルフ族は、基本的に排他的な種族で、世界樹のある大森林の奥地にひっそりと住んでいる。

 

 大森林で狩りをし、野菜などを栽培し、木の実などを採り慎ましく生きている。

 世界樹の浄化作用による恩恵で、周辺に貴重な薬草等が育ち、それらを使った薬が有名である。

 基本的に争いごとは嫌いで、争いのための武器を作っているドワーフ達を軽蔑している。

 弓の名手が多く、戦闘能力が低いわけではない。

 魔法も得意で、特に水系と風系、土系の適正が高く、魔力量や特技レベルも上がりやすく、寿命も長いため、個としての戦闘力はこの3種族の中ではピカイチである。

 ただし繁殖力が低く、寿命が500年から1000年ほどあるのにも関らず、生涯平均4人程しか生まない種族でもある。

 武器は、弓矢やナイフ、槍ぐらいである。



 生物の定義によるのだろうけれど、老いや寿命がある理由は、その不完全な遺伝子を消す事にある。

 世代を重ねるごとに、生物として完成を目指し、その役目を終えた者を効率よく消す機構が寿命である。

 寿命が長くなればなるほど、その種族は個体として完成に近いということである。

 そういう意味で言うと、エルフ族や鬼族や、位階の高い者、竜王などはそれにあたるのだろう。


 逆に寿命が短いという事は、その種族は個体として未完成であるという事である。

 しかし、種として考えると悪い事ばかりではない。


 みんな大嫌いな、あの黒い悪魔の話をしよう。

 あの黒い悪魔は、見つかると殺虫剤などで殺される運命にあるのだが、抵抗性とか聞いたことがあるだろうか?

 普通の個体には効くはずの成分が、突然変異で効きにくい個体が生まれる。その個体は効きにくいから、効きにくい同士が殺される前に子孫を残す可能性が高い。


 そしてそれがかけ合わさっていって、最後は抵抗性の強い悪魔が生まれるのである。

 つまり、その環境に進化したという事である。

 個としては弱くても、種族としてみると全然問題ないのである。


 どちらが良いかは、最終的に生き残った方が決める事であろう。


 ちなみに、この生物の件がこの物語に関係あるかというと……ないかもしれない。


 どうも失礼いたしました。


 

 ただ、今あげた3種族の共通するところは、基本争いごとは別に好きではない。

 もちろん本能的な、獣人の縄張り争いや、ドワーフとエルフのいさかい等はあるのだが、それほど悲惨な事になることはない。


 しかし人族だけが異質で、自分の欲望の為ならば、人族であろうと他種族であろうとも、相手を殺し、支配し、奪う事が出来る種族である。

 

 もちろん、すべての人族がそうであるわけではない。 

 しかし歴史を紐解けば、そのような事などいくらでもあった。



 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 神崎がミッドガルに着いた頃、ここ、ウラヌス教総本山がある都市ロムルスは、異様な雰囲気に包まれていた。


 人族領で一番勢力のある宗教ウラヌス教。


 その主な理由は、神と人を繋ぐ存在である聖女を保護し教会の看板にしていたからである。


 何故そんな事が出来たかというと、ドワーフが作ったアーティファクトにより、役割を持った者を探す事が出来たからである。


 聖女をウラヌス教が探し出し、どこの国や団体よりも早く、懐柔と脅迫によりウラヌス教へと連れて来ていた。

 

 神としては、聖女にウラヌス教に居てほしいと思ったことはない。

 むしろ神崎的には、そんな宗教があることなど知らなかった。


 ただ人族は、神と人を繋ぐ存在である聖女という”表の効果”は理解できていても、”真の効果”を知る者がいなかった。

 

 真の効果とは、聖女という存在のそもそもの役割である、その地に居る人族を守護することである。


 具体的に言うと、人族領が混沌化しないように、生きてく上での人族の満足度を底上げし、ある一定の範囲内に魔王を近づけさせない効果である。

 

 満足度とは、現実世界の日本で言うところの幸福度指数みたいなものである。


 魔王の侵略や戦争、飢餓、疫病など、個人の努力では何ともしがたい事で、不幸だと思うその気持ちが高まると、さらに略奪や強姦、殺人など負のスパイラルに陥ってしまう為、それを防ぐために聖女がいたのである。


 そして、魔王が近づけないという事は、強い魔獣や魔物も寄り付かないことを示し、それだけで聖女がいる周辺の人族は、平和に生きていけたのである。


 しかしウラヌス教は、それを神のおかげとし、神への信仰心が”それ”の原動力であると人々に説いた。


 実際ウラヌス教の総本山付近では、魔王の襲撃もなければ、魔物や魔獣などの強さも低く、人々にとって住みやすい環境であった。


 ウラヌス教を信仰している所に、聖女が巡礼すると、その場所も同じように魔獣や魔物の被害が減り、ウラヌス教の信仰集めに一役買っていた。


 人々はウラヌス教こそが、神との繋がりであると信じてしまったのである。


 人々は、魔王や魔獣、魔物から神に自分たちを守ってもらえるように、ウラヌス教を信仰していったのである。

 そのため人族領では、ウラヌス教が最大宗派であり、何ヶ国も国教にするほど信じられていたのである。


 しかし現在、その神話が崩れウラヌス教は大混乱に陥っていた。


 何故なら、今まで1カ月もしない内に次の聖女が見つかっていたのに、そろそろ見つからずに2カ月が経とうとしていた。


 しかも、都市ロムルス周辺の魔物と魔獣が、日を追うごとに強い物へと変わっていっているのである。


 これを受けて人々は、先の聖女サーシャの神の審判の刑が間違っていたのでは?と考え始め、ウラヌス教内部では権力争いが激化した。


 さらに、つい先日聖教皇が老衰により亡くなった事により、ウラヌス教総本山内部は殺伐としていた。


「だから言ったのだ!聖女を神の審判の刑に処すなどあり得ないと!」


「だったらその時に、反対すればよかろう!何故今更、自分は違うと言っているのだ」


「その通り。ここに居る全員、あの時の決に賛成したではないか」 


「……」


 現在ウラヌス教会総本山で、教会会議が行われている。

 ウラヌス教トップの聖教皇が亡くなったことにより、本来であれば、司教聖枢機卿が聖教皇代理としてウラヌス教を導かなければならないのだが、ここには居ない。


 ゴージャス大司教と、同じ位の西の大司教、それに総本山の聖教皇派と司教聖枢機卿派のトップ2人、ウラヌス教金庫番である豚の計5人で会議が行われている。


「ククッ、ついに神が我ら人族を見放したか」


 一人余裕そうに、ソファに深く腰掛けのんびりしている。

 その光景は、一つの娯楽を遠目から眺めている感じであった。


「ゴーシャス大司教。そもそも貴方が強引に進めた事ではないですか……何を他人事のように構えているのですか?」


 西のウラヌス教のトップである大司教が、目を細めながら聞く。


「他人事だからですよ。ウラヌス教もこれで終わりですかね」


「な!何を馬鹿な事を!」

「そうだ!もとはと言えばお前が!」

「お前が責任を負って辞任しろ!」

「貴方が終わらせたくせに何を……!」


「――ルスト」


「はっ!」


 いつの間に居たのかわからないが、異端審問官暗部のベオマーダ隊長のルスト。

 そのルストの目くばせと共に、周りの扉から黒いローブを着た数人の者が入室してくる。


 そして、その手には濡れたような輝きを放つナイフが握られていた。


「ま、待て!何をするつもりだ!」

「ひ、ひ~!?」

「ふ、ふひひひ」

「――最初からそのつもりでしたか?」


 唯一、西の大司教が冷静に返す。


「ええ、私にとってウラヌス教などどうでもいいのですよ」


「そう……ですか。それを見抜けなかった私たちが間抜けだったのでしょう」


 ですが、と一言こぼし。

 神の加護をかけすぐさま窓に駆け寄り、そのまま身を投げ出す西の大司教。


「ちっ!追え!」


 ルストの合図とともに二人のベオマーダが追う。


 その頃その部屋には、ゴージャス大司教とルスト、血に濡れたナイフを持つ、ベオマーダが数人居るだけであった。


「無理に追う必要はない。あれは強い……こっちの戦力を減らされるぐらいなら放置しておけ」


 ここでやらなければればならない事は終わった。

 魔王が狙いをこの地に付けた。

 ウラヌス教はこのまま終わるからな。と一言。


「いいんですか?聖女が居ないと計画に支障をきたしますよ」


 ルストがにやけ顔で、どうでもよさそうに確認をとる。


「まあそうだな。だが、神崎を使えば問題ないだろう。きっとあいつは、次の聖女の代わりとなる役割を神から与えられているはずだ」


「今あいつは、ドワーフ領に居るそうですね」


「ああ、冒険者ギルドの情報ではそうなっているな」


「どうしますか?」


 顎をさすりながら、ふむと考え込むゴージャス。


「神崎と共に居るのが、サーシャと言うらしいじゃないか。仮にあの聖女サーシャなら、自分の育った孤児院のあるロムルスを見捨てるかな?」


 とりあえずは様子見だ。

 とルストを促し、魔王が来てから、神崎とサーシャがどうするかを見てそれから考える。

 とこれからの事を伝える。


「クク、聖女をアーティファクトで感知できなくなったのか。それとも聖女という存在がなくなったのか。前者なら聖女は居るのだから新しい聖女が生まれるわけがない。ならば今度こそ殺せば良いだけだ。後者なら神崎を使う……それだけだ」

 

 狂気に彩られた目は淡い緑色の球体を映しだていた。


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