第22話 近づく距離
あの寂しい晩御飯から解放された。
もとい、独り寂しくいつもの宿屋に帰ってきた。
やっぱり部屋は空いていたらしく、昨日のクエスト報酬の前金で支払う。
あの後は散々だった。
サーシャの事を気に入った冒険者たちに、散々文句を言われ、サーシャから見えない所では小突かれた。
これ以上はマズそうだなと思い、早々に逃げてきたところだ。
サーシャはまだ、祝勝会に残っているのだろう。
今日の主役はサーシャだし、あの感じだと、みんなから良くしてもらえるだろう。
――寂しいけど、サーシャがこの町が気に入ったのなら、ここに残る事も視野にいれ、俺は動かなければならない。
とはいえ、今日はさすがに疲れた。
魔法ストックも明日からやればいいし、サーシャがどうするのかも明日聞けばいいだろう。
ベッドの中に入り、もう居ない俺の友達の事を考える。
アイツ……禁忌魔法で、ジェネラルに進化したって書いてあったけど、人族の仕業かな?
――いや、人族だろうな~。
そこだけは俺、信頼しているよ。
と、人族の行いを考えていたら、眠りに落ちていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
サーシャは、神崎を探して走っていた。
気が付いたらギルド一階の酒場には居らず、周りの人に聞いたら、さあ?っていうかだれ?みたいな反応をされ、すぐにギルドを飛び出した。
(冒険者の皆さんの雰囲気がアレでしたので、この状態で神崎さんの下に行くのは良くないなと思い、自重していましたが、……いったいどこに行ったんですか!?)
冒険者の誰かに妬まれ害されているかもしれないし、あの雰囲気に怒ってサーシャを置いて旅立ってしまった可能性もある。
サーシャは気が気でなかった。
だからいつもなら、もう寝たかもしれないと考えれるのに、それに気が付くまで一時間ほど町中を走ってしまった。
それに気が付いて、すぐにいつもの宿屋に向かい、宿屋の主人に確認を取ったところ、
「あー、いつもの兄ちゃんなら、もう寝てるんじゃないか?」
一緒の部屋に泊まるなら鍵を出してくれるというので、一緒の部屋で構いませんと、宿の代金を払う。
あんた達ケンカでもしたのかい?と軽口を叩かれながら、部屋番号を教えてもらい鍵をもらった。
すぐに部屋に行った。
ギイっと音が鳴るなか、するりと部屋に侵入するサーシャ。
ベッドの上に神崎が居た。
神崎を見ると、幸せそうに寝ていた。
ふう、と彼の顔を見て安心した。
さっきまで気が気でなっただけに、普通に、目の前にいる事が嬉しく思う。
すると、
「ぐへへ、たわわさーん。そこは……むにゃむにゃ。」
神崎は幸せそうだった。
「……」
サーシャは無言でブーツを脱ぎ、ベッドの上に乗り神崎の顔を踏む。
ただただ無言で踏む。
「がふっ。な、なんだ、敵襲か!……っておい!いきなり何するんだよ!」
「土下座」
「いやまて、俺は何もしていない」
「――私に何も言わず、席を立ちましたよね?私、一時間ほど走って探したのですが」
「……」
正座をする主神、神崎徹。
「床」
「はい」
いつも通り、土下座中の頭に、ブーツを脱いだ足をあげふにっと後頭部を踏んだ。
「ただ今回は、その……私も周りの方々を、抑えれなかったのですみませんでした」
そういうとサーシャは、頭を足の裏で撫でた。
……いや、それご褒美じゃねーからな!
謝っている態度としてもおかしいし!
ただまあ、珍しく凹んでそうだから、今日は踏まれといてやろう。
今回だけだぞ!
ただ最後に、今日この部屋に泊まることになったので、そのまま床で寝てください。
と毛布だけ渡された。解せぬ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
宿屋の一階の食堂で、朝ご飯を食べながら今後どうするかを話す二人。
「一旦、冒険者ギルドに行って、サーシャの緊急クエスト分の、お金とか貰わなきゃね」
「そうですね。それ以降はどうしますか?」
ハムエッグをパンにのっけて、ハムハムするサーシャ。
「んだね。当初の予定通り、ドワーフ領に行こうかなと思う。もともとここに居たのも、自分たちの戦力がどれくらいか調べるのが目的だったし」
「そういえば、いろいろ実験しましたね」
思い出すと痛いよな~。
ナイフが手の平を貫通してるなんて、そうそう体験できることじゃない。
「一応俺らの戦力ってさ、Cランクぐらいはあるんだよね?ドワーフ領に旅立つ戦力としてはどうなの?」
「問題ないと思いますよ?私も今回の戦いで自信が付きましたし、神崎さんの魔法もジェネラル倒せるレベルなら、問題ないと思います」
「そうか、なら問題ないか。あ、そういやサーシャはこの都市に残るつもりはないの?」
びくりと肩を震わせ、不安そうな目でこちらを見る。
「あの、……私はここに残った方がいいですか?」
おずおずと尋ねてくる。
「あー……、いやいやサーシャが残りたいならアレだと思ったんだけど、俺としては付いて来てもらいたい」
一人旅は寂しいしね。と、肩をすくめる。
「でしたら、私の事は気にしないで下さい!わ、私は、今のところ神崎さんと旅をするのが目的ですので!」
その、世界を見て回ると言いますか……。何といいますか。
とごにょごにょ言っていた。
「そ、そうか、……じゃあこれからもよろしくね!」
と俺は手を差し出す。
「はい!」
とサーシャは握り返した。
サーシャと知り合って一カ月、やっと仲間になった気がする。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
朝飯を食べて、ドワーフ領に行くための準備をする。
ここからドワーフ領のミッドガルまでは、約一カ月の道のりだ。
道中は山を越え谷を越え、距離的にはそれほど離れてないのだが道のりは険しい。
ただ神崎にとって、ミッドガルに行くことは、最重要課題であるため行かないという選択肢はない。
さらに、ここでもたついていると冬になってしまって、行けるに行けない出るに出れないという可能性もあるらしい。
そのため、今日は出発の準備に当て、明日朝一でドワーフ領に向かう予定だ。
ただその準備も、予備のテントや防寒具、武器、多めの食料等をを買い込めばOKだ。
特にサーシャのガントレットは、何個か予備を買っていた。
今回の戦いで、ベコベコになったらしい。
昼ごろに準備が終わり、昼食を広場の屋台で頂く事にする。
朝食はパンだったので、いわゆる串焼きをほおばった。
広場の岩に二人で腰掛け、のんびりする。
「そういえば昨日はお疲れ様。サーシャのおかげで、村人全員無事だったらしいじゃん」
「いえ……。私は言われた事をこなしただけに過ぎません。むしろ神崎さんの方が褒め称えられるべきです」
「そう?つっても俺、魔法撃ってただけだからなー。」
しかも、自分の魔力を使っているわけでもないし……。
「神崎さんは、ギルドでジェネラル討伐を報告しないんですか?」
「ん?うーん。討伐証明するのがめんどくさいからな。アイテムボックスで運べばいいんだろうけど、どうやって運んだんだ?って言われるのがめんどい」
「ゴブリンジェネラルの討伐の報奨金と、死体を運べば、100万ギルは出ると思いますが……」
な、なんだと!?
俺の借金の五分の一が返せる計算じゃねーか!
まじか。
それを知っていれば、面倒くさからずに何とかしたのに……。
「そもそも、ご自身が神って事は内緒なんですか?」
「いやー……別に、絶対秘密ってわけじゃないんだけれど、有名になるってさ危険が増えるし、不自由になることが多いじゃん?デメリットのわりにメリットが少ないからな~」
有名になったり、権力者になったりすると、人を多く使える・情報が多く手に入る・お金が増える等のメリットがあるわけだけれど、今のところ必要としていないんだよね。
借金はあるけれど。
デメリットは、ただ有名というだけで命を狙う馬鹿もいるし、したくない権力争いに巻き込まれるかもしれないし、神として祀られたら身動きできなそうだしな。
「うん出来れば内緒だな。特に人族には内緒」
「それじゃあ、ジェネラルの件はしょうがないですかね」
「そういえば、俺の借金っていくらぐらいだっけ?」
「えーっと、杖が500万ギルで、それまでの借金が20万ぐらい?で今回が……540万ギル位ですかね?」
うん!首が回らなくなったら、寺でも作ってお賽銭で稼ごう!




