第20話 ゴブリン舞踏会 後編
一方そのころ、件の崖フィールドを抜け、草原を走っているサーシャ達は、ホブゴブリン共に追いつかれていた。
とは言え囲まれているわけではない。
ギリギリ、ケツに追いつかれた状況だ。
そして馬車に乗った人たちは、もうアルスメットに着いているはずである。
つまりアルスメットから、助けが向かって来ているのが見える。
だからサーシャは、頑張って走っている人たちにひと声かけた。
「あと少しです!後ろを向かず、助けの下に走ってください!」
それだけを言うと、サーシャは踵を返してもっとも近づいていた、ホブゴブリンの頭をメイスでたたき割る。
そのまま動きを止めることなく、向かってくるホブゴブリン達を叩き潰していく。
ホブゴブリン達にとって、やっと追いついた餌である。
しかもメスである。
近くまで追いかけていた、ほとんどのホブゴブリン達がサーシャを我先にと襲う。
メイスを右から左にに振るった後、その遠心力を利用し、左手のガントレットで、他の個体に裏拳を放ち、一撃のもとに屠る。
クルクルとコマのように回りながら、一撃必殺を絶え間なく放っていく。
弾丸のように突っ込み、右手で持ったメイスで突きを放ち、右手を引きながら左フックを放つ。
ここで少し足止めが出来れば村人は守れる。
そして、さっさと全滅させて、神崎さんのもとに行かなくてはっ!
サーシャはその一心で、死の舞踏を行う。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
事情を聞いた冒険者ギルドが、直ぐに緊急クエストを出した。
どれほどの事態かわからないが、ゴブリンとホブゴブリンが群れを成し、襲撃をかけた事は事実とし、アルスメットから最高戦力である、ギルドマスターと納品カウンターのクマさんが出動した。
「おら!EランクとDランクは、村人の保護を優先!その後、街に近づくゴミをやれ!Cランク以上とクマは殲滅に移れ!あの嬢ちゃんを助けるぞ!」
テンションマックスのギルドマスターが吠える!
ゴブリン種と言えど、ホブゴブリンは割と厄介な相手だ。
筋力が一般人と同じという事は小柄な分動きは素早くなる。
そんな奴らが、数百匹程群れて襲って来ているのである。
低ランクの冒険者は、数人で一匹を囲って仕留めるのが定石だ。
言われた通りみんなが動く。
元Aランク冒険者のギルドマスターは、戦斧を振り回しながら殲滅していく。
「おら!雑魚共が邪魔すんな!」
そしてギルドマスターと、数人の冒険者がサーシャの下にたどり着く。
「おい!大丈・・夫・・か?・・大丈夫そう、だな」
ギルドマスターと他の面々は、その光景に絶句する。
体中にホブゴブリン達の返り血をを付着させ、周りには何十体もの死体を作り上げている、鬼神のごとく、屠り続ける少女が居たら誰でも目が奪われる。
しかし、出来る男ギルドマスターは一味違う。
「よし、嬢ちゃんを起点に、左右に展開!一匹も通さねぇようにしろ!」
おう!と声が重なった。
サーシャは不思議な感覚だった。
今までこんな長時間、全力で動くことなんてなかった。
少しでも早く、効率的に、でも相手の攻撃は当たらないように。
体をどう動かせばいいのか?
どこに足を下ろせば転ばないで済むのか?
どうすれば、周りの人たちの邪魔をしないですむのか?
一瞬一瞬の判断が状況を作り上げる中、サーシャの戦闘技術はメキメキと上達していく。
今まで、本格的な戦闘をしたことがないサーシャにとって、ある意味初めての命のやり取りである。
獅子奮迅の戦いは、周りに人が集まって来ても終わることなく続いていく。
敵が居なくなるまでその舞踏は続いたのだ。
だからか・・村人たちを助けて、駆除に駆け付けたE~Dクラスの冒険者たちや、ギルドマスターやクマさん、ベテラン冒険者たちの、熱い視線に気が付かなかった。
そう、それは新たな”英雄”を見る視線だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方そのころ、サーシャが助けたい本命の男神崎徹である。
盛土の上に立ち、向かってくるゴブリン達を眺めている。
場所柄、牽制のボムを2発ほど放ち先頭の奴らのスピードを落とさせ、街道にどんどんゴブリンを集め渋滞させている。
左右は、崖の方からは来れないだろうし、林の方も、ちらほらと居るのは見えてるが、思惑通りほとんどのゴブリンが街道を通って来ている。
「成功するといいんだけどな~」
ありったけの風魔法を一つにまとめ、イメージは竜巻である。
そしてその中に、土魔法で細かい砂を入れボムをぶち込むという。
火災旋風と粉塵爆発的な物を、作ろうと画策する男、そう神崎徹である。
火災旋風は、温度が高くないと出来ないんだっけ?
上昇気流がうんたらかんたらとか……。
粉塵爆発は密室の方がいいんだっけ?
小麦粉下さい。
わからん……。
「まあダメなら逃げればいいか」
自分を納得させ実行に移る!
砂入り竜巻は上手くできた!
後はボムだけ。
火魔法中級も後5発だけしかない。
そのうち3発を放つ!
と同時に、盛土の裏に隠れ、さらに神聖魔法中級のバリアを張り巡らせ衝撃に備える!
すると、ボンというボムが爆発した音のすぐ後に、ボガッッンン!!っと爆発した。
衝撃波と、爆風で体が持ってかれそうになるのをなんとか耐える。
恐る恐る盛土から顔を出し確認する。
濛々と砂埃と煙が立ち込める中、30メートルほど先に火災旋風が居た。
火災旋風が、街道に居るゴブリン達を焼きながら進んで少し先で消えた。
「う、うむ。やり過ぎだな……」
目の前には、ゴブリン達のグロテスクな死体があった。
さらに、林の方は木々が爆風によって、同じ方向に倒れていた。
にしても爆発があったって事は、気流とかは一定方向のみに向かうわけだよね?
なんで火災旋風は消えてなかったんだろ?
爆発と同時に爆風で掻き消えるはずだよな。
――魔法だからか?
物理現象より魔法現象の方が、この世界では作用しやすいって事かな?
そいうやボムもなんで爆発しているんだろう?
わからん、まあ今はいいか……。
とりあえず、盛土にテレポートしどういう状況かを考える。
300から400ぐらいのゴブリンを倒したと思う。
正直、戦果としては十分であろう。
時間稼ぎも、多分うまくいったと思う。
だが不安なのが、ゴブリンジェネラルの存在だ。
どっかにいるはずなのに、一向に姿を見せない。
不気味だ。
俺だったらどうするかな?
とりあえず・・様子見でゴブリン達を仕掛けさせ相手の強さを調べる。
んで、強敵なら倒せそうな状況まで待つか、その状況にするか諦めるかだな。
ハッとして林の方を見る。
俺ならテレポートで逃げられ無い状況か、逃げる前に倒す!
なら、林の中を隠れながら近づく可能性が!
しかし、 ゴブリンが数匹怯えたように、少し離れた所で伺っているだけだった。
その時、頭に閃光が走る。
と、同時に右側の崖の上を見上げる!
そこには、憤怒に彩られた眼をした、大きなゴブリンらしきモノが居た。
そいつは、俺と目が合うと、息を吸い込み、
「グギャアーーーーーー!!」
と叫び、それと同時に俺と同じような背丈の、棍棒を振り上げながらジャンプして降りてきた!
一瞬体が硬直するが、とりあえずテレポートで距離を取る。
ズガン!
と、俺が居た盛り土が爆発したように消し飛んだ。
まじかよ……。
あれはダメだな。
当たったら死ぬ。
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名前 ジェネラルゴブリン
種族 ゴブリン
役割 なし
職種 なし
位階 32
筋力 475
体力 453
精神 128
知力 130
魔力 19
器用 178
不運 5
ゴブリン種の統べる者の一種。
身長は2メートルを超す。
体重は200キロを超す。
元はニット村周辺で育ったゴブリンである。
しかし禁忌魔術により、変異させられた。
現在、ゴブリンジェネラルを頂点たとしたコミュニティーを築いている。
邪魔な存在である、神崎徹に殺意を覚えている。
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うわ!神の加護使っても近距離じゃ勝てないな……。
俺より知力があるのも解せぬ。
脳筋なら脳筋らしく、そこは低くしとけよ!
問題はその知力の偏りだな。
ステータスの傾向で考えると、知識が多くても知力は上がる。
が、ゴブリンは、知識面では人に比べて少ないはずだ。
なら、その分の知力は、何に使われているのか?だよな……。
そりゃあ戦闘だろうよ。
先程からの俺の戦いは、見られていたと仮定しよう。
今まで使った戦い方は、通用しないと思った方がいい。
例えばテレポートで背後に回って、何かするのは予測されている。
ゴブリンに対して何度もやったからな。
まずは、神の加護をかけなおしてと……。
どうしよう?
足止めは十分出しな。
逃げるか。
でもなあ、コイツがアルスメットまで来たら、多分サーシャが相手をさせられる気がするんだよな。
ステータス的には余裕だろうけど、戦闘は素人みたいなこと言ってたし……。
そうすると戦闘特化の、こいつはキツそうだな。
とりあえず、やれるとこまでやってそれから逃げるか!
そうと決まれば魔法残高は……と、
火魔法中級×2・土魔法中級×6・雷魔法中級×2神聖魔法中級バリア×2
水と風は使い切った感じか。
ジェネラルは警戒してこちらを見ている。
とりあえず、不意打ちをすると見せかけたテレポート!
自分が今いた場所の、斜め後ろの位置にテレポートする。
すると、ブオォォンッ!と、こん棒自身の後ろに振り抜くジェネラルが居た。
うわぁ……マジで頭がいいというか、勘が鋭い奴というか……。
こっちを見たジェネラルと目が合った。
馬鹿にした様に、にやっと笑いやがった。
うざい!
何でゴブリン種が強敵感出してんだよ。
お前は俺のライバルか!
それとも強敵か!
ただ突っ込みをしていても良い策がでないな。
そうすると……作戦名どこぞの錬金術師アッパー!しかないか……。
はーと息を吐き、手順を考える。
あまり時間もないし、最後の神の加護もそろそろ切れるだろうし。
――やるか!
ジェネラルの真上、高さ20メートルほどの高さにテレポートする。
そしてすぐさま、雷魔法中級1発分を雷のように落とす!
ずんっ!という音と共に、ジェネラルの体がガクッと倒れ片膝をつく。
またテレポート行い、地面に帰ってくる。
そこは、距離にして20メートル程であろうか、たぶんゴブリンジェネラルなら一息で来れる距離である。
そこから、火魔法中級を両手で一発ずつ放つ。
すると、それを待ってましたと言わんばかりの感じで、ゴブリンジェネラルが、ラウチングスタートのように突っ込んでくる。
火魔法中級もといボムが着弾する前、飛んでいる状態をすれ違い、こん棒を振り上げながら雄叫びを上げている。
ヤバい!
という顔をしながら、某サーシャさんが足の裏で魔法をかけるように、俺も足の裏から土魔法中級を放つ!
やっぱり、雷魔法でダメージを受けた感を偽装してやがった!
もともと予想をしていたし、神の目は生きていることも、余裕なのも看破していた。
2発分を落とし穴に、残りをその落とし穴の淵から、どこぞの錬金術師の地面から生える手のように、直径70センチのドリルのような形で錬成する!
あっちは手を叩いて地面に触らないと発動しないけど、俺は立ってるだけでいけるもんね。
某サーシャさんのおかげです。
はい、馬鹿な事を言いました。
ゴブリンジェネラルが、丁度体重をかけようとしたところで落とし穴発動。
自分の体重と今動いていた運動エネルギーが体にかかり、すごい勢いで落とし穴の淵に向かっていく。そこに、強度と速さと重さをイメージしたドリルがカウンターのように顔面にヒットした。
ジュブルッ!!ドォン!
という、あまり聞きなれない音の後に、ドスンっと落とし穴の中にジェネラルが落ちた音がした。
確認の為、まずテレポートで落とし穴の上空に飛び、神の目を使い、ゴブリンジェネラルを見る。
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ゴブリンジェネラルの死体。
激闘の末、神崎徹に討ち取られた。
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あいつは武将か何かか。
まいいけどさ、と、テレポートを使い地面に戻る。
そしてゆっくり、落とし穴の淵から覗き込む。
「うわっ、グロイなー。頭どこ行ったんだよ」
ふーと溜息をつき。
今日は疲れたなと愚痴をこぼした。




