1 淑女の鑑 イザベラ
学園の放課後、エマは帰り支度をしていた。今日はノアと一緒に城下街でおやつを食べる約束であった。いつぞやの借金返済詫びタルトである。
「いちご!いちごのタルト~!」エマはうきうきで廊下をスキップしていた。
「いいか、僕が金を出すのは3ピースまでだからな」と横にいたノアが呆れた顔で言った。
「わかってるよ!待っててね、私のいちごタルト!!」
エマが駆け出そうとした、その瞬間
「ちょっと、そこの貴女」
高貴な女性の声に呼び止められた。
エマが振り向くとそこにはイザベラ・オルタンシアが立っていた。
彼女はオルタンシア公爵家の娘で、この国の第二王子、アルベールの婚約者でもある。
薔薇のように美しく気高い存在はこのハートフル学園でも一目置かれる存在だ。
幼少期からその身分にふさわしい教養を叩き込まれたイザベラはまさに、淑女の鑑ともいえる人物であった。ただ一つ、化粧でうまく隠しているが目の下には隈が出来ていた。
ノアとエマよりも一つ上の学年であり、普段はほとんど接点がない。
一体何の用なのだろうか。
「オルタンシアが公爵の娘、イザベラですわ
貴女が特待生のエマさんよね。少々お時間よろしいかしら?」
イザベラは疑問形で尋ねたが、エマに断る選択肢がないのは自明である。
「は、はい。もちろんでございまする。ど、どのようなご用件でいらっしゃいますでしょうか」
エマはがちがちに緊張してなんとか返事をした。
先ほどまでの浮かれた様子はどこへやら、残像が見えそうなほど小刻みに震えている。
「すこし貴女にお話したいことがございますの。そう緊張せず、わたくしのお茶の相手になっていただけると嬉しいのだけど」
「光栄でございます!」
エマが見たこともない直角のお辞儀をしながら叫んだ。
その様子を見たノアは「おい、大丈夫かよ」とぽつりと漏らした。
その声がイザベラに届いたのか、今度はノアに声をかけてきた
「あら、貴方は確かノア・キンバリーさんね。いつもお父様にお世話になっているわ」
ノアの実家は商家である。父親が経営する商会では、貴族向けのドレスや宝石なども扱っている。
「至極恐悦に存じます。今後とも変わらぬご高配を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。」
ビシッと姿勢を正したノアがよどみなく答えた。これでも一応男爵家の令息である。
「イザベラ様、失礼を承知で申し上げますが彼女は茶会のしきたりなどには疎くてですね」
「うふふふ。貴方、エマさんが心配なのね。本当は二人で女子会をしようと思ったのだけれど、騎士がいるなら一緒に来ていただかなければいけないわ」
「えっと、僕もですか」
イザベラの計らいで、どういうわけか三人でお茶をすることになったのである。




