7 真実の愛…??
翌日、エマはげっそりした顔でノアに文句を言いに行った。
「おはよう、ノア。あなたのせいで私全く眠れなかったのよ!!」
「あぁ、おはよう。無事に来られたんだね。よかった」
ノアはエマの抗議を気にも留めずマイペースに言い放った。
「今日はきっと面白いことになるからね。欠席などもったいない」
「どういうこと?」
「どういうことも何もないだろ。シルスにこれをつきつけるんだよ。」
ノアは昨日やっとの思いで手に入れたシルスの借用書を見せた。
「そーだ!ポーカーの印象ですっかり忘れてた。私たちこのために頑張ったんだった」
エマが思い出したように手をポンと打った。
「全く、この調子で心配になるね」
ノアが呆れた表情を見せながら言った。
「シルスさんが一人でいる時を狙った方がいいんじゃないかしら」
「ああ。そうだな」
「お昼休みが決行の時間だ」
「わかったわ」
お昼休みの時間になった。
エマとノアは中庭を一人で歩くシルスを見つけると、一目散に駆け寄った。
シルスは怪訝な顔をしていたがノアが借用書を広げて見せると、真っ青な顔でぶるぶる震え出した。
エマが「フローラさんとお金のために結婚するって本当なの?あんなに情熱的な告白だったのに。真実の愛は嘘だったのね!」と言った。
するとシルスの顔から普段のの余裕な笑みは消え、代わりにあくどい表情を浮かべた。
「仕方がないだろう!!俺には金が必要だったからな!!」吐き捨てるようにシルスは言った。
「賭けポーカーで留学資金全部スっちまうし、ちょっと金を借りたらあの借金取りがしつこいんだよ、家に金をせびるにも従者にしつこく問いただされてポーカーのことがばれたら一巻の終わりだっつーの」
「そうしなくても一巻の終わりかも…」
気まずそうにエマがシルスの後ろを指さすとなんとそこにはフローラ嬢が目に涙を浮かべて立っていた。
シルスの独白の一部始終を聞いてしまったようである。
「ひどいわ、わたくしの心をもてあそぶなんて!わたくし、あなたとならもう一度…」
フローラは顔を手で覆い、その場に崩れ落ちてしまった。
そのタイミングを見計らったかのようにコツコツとヒールの音が鳴り響いた。一組の男女が嘆くフローラの前に姿を現した。崩れ落ちたフローラを上から見下すかのように。
その男女は、真実の愛に目覚めた元婚約者のエリックとその相手であるミアだった。
「あはは、ざまあないわね。フローラ・メイフィールド。エリック様と私は幸せになるわ。あなたの分まで、ね」
思いっきり勝ち誇ったような顔でミアはフローラに言った。
そのとき、中庭に新聞部の生徒が駆け込んできた。
「号外だ!!!」
新聞部の生徒は記事をばらまくとすぐに颯爽と走っていった。
その記事を見ると
「ソワレス氏、多額の借金発覚。貴族籍剥奪も秒読みか」という文言が一面を飾っていた。ミアの顔が真っ青に変わり、エリックはわなわなと震え出した。
「え、あの号外。もしかしてリークしたの…」
エマが恐る恐るノアを指さすと
「ほら、僕ってうっかりしているから新聞部の部室近くであの紙を落としてしまったみたいだ」ノアは平然とした顔で言った。
「うっかりってねえ!あなた」
エマが呆れているとミアの叫び声が聞こえた。
「嘘よ。こんなの信じないわ!お父様に確認しなくちゃ!!そこをどいて!!」
ミアがざわつく周囲の生徒たちを押しのけて進もうとしたとき、ソワレス家の従者が手紙を持ってきた。どうやらソワレス家の屋敷に差し押さえが入ったらしい。
新聞部の記事が本当だと分かるや否やエリックは声高に叫んだ。
「ミア、お前はもはや貴族令嬢ではない。お前との婚約を破棄する!!そしてフローラ、もう一度俺と婚約しなおそう」
エリックは泣き崩れていたフローラに騎士のように手を差し伸べた。ミアは様々なショックが重なりすぎてふらっとその場に倒れてしまった。
エリックから婚約の再申し込みを受けたフローラ嬢はというと、誰が見ても分かる嫌そうな顔で
「は?なしに決まってるでしょ、お前みたいな筋肉ゴリラ。私は王子様のような顔のいい人が好きなのよ。」とぴしゃりと言い切った。
そして今度はシルスの方へと笑みを向けた。
「シルス、あなたがお金のために私と結婚したのは分かったわ。上等よ。浮気さえしなければ何でもいいわ。借金も肩代わりしてあげる」
途方に暮れていたシルスにはこのフローラの微笑みが天使のように見えていた。
「本当かい…?フローラ。ようやく見つけたよ、君こそが真実の愛だ!!」シルスはフローラを思いっきり抱き寄せた。
フローラにこっぴどく振られたエリックはがっくりうなだれその場にうずくまってしまった。大男なのにしくしく泣いている。ミアは気絶したまま起きてこない。
すぐ横では、シルスとフローラが完全に二人の世界に入ってしまっている。
「うわあ、なんかもうぐちゃぐちゃだぁ」
「地獄みたいな有様だな」
自分たちが元凶だというのにエマとノアは収拾のつかない状態にドン引きしていた。
この騒動からしばらくの間、ハートフル学園では真実の愛という語が禁句となったのである。




