5 絶対ゆるさない
リリアーナがこの学園に転入してきた翌日の放課後、
エマはリリアーナに呼び止められた。
ほとんどの生徒は下校していたが、エマは図書館で調べ物をしているところだった。
「ねえ、たしかあなたはエマさん?でしたよね」
「はい、なんでしょう!」
「あなた、私とキャラが被っているっていう自覚ある?」
「へ…………?」
「だから、同じクラスにピンク頭が二人いたらヒロインの特別感が薄れるでしょ、目立つのは私一人でいいのよ。ねえあなた違うクラスに行きなさいよ」
「それは無理です。だってクラスは一応成績順で決まってて…………それに」
「………ああ、“平民の”特待生さんはクラスが落ちたら退学になっちゃうんだっけ。まあそっちの方がいいかもね。自分が身の程知らずだってことそろそろ分かってきたでしょ」
「…………。」
いつもノアと言い合いをしているときの威勢のよさはどこへ行ったのか、エマはリリアーナに何も言い返すことが出来なかった。確かに周りのきらびやかさに自分がついていけていないことに心当たりがあったからだ。イザベラに話しかけられた時だって、エマは緊張でうまく話せなかった。
気がつけば一刻も早くリリアーナから離れようと足が動いていた。廊下を走っているうちにだんだん目頭が熱くなって視界がぼやけてきた。
悔しい、悔しい。
何も言い返せない自分が悔しい。
こぼれた涙を袖でぬぐったその時。
ドンッ!!
「あ、ごめんなさい。私、ちゃんと前を見ていなくて」
「本当に。廊下は走らないように、という文言はこういう時のためにあるんだろうな」
聞き覚えのある声に、聴き馴染みのある皮肉。目の前にはノアが立っていた。
「ノアどうして………ここに?…お家に帰ったんじゃなかったの?」
「忘れ物をしたから取りに帰ってきた。それよりなんで泣いてるの?」
初めてエマが泣いているところを見たのかノアは少し動揺していた。
「…………。」エマは唇をかんでうつむいた。
「いつものエマらしくないぞ。何かあったのか?」
「………わああああああん!聞いてよノア!!転校生の子がさ!!!」エマは思いっきり泣き叫んだ。
エマはノアにおそらくリリアーナがイザベラの恐れていたヒロインであることと、彼女の言葉に傷ついたことを話した。ノアはいつもなら口うるさく茶々を入れるのにこの時ばかりは黙ってエマの話を聞いていた。
あまりにも泣きじゃくるエマに対してノアは「おい、ハンカチは?」と聞いた。
エマはハンカチを持ってくるのをよく忘れる。この日も例外ではなかった。
「え?持ってない?お前トイレの後自然乾燥かよ」とあきれつつ自身のポケットからハンカチを取り出してエマの涙をぬぐった。
「いいか、エマ。言い返せなくて悔しい思いをしたのなら、それをバネにあの女に一泡吹かせてやろうぜ」ノアは悪い顔をしていた。
「…………どうやって?」
「簡単なことさ。あの女が生徒会に入りたがっているらしいから、それを邪魔してやるんだよ」




