3 わたくしは悪役令嬢(side イザベラ)
私の初恋は、アルベール様。
だって今でもアルベール様と初めて会った時のことを鮮明に思い出せる。
あれはおそらく私が5歳の時。王宮のお茶会に両親と出席した時の事だった。当時の私は、貴族令嬢と呼ぶにはかなりのじゃじゃ馬でしょっちゅう寄り道をしていたの。
その時も花壇のきれいな花に目を奪われて色々見ているうちに、お茶会の会場から離れた場所で迷ってしまった。
途方に暮れていると、植込みから人の足が見えた。
誰か倒れているのかも!と思い、かけよるとそこには同い年くらいの少年が寝そべっていた。
「だ、だいじょうぶですの?ぐあいがわるいのでしたら人をよんできます」
自分が道に迷っているのについ、そう声をかけてしまった。
「だいじょうぶ。ぼくね、いまキラキラ石をあつめてるだけだから」
男の子はのんびりした様子でそう答えた。
「キラキラいし……?」
「みて、ここ」
男の子に手招きされて石をじっと見つめた。
「ちょっとだけ光ってるでしょ。もっとちかくでみてもいいよ」
そう言われて男の子と同じように寝そべって石に顔を寄せてみると、色とりどりに石がきらめいて見えた。
「わあ!すごい!!きれい!!」
横を向くと思ったよりも近くに男の子の顔があった。少し気恥ずかしくて私は目をそらしてしまったけれど、その男の子は
「ね!!きれいだよね!!」
とあふれんばかりの笑顔で言った。
それから「あとね、こっちのもいいんだよ」と男の子は私にコレクションを色々見せてくれた。その様子が何だかとっても愛らしく、私は気がつけばずっと男の子のことを見つめてしまっていた。
なんだかゆっくりと穏やかに流れていく時間がとても心地よかった。
別れ際に、彼は自分のことをアルベールと名乗った。何となくだけど名乗ることを恐れているようにも見えた。
家に帰って両親に、アルベールという男の子と遊んで楽しかったという話をした。
両親は目を見開いて驚いていた。
「アルベールってあの?」
「こ。これはイザベラが王子妃に据えられる可能性がでてきたぞ……」
お父様は複雑そうな顔で言った。これ以上オルタンシア家が勢力を持てば貴族の力関係が崩れてしまう。お父様は、王子妃が侯爵位あたりの娘から選ばれるのだとばかり考えていたみたい。
「アルベールとけっこんしちゃ、だめなの?」
幼い私は政治のことなどは何も気にせずに無邪気に両親に尋ねた。
お母さまは優しく私にこう言った。
「イザベラの幸せが一番だと思っているわ。でもね、王家に嫁ぐということは簡単なことではないのよ」
「たいへん………?でもイザベラはアルベールといっしょがいいよ」
この人の隣で生きていきたい。
幼いながらにその気持ちははっきりとした輪郭を持っていた。
私の強い意志と、王家からの意向もあって話はとんとん拍子に進んだ。
お母様と王妃様は親しいからというのもあるのだろう。
アルベールも少しは私の事好きでいてくれたのかな?なんて期待をしたけれど気恥ずかしくて本人には聞けなかった。
それからしばらくして王子妃の教育が始まった。
もともと勉強なんかまったく好きじゃなかった。
本を読むよりも外で木の実を拾う方が好きだった。
礼儀もダンスも何度も先生に怒られた。
それでもわたくしはアルベール様と共に未来を歩みたい。
そう思ったから頑張れた。
それなのに…。
私には前世の記憶がある。最初にそう気が付いたのは、数か月前のことだ。
今となっては、ぼんやりとしか思い出せないけれど、
その世界には乙女ゲームというものがあった。
主人公の女性が貴族の学園に入学して、様々な男性と恋物語を楽しむといった内容の話だった。
そして決まって出てくるのは悪役令嬢。
主人公の恋を邪魔して最後には断罪されて処刑される。
悪役令嬢の見た目は私にそっくりだった。
その前世の記憶は夢となって毎晩私の脳内に現れる。
アルベール様がピンクの髪の毛をした女性に微笑みかけ、私のことを「裏切者」と罵る。
私が断頭台に連れていかれてギロチンで首をはねられるその少し手前で目が覚める。
その悪夢のせいで、最近はぐっすりと寝られた試しがない。
まるで私が死ぬことがあらかじめ決められているみたいだった。
ああ、私はアルベール様と一緒には生きられないんだ。
そう思った途端、自分の中の何かが壊れる音がした。




